悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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52. 断罪 ①

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*少し長いですが、2話に分けられなかったのでそのまま投稿しています。
*言葉使いの悪い登場人物が出てきます。
苦手な方は全力で回避して下さい。読まれる方は自己責任でお願いいたします。


~~~~~


━救出後・王宮内広間━

    後ろ手に拘束され、跪かされている兄上。父上は苦虫を噛み潰したような顔でそれを見ている。

    この後の状況如何いかんでは、国王といえども、兄上と連座させねばならない。

    今はまだ玉座に座っている父上いや、国王が審判が終わった後も玉座にいるとは限らない。

    王妃である母上は、元兄上が捕縛されたと聞いて倒れた為、この場には居ない。が、彼女は一連の事件に一切関わっていない事が分かっている。

    そして、王太子妃であるが、王太子の廃嫡が決定している為、元王太子妃となった。
    勿論、彼女も倒れた為、この場にいない。

    元王太子と彼女の間に生まれた子供(男児・1才)は、引き離され離宮に隔離されている。

    残念ながら、彼女は一連の事件に関わってしまっている。どの程度か詳細は調査中である為、拘束はされていない。が、部屋の入り口には騎士が立ち、面会も制限されているから、事実上は軟禁状態である。

    そして、一連の事件に隣国の関与が明らかになっただけでなく、戦闘準備に入ったと国境から報告があった。

    という訳で、不本意ではあるが、可及的速やかにこの件を処理しなければならなくなった。

    国王の側近が何か耳打ちをしている。恐らく、アルベルトが来たのだろう。

「入れ。」

    国王が告げ、扉が開いてそこに現れたのは、予想通りアルベルト・ヨーゼフ・フォイエルバッハ公爵だった。

    フランは邸に置いてきたのだろう。

「遅れてしまい、申し訳ありません。」

「○X△□♭#◇☆!!」
「大人しくしろッ!!」

    アルベルトを見て、飛びかかろうとした元兄上を、騎士が力ずくで床に押さえつけた。
    何か叫んでいるが、猿轡を噛まされている為、何を言っているのか分からない。

    今は睨み合っている。

    国王はというと、玉座の肘置きに肘を付き、軽く握った手に顎を乗せ、面白く無さそうにそれを見ていた。

    宰相が国王に耳打ちして下がる。

「皆がこの場に集まってくれた事に礼を言う。此度、王太子クラウス…今は廃嫡が決定したのでクラウス王子だったか…。が、大罪を犯した。故に、これより断罪を行う。先ずは、罪状を述べ、証拠を提示せよ。」

    そして宰相が罪状を読み上げた。

━ 罪状 ━

一つ、敵である隣国と繋がり、武器、食糧、医薬品等の横流し、資金提供等の利敵行為及び、機密情報の漏洩。

一つ、アルバ伯爵令嬢の誘拐罪、監禁罪、傷害罪及び暴行未遂罪

一つ、4年前の“センチュリオン平原での戦い”に於いて、敵である隣国と繋がり、武器、武具、食糧、医薬品等の横流し、資金提供等の利敵行為及び、機密情報の漏洩せし、国家反逆罪。

一つ、同戦いに於いて、味方への砲撃及び攻撃を部下に命じ、自国の戦士を大量に殺戮せしめた殺人罪。

    ━  以上  ━



    「そして、これらの罪状に対する証拠は此方に。」

     そう言った後、テーブルが運び込まれ、証拠書類や捜査資料が各罪状毎に山積みにされていく。

    国王、検非違使長、王国騎士団団長・副団長、外交大臣・副大臣、財政大臣・副大臣、内政大臣・副大臣等の政務・軍務のトップ達がそれらに眼を通す。

     当然、各罪状毎に証人による証言付きである。

    それらが終わった後、緊急閣議が開かれ、長時間に渡って審議が重ねられた後に、審判が下される。


    そして夜が明けた頃、やっと意見が纏まった。


━ 断罪の間━
    
    政務、財政、外務、内政、軍務等のトップ達が入室した後、元王太子が留置所から引っ立てられ、玉座の前に跪かされ、両肩を押さえつけられている。

    国王は無表情にそれを見ていた。

    父親として何か思う事はあるのだろうか?いや、あの父に限ってそれはないだろう。彼にとって関心があるのは母だけだ。程度の差こそ有れ、父と兄はその点に於いて同類なのだから…。

    そして、いよいよ国王から審判が下される。

「先ずはこの場に居る皆に、王子がこのような大それた大罪を起こした事申し訳なく思う。余は立派な国王と成れるよう、教え導いた筈だったが、何処かで育て方を間違えてしもうた。申し訳なかった。」

    そう言って頭を下げた。
    頭を下げる事など無い地位にいる国王が頭を下げた事に、皆が驚き、感極まって涙する者もいた。

