悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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56. 答え ①

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    尖塔を降りて、執務室に戻る途中でクリスが待ち構えていた。

    結果を言うと、

「それだけだったのですか?」
「ええ。たったそれだけ…。」
「ありがとうございました。でも、彼は何がしたかったんでしょうか…?」

    私には少し心当たりがあったけど、分からないふりをして肩を竦めた。

    そして、事後処理も終わり、仕事も無いのでそのまま帰ってもいいと言われて邸に帰った。


    久しぶりに仮眠室のベッドではなく、自分のベッドで眠れる。何より、シャワーじゃなくてバスタブに入れる。お気に入りのカモミールの香りの香油をお湯に入れ、その中に体を浸ける。

「ん~!最高~っ!!」

    お陰で、バスタブで居眠りして溺れかけた…。
    私が長風呂で出てこないのを心配したミリィが様子を見に来なかったら、そのまま……だったと思う。

    ミリィから説教を受けるも、王宮に泊まり込みでの事後処理で疲労困憊だった私は、途中から記憶が無い。

    泥のように眠った私が目覚めた時には、次の日の昼を過ぎていた。

    ミリィに昨日の事を謝り、部屋で食事を取った後、サンドラの部屋へ向かう。

    起きてからも考えていた。昨日のフリッツとした話を…。
    彼は単に、サンドラに会いたいだけではないと思う。女に手を上げるようなクズだけど、サンドラに対しては本気だったとのだろう。

    義妹に手を上げてるの見た事無いし…。

    サンドラの方は、どうだったか分からない。フリッツに本気だったのか、(私の物を欲しがり、取り上げる)遊びだったのか。

    ただ、最近妙に静かなのが気になる。何を考えているのか、何も考えていないのか。

    思い悩んでも仕方ない。その答えはこの後出ると思ってはいる。

    扉をノックした。

    と、勢いよく扉が開いた。

「ご機嫌如何?そんな事より、いつも言っているけど、返事が先でしょ?それをいきなり開けるなんて…。」
「う、煩いわね!何か用?」

    やはり、いつもの鋭さというか、尖った感じが無い…。
    取り調べの時に何かあったのだろうか?

「ちょっと話があって…。お邪魔していいかしら?」
「お・こ・と・わ・り!!あんたと話す事なんて無いわよ!」

    バタンッ!!

    いきなり眼の前で閉まる扉。

「ふ~ん。いいのかしら。フリッツから頼まれた事が…。」

    今度は勢いよく扉が開いた。
    期待に満ちた表情で私を見るサンドラ。

「  ………。」

    呆気にとられ、言葉も出なかった。

「何よ!早く言いなさいよ!」
「やだ。」
「んなッ!?」
「ふふふ。いいのかしら~?こんな時、何て言うのかしら?」

    憎々し気に歪む表情。
    いつもいつも、やられっぱなしも悔しいので、ちょっとお返し。
    まるで悪役令嬢だわ。

「お、お願いしますわ。教えて下さい。」

    睨み付けながら言われましても…ねぇ。

「まぁ、いいわ。中に入ってもよろしくて?」

    何も言わずに扉を全開にする。

「 …… 。」

    いや、だから入ってもいいのか、駄目なのかはっきり言ってくれないと…。と思っていたら、

「さっさと入りなさいよ!」

   それならそうと、早く言ってくれればいいのに…。

    サンドラ付きの侍女がお茶を入れ、下がった。

「で?」
「…で?とは…?」

    何が「で?」なのか分からないから、答えようがない。

「もう!フリッツの事に決まってるでしょ!」

    最初から素直にそう言えばいいのに…。

「サンドラも知っているみたいだけど、今は貴族牢に収監されているわ。それで、昨日面会したんだけど、サンドラに会わせて欲しいんですって。」 
「私も会いたいけど、どうすれば会えるの?」

    ここではっきり言っておかないと…。

「あなたが会いたいからって、すぐに会える訳じゃないの。先ずは、申請をしてからになるわ。その上で、誰か立ち会いの下での面会になると思うわ。そして、彼と会うのはそれが最後になると思う。」
「…そんな…。彼は処刑されてしまうの?」

    恐らく、取り引きをした彼はされる事は無いだろう。
    条件の中に“身の安全”というのが入っている以上、それは無い。

    けど、その“身の安全”というのが一番厄介で難しい。
    4年前の件でこの国の遺族達から恨みを買っている。
    それに、厄介者扱いされていた隣国、アッティラ帝国にとっては生きていて欲しくない存在だから。

    その事をサンドラには、言っておいた方がいいと判断した。

「恐らく、情報と引き換えに処刑される事は無いと思うわ。けど、彼は恨みを買いすぎた。沢山の人達から命を狙われる事になるでしょう。どれだけ護衛を付けて彼の命を護ろうとしても…一生、命の危険が付き纏う。だから、最後になるかもしれなくてもあなたに会いたいと思ったのよ。」

    顔色を失くし、小刻みに肩を震わせるサンドラの眼に涙が溢れてくる。

「だから…会うならそれなりに覚悟してね。そして、後悔しないように、よく考えて。」

    そう言って、部屋を出た。
    言うべき事は言った。後はサンドラが如何するか考えて、答えを出すだけ…。

    そう、フリッツがあの時私に頼んだのは、単にサンドラと面会する事ではなく、如何するかが欲しい。という意味だったと思う。

    サンドラと会うのが最後になるか、フリッツに最後まで付き合うのか…。

『しっかり考えて決めてね。』

   私が二人の為に出来るのはこれだけだった。



    
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