悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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57. 答え ②

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*今話は、登場人物の不謹慎な発言が多いです。
(茶化した物から毒舌的な物まで)
なので、苦手な方は全力で回避して下さい。読まれる方は自己責任でお願いいたします。


~~~~~
 

    私はサンドラとフリッツが面会する時、立ち会わなかった。
    アルベルトにも、なるべく二人だけで話せるように頼んだ。

    けど、やっぱり二人だけというのは、許可されなくて、部屋の隅に立ち会い人が居たらしい。
    まぁ、こればっかりは仕方ない事なのだけど…。

    だから、彼らの間にどんな遣り取りがあって、サンドラがどんな答えを出したのか知らない。
    二人が考えて出した答えに、私が何か言えるものでもないから。

    そして、どんな内容になったのかわからないけど、ユークリッド様から出された妥協案をフリッツが飲んだと聞いた。

    近い内に、彼が南のサウスパーム王国に移送されるだろう事も…。

    サンドラは、フリッツに面会した日から、部屋に籠ったまま。

    とは言っても、食事を運ぶ侍女達とは顔を合わせているから、様子は聞いている。

    取り敢えず、食事はきちんと取っているらしいから大丈夫だとは思うけど、何か変化があったらすぐに知らせるように、執事や侍女達にお願いした。

    両親には、私からも話をした。

    けれど、私達は最後まで彼らに振り回される事になるとは思ってもみなかった。


~~~~~


 ━  1ヶ月後  ━

    深夜、フリッツの身柄がサウスパーム王国に移送される事になった。

    移住先の邸の警備体制も、考えられる中では万全だと思われた。
    後は、フリッツが移り住むだけの状態である。

    そして、彼が受け取った報酬金額は、この先働かなくとも十分暮らしていけるだけの金額だった。

    だから、この先の事は彼が考えて生きていくしかないのだ。

    結局、サンドラはフリッツに付いて行かない事にしたらしい。

    私は物陰から見送る事にした。別れはあの時に言ったから。

    馬車に乗り込む彼の背中が、寂し気に見えたのは、きっと気の所為だろう。

    そして、彼が馬車に乗り込んだのを見届けた私は厩舎へと急いだ。
    自分の馬に乗ると、邸に駆け戻った。

「全く、最後まで世話を焼かせるんだから。」

    誰に言うともなく言った。

    邸に着いた私は、執事にサンドラの馬を玄関前に回すように指示すると、彼女の部屋へ向かう。

    扉をノックしても返事が無い。2回、3回としたが、やはり返事が無かった。

「時間が無いのよ!時間がッ!!」

    言うと同時に扉を蹴破った。

    ドッバキャッ!!

「ちょっと!何て事してくれるのよ!!」

    部屋の中からサンドラが喚いた。が、それに対して返事などせず、

「さっさと着替えなさい!」

    侍女達に言って、彼女を乗馬服に着替えさせる。勿論、派手じゃない物に。
    当然、髪は邪魔にならないように、纏めて結い上げさせた。

    それが終わると、彼女の手を引いて玄関に向かった。

「急ぐから、さっさと乗りなさい!」

    有無を言わさずに追走させる。

    実は、ユークリッド様から、移送ルートを教えてもらっていた。
    そして、合流地点で合流する為に馬を走らせていたのだ。

    向こうは馬車だから、馬の私達の方が速い。
合流地点には十分間に合う時間に着いた。

    サンドラは不機嫌さを隠そうともせずに、ブツブツ文句を言っている。

「いい加減、自分に嘘つくの止めたら?」
「なっ、何よ!」
「疾っくに知っているのよ。」
「何を?あなたが、私の何を知っているって言うのよ!」
「サンドラ、あなたが私の物を欲しがるのが酷くなったのって…4年前にフリッツの戦死通知が来てからだったわよね。」

    彼女の顔が泣きそうに歪む。やっぱり、そうだったんだと思った。

「彼を喪って、私が幸せになるのが許せなかったんでしょ?違う?」

    彼女の眼から涙が溢れたら。

「だったら、どうだって言うのよ!当たり前でしょ!彼を喪った私の眼の前で、あなたの幸せな姿を見せつけられるなんて真っ平よ!!」

    やれやれと思い、溜め息が出る。

「だったら……そこまでフリッツの事を好きなくせに、何で一緒に行かないのよ。後悔して泣くくせに…。」
「だ、だって仕方ないじゃない……一緒に行くって言ったら…無理だって……幸せに出来ないから…連れて行けないって彼が………。」

    とうとう堪えきれなくなって、顔をくしゃくしゃにして泣き出した。

    サンドラを抱き寄せ、背中をトントンと軽く叩きながら宥めた。

「なら、付いて行けばいいのよ。後悔しないようにって言ったでしょ。」

    彼女が顔を上げて言った。

「…いい…の?ほん…と…?本当に?」

    頷くと、腰に付けていた剣帯を短剣ごと外し、彼女の腰に着けた。

    剣帯に付けているポーチを開けて、中から巾着を取り出した。

「これは、何かあった時にお金に替えればいいから…。」

    中に入っている宝石を見せた。

「いいの?」
「いいわよ。お餞別だから。」

    サンドラがまた泣きながら抱きついてきた。

「ご、ごめんなさい。お義姉様。今まで…ごめんなさい。」

    体を離して、ハンカチで涙を拭いてあげた。

「さ、そろそろ来ると思うから、泣き止んで。」
「…ん。」

    遠くに馬車が見えた。どんどん近付いてくる。

    別れの時が迫る。

    急に馬車が止まった事に驚いた彼が、窓から覗いた。
    サンドラが居たのが分かった彼が降りてきた。

「サンドラ!」
「フリッツ!」

    互いに駆け寄り、抱き合う二人。

「フリッツ、義妹を置いて行くなんて、私が許さないわよ!」
「けど…俺は…。」
「けどじゃないわよ。力を合わせて幸せになりなさい。」
「すまない…。」

    そう言って項垂れる彼に、サンドラが飛び付く。そして、首に腕を回すと牡蠣のようにへばりついた。

「イヤです!離れません!!絶対付いていきます~ッ!!」
「…だそうだ。良かったな、色男。」
「んなッ?!お、おいっ!ちよっ…待て!」

    面倒臭そうなので、二人纏めて馬車に押し込んだ。

「じゃ、後はよろしく。」

    そう前に向かって言うと、御者は親指を立てて見せた。

    馬に軽く鞭を入れると、馬車は動き出した。
    それを見送った後、邸へ戻った。

    後日、差出人の無い絵葉書が届いた。そこには3匹の親子のような猫の絵が描かれてあった。

「…そっか…(リア充吹っ飛べ)」

    まぁ、何はともあれ、幸せそうで何よりだ。







    


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