「クラウスよ、潔くその罪に相応しい罰を受けよ。断腸の思いではあるが、親として最後まで見届けよう。」
「…くっ…父上…。」

    国王のその言葉を聞いて、後悔して、涙を流しているようなその姿に、殆どの者がもらい泣きしている。

    けれど私は知っている。
    これが茶番劇だという事を…。

『この後が見物みものね。』心の中だけで呟く。

    兄は知らない。

    あの男が全ての罪を兄一人に被せ、切り捨てた事を…。それを知った時、兄は如何するのでしょうね。

    彼らの罪の全てを知っている私とは、当然こんな茶番劇は想定内だけど。
  
    チラッと、彼の顔を盗み見ると、片手で口を押さえ、泣きたいのを堪えているように見えた。

    が、幼い頃から彼を知っている私には、彼が笑いを堪えていると分かった。
    思わず、舌打ちしたくなるのを何とか耐えて、この後の成り行きを見守る。

「審判を下す。クラウス王子から王族籍を剥奪。即時、一般牢に収牢。後日、王宮前広間に於いて斬首刑に処す。然る後、梟首きょうしゅ(晒し首)。引っ立てい!!」

    それまで、悔いているように項垂れていた兄が、顔を上げ、怒りに滾った眼を国王に向けたら。

「話が違う!!」
「ええい!さっさと引っ立てんか!!」
「謀ったな!貴様も同罪ではないか!」
「黙れ!黙れ!黙れッ!!そのれ者に猿轡を噛ませよ!黙らせろ!」

「お待ち下さい。言いたい事でもあるようです。聞いてやっては如何でしょう。私はを是非聞きたい。」

    アルベルトの発言に室内が騒つく。中には顔色が悪くなった者も…。

「確かに、国王にとってもご子息の最後の言葉は気になられるでしょう。」
「!!」

    一斉に、国王に視線が集まる。
    “余計な事を!!”と含みを持たせた眼で、宰相を睨み付けた。

    それを知ってか知らずか、“是”と取った宰相が、兄に発言の許可を出した。

    床に押さえつけられていた身体を起こし、跪かされた兄は、父親を睨みながら言った。

「自分は何も知らなかったような事を言っていたが、俺一人の所為にするな。あんたの指示した事だって有ったよな。」
「…なっ!…」

    国王に口を挟ませてなるものかと、続けて話す。

「隣国との裏取引にしても、俺一人じゃあれだけの数の影を動かせない。」
「確かに、王家の影と雖も、国王の命令も無く動かす事など出来ませんな。」

    頷きながら宰相が言う。
    
    そうなのだ。王家の影を王妃や王子、王女が勝手に動かせるなら、王位の簒奪も可能になってしまう。そして、それは王国騎士団に於いても同じだった。

    国王に疑惑の眼が向けられる。

    そこに、証拠として影への命令書が提出され、玉璽が押されているのが確認された。

    玉璽は、国王のみ押せる印で、その保管場所は、当然、国王しか知らない。

「これは………。」

    証拠の書類を手に国王の居る方へ振り向く。

    国王はというと、玉座の肘置きを掴んだ手が白くなる程力が入っている。
    それとは逆に、怒りに満ちた顔は真っ赤になっていた。

    宰相が、私の方へ向き直って言った。

「ユークリッド王女殿下……クラウス王子殿下が廃嫡され、王女殿下が王位継承一位でした。そして今、陛下の罪が明らかとなり、王女殿下が王位継承となりました。」
「…具ぬぬぬぬ…。認めぬ!認めぬぞ!!」
「近衛兵!拘束せよ!拘束して貴族牢へ!」
「黙れ!王は余じゃ!余が国王なるぞ!!」

    罪が明らかになったけれど、取り調べも審議、審判も残っている為、刑が確定するまでは貴族牢に入れられる。

「覚えておれ!不届き者が!!」

    ぎゃあぎゃあ喚きながら、近衛兵に両腕を掴まれ、引き摺られるように連行されて行った。

    そして、その後ろから兄も連行されて行った。

「殿下、お手を…。」

    差し出された宰相の手を私が取ると、玉座の方へ連れて行かれた。

    集められた重鎮達を見渡し

「皆の者、迷惑をかけました。よもや、斯様な事になるなど想定できませんでした。罪を犯した二人に代わり、申し訳ありませんでした。至らぬ身では有りますが、皆の力を借り、良く国を治めたいと思います。」

    宰相とアルベルトが跪き、臣下の礼を取る。すると、成り行きを見守っていた重鎮達もそれに倣い、臣下の礼を取った。

「では、王として最初の命令です。速やかに事件の解決を。そして事件の裏にいた隣国に備えて戦の準備を。この機に乗じて攻めて来る可能性が高い。現に、戦の準備をしていると辺境伯達から、報告も上がっています。」

    王位になど就きたくはなかった。けれど、そのような事を言っていられない。
    
    仕方のない事なのだと自分に言い聞かせるしかなかった。




    




    
    

    
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