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58. 醜聞 ①
しおりを挟むあの二人から来た絵葉書は、恐らく消印が押された街を特定出来ないように、他国に行く人にでも頼んで出してもらったのだろう。
少なくとも、安全を考慮しているようで良かったと思う。
その後の私はというと、何故かお茶会をしている。
と言っても、いつもの女子会ではなく、アルベルトとである。
「何で?!」
他人が見たら、そう思われる事間違い無し。なこの状況…。
切欠は、フリッツとサンドラの件で、便宜を図ってもらった事だった。
彼らが国外に出て、落ち着いた頃ぐらいから頻りに、
「いや―あの時は苦労したんだよね。」
とか、
「大変だったんだから、労って欲しいよね。」
などと宣う。
あまりにも煩いので、一度労えば静かになると思ったのが運の尽き、未だに労わされている。
…と言いながらも、彼とのお茶の時間は、結構気に入ってたりする。
でも、婚約を解消した二人が、未だにこんな風に交流しているのは、あまりいい事ではなかった。
後日、メイウェザー侯爵夫人が開いたお茶会で、それは起こった。
エヴァも参加していたので、一緒に学園時代の友人達と会話していた所へ、クラウディアが取り巻きを引き連れて来た。
「フランドール嬢…あなたは酷い人です!」
「へ?」
「やっと…やっとアルベルト様が、お姉様を喪った悲しみから私がお救いして……その心の傷を癒した私を愛するようになって下さったと言うのに……。何故、愛し合うアルベルト様と私の邪魔ばかりなさるの?酷いですわ!!」
いきなり何を言われたのかわからないままの私を置き去りに、更に分からない事を言って、泣き崩れるクラウディア。
取り巻きの令嬢達が、泣き崩れる彼女を支えながら、口々に、
「酷いですわ!」、「お邪魔虫!」、「悪女!」等々、思い付く限りの言葉で私を非難する。
誰が何をどうしたって?
「しらばっくれないで下さい!色々な事件の事後処理で忙しかったあの方を、王宮まで押し掛けて……。私に会わせないようにしていたのは、分かっていますのよ!」
「「「「 まぁ、なんて酷い!」」」」
「しかも、それが終わった後も、公爵邸に押し掛けたり、伯爵邸に呼びつけたり…。私が、アルベルト様にお会いする事も出来ずに胸を痛めているのを知りながら……。酷いですわ!」
「「「「 全く、その通り、酷い女ですわ!」」」」
『 一体全体、何の茶番劇なんでしょうか?』
私が何か言っても、火に油を注ぐだけなので黙っていたが…。
エヴァや友人達も援護射撃してくれたものの、こういった場面が苦手な私は戸惑うばかりだった。勿論、顔には出さないように気を付けてはいる。
が、クラウディアだけではない。彼女と同じように、私が邪魔な令嬢達や妙齢のご婦人方は多い。
やっと婚約を解消した邪魔者が、再び公爵閣下の隣に立とうとしているのだから、面白い訳が無い。
野次馬がどんどん増えていく中、弱々しく涙を流し、取り巻き達に支えられるクラウディアと、これ以上何を言っても、相手を苛めて泣かせているようにしか見えないから、沈黙するしかない私達…。
唯一、この場を治める事が出来る人は、ここに居ない。
万事休す
そう思った時、凛とした声が響き渡る。
「あら、何の騒ぎかと思えば…。あなたでしたのね、クラウディア嬢。」
皆が一斉に礼をする。
「…にしても、相変わらず頭の中のお花畑の花は満開ですのね。」
クラウディアの顔が一瞬、屈辱で歪む。が、すぐに弱々しく俯き、
「いくらユークリッド様と雖も、あんまりですわ。」
扇をバサリと広げ、口元を隠すように構えて、眼を眇める。
たじろぐクラウディアに分かり易く、ゆっくり、はっきり告げた。
「王宮に来ていたのはフランドール嬢だけではありませんわ。そこに居るエヴァンジェリン嬢も来ていましたわよ。勿論、事後処理関係の書類や資料を纏める為です。そんな忙しい最中に、男に色目を使う間など無くってよ。」
とうとう、堪えきれなくなったのか、クラウディアの弱々しく装っていた顔が、怒りに歪んでいる。
茶番劇が終わると、野次馬達も何時の間にやら消えていた。
それに気づいたクラウディアは、取り巻きの令嬢達と逃げるように去って行った。
けれど、この事が切欠で、フランに関するあり得ない噂が流れる事になった。
ただでさえ、醜聞に眼がない社交界。どんどん噂は広がっていった。勿論、良くない方に…。
ある夫人曰く、
「愛し合う公爵閣下とクラウディアの婚約を邪魔する悪女。」
ある令嬢曰く、
「婚約者や恋人、夫がいる男を、軒並み食らい尽くす肉食女。」
ある令息曰く、
「仮面舞踏会の常連で、複数プレイ好きの酒池肉林女。」
等々、次から次に、破廉恥でふしだらな噂が一人歩きしてしまう。
そして私は謹慎中。
僅か数日で、こんな事になるなんて…。
そんな私の眼の前には、今、一番会うべきではない人、でも、この状況を覆せる唯一人の人がいる。
「もっと早くこうしていれば良かったんだ。だから、俺に対して罪悪感なんて持たないでくれ。」
私の眼を見ながら、真剣な表情で言ってくれているのは分かっている。
けれど、本当に愛している人がいる事も分かっている。
そんなアルベルトに、再度、私と婚約させるという迷惑を掛けてしまい、申し訳無さでいっぱいだった。
~~~~~
*名前を間違えていたので修正しました。
クリスティーン→クラウディア
*誤字脱字報告して下さり、ありがとうございました!
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