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48. 誘拐
しおりを挟む公爵邸に行った2,3日後、両親の結婚記念日のプレゼントを買いに、白っぽいパステルグリーンのカジュアルなデイドレスを着て街まで出かけ、色々なお店を見て回った。
ミリィも今日はお仕着せではなく、淡いクリームイエローの膝下丈のワンピース、護衛のヒースも生成のシャツにチャコールブラウンのベスト、バーガンディーのトラウザーズの私服だった。
私とミリィの二人で雑貨屋に入って、小物入れや置物を見たりして楽しんでいるのを、ヒースが微笑みながら見ていた。
最近、ミリィとヒースが良い雰囲気だったりする。
一度ミリィに聞いてみたら「知りません。」と言われてしまったけど、拗ねたようにそっぽを向いた彼女の顔が、赤くなっていたのを私は見逃さなかった。
「じゃあ、私はこっち見に行くわね。」
「分かりました。私はもう少しこの辺りの物を見ていますね。」
同じ店内だから、大丈夫だと思ったのがいけなかった。
ミリィの位置からは棚の陰になる場所に行った瞬間、後ろから鼻と口に何か押し付けられ、私の記憶はそこで途切れた。
~~~~~
アルバ伯爵家から火急の知らせが公爵邸に来たのは、あの日から2,3日後の夕方だった。
王宮にある執務室で残業していた俺は、緊急だと言って公爵家の執事が来たと連絡を受けた。
嫌な予感がした俺は執事を部屋に通すのではなく、自ら受付に赴いた。
その方が速いからであったが、その判断は間違っていなかった。
伯爵家からの封書を執事から受け取り、その場で開封して読んだ。
そこには、フランが街まで買い物に出たまま行方が分からなくなった。
だから、何か情報があれば教えて欲しい。
といった事が書かれていた。
思わず便箋を握り締めた。
自分でも身体中の血が一気に引いたのが分かった。
恐らく、彼女は拐われたのだろう。犯人の目星もついている。
問題は、監禁場所だ。
何処だ!何処なんだ!
公爵家の影にも命じて彼女を探させたが、何の収穫も無い。
今のところ、命の危険は無いと思うが、何の保証も無い。
クラウスの様子も探らせたが、変化は見られない。
出来れば、俺が付けた痕が、彼女の身を護ってくれればいいが…。
心配で何も手に付かず、じっとしていられなかった。
だが、今の俺に出来る事は、影からの知らせを待つ事だけだった。
時間が経つばかりで、ジリジリと焦れる。
そこへエヴァの婚約者、リンツ辺境伯の来訪が知らされた。
既に部屋まで来ていた彼は一言
「行くぞ!」
とだけ言った。
訳が分からない俺が堪りかねて
「何処へ?」
と聞けば
「いいから、馬と武器を用意しろ!あと、何人か連れて行くぞ!」
と答えたのを聞いて、執事と侍従に指示を出す。
そして公爵家の騎士達を連れた俺は、目的地も分からないまま彼らと一緒に走った。
~~~~~
眼を覚ますと、見覚えの無い天井が見えた。
部屋には私しか居らず、寝かされていたベッドも、宿に置いてあるような物だった。
のろのろと身体を起こして、ベッドの上に座った。
そして考える。
これまでの自分が持っている情報から推測していき…考えるまでもなく、私を拐った(拐わせた)のは十中八九、クラウス王太子で間違い無いと思った。
だって、ねぇ…王家の影の数が最近増えてたし…。
ホントにしつこい!
そんなにプライドを傷つけられたのが許せなかったの?馬鹿みたい。って言うか、馬鹿なの?
腹を立てていても、逃げられる訳じゃないから、何とか逃げられないものかと考えたけど、武器になりそうな物なんて持ち歩いていないし…。
取り敢えず、様子を見るしかない。
部屋の中を見てみたけど、窓も無いところをみると、地下室か何かだろうか。
その時、扉が開いたから思わず身構えた。
そして、入って来たのは、やはりクラウス王太子だった。
「やぁ。眼が覚めたんだね。」
腹が立つ程、お手本のようないい笑顔を向けてくる。
私はそんな彼から、眼を逸らさずに睨み付けたのだった。
「可愛い顔で、そんなに睨んだって全然怖くないよ。」
貼り付けた笑顔で、私に近づいて来るのが、何だか感情の無い生き物のように思えて、薄気味悪かった。
彼が近づけば私は後ろに下がり、とうとう背中が壁にぶつかり、これ以上後ろに下がれない事が分かって、どうしたらいいか悩んでしまった。
「フフフ。もう後ろに下がれないよ。如何するの?」
何か言ってやりたいのに、何も浮かばない。
いつもミリィから口が悪いと怒られているくせに、罵詈雑言の一つも思い浮かばない。
『にこやかなつもりかもしれないけど、眼が笑ってませんから。』
心の中で言っても意味ないのに!
言葉が口から出て来ない。
「もう逃げないの?鬼ごっこはもう終わりかな?フフフフフ。」
掴まえようと手を伸ばしてくるから、その下を掻い潜って逃げようとした。
が、髪の毛を掴まれ、引き倒される。そして、そのまま引き摺られて行った。
痛い!っていうか、痛いなんてもんじゃない!
あまりの痛さに思わず涙が出た。
やっと手を離したと思ったら、二の腕を掴んで投げられた。
『何処にそんな力があるのよ!』
心の中で言いながら、投げられた後の衝撃を想像して、身体が竦む。
けれど、受けた衝撃は想像していた物とは違っていた。
投げられた先はベッドの上だった。
それなりに痛いけど、硬い所に叩きつけられるよりはマシだったのね。
…なんて喜んでいられなかった。
起き上がろうとしたところへ、王太子が覆い被さってきた。
『マジッ?!』
「フフフ。捕まえた。」
『 詰んだ …。』
この後、どうなるのか考えたくなかった。
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