46 / 76
46. 何も…
しおりを挟む「来てくれてありがとう。」
侍女を下がらせた後、やっと言えた言葉に『違うだろ!』と自分で突っ込みを入れたくなった。
他にもっと言わなければいけない言葉があるだろ。
「こちらこそ手続きをお任せしてしまって申しわ…」
「違う!謝らないといけないのは、俺の方だ。色々と…すまなかった。君を傷つけてしまって…。」
下げた頭を上げ、彼女を見た。
少し首を傾げ、悲しげに微笑むその表情に、胸が痛む。
「いいえ、閣下が謝られるような事は何も…。王命とはいえ、心から想う方が居られたのに私と婚約せねばならなかった事、申し訳なく思っております。」
ショックだった。
彼女の口から出た、“閣下”、“心から想う方”という言葉に…。
「フ、フラン…聞いてくれ、俺は…」
「閣下…閣下は私に言い訳せねばならないような事は何もないと思っております。」
「いや、そんな事は…婚約者を蔑ろにした事は事実で…。」
「いいえ、婚約者と言っても王命だっただけですし…。他に想う方が居られたのですから、致し方無かったかと…。」
彼女から拒絶されている事に打ちのめされる。
いくらクラウディアに、そう思わせなければいけなかったとはいえ、彼女が傷つく事も、俺が後悔する事も、誤算だった。
そう。俺が彼女に心惹かれる事は誤算だった。
クラウディアを愛しているとフランに誤解される事も…。
誤算だったのだ。
言い訳すらさせてもらえないとは…。何よりクラウディアを愛していると誤解され、フランを傷つけてしまった。
「フラン、聞いてくれお…」
「もう、いいのです。」
「いや、そうじゃ…」
「ご心配無く。元より契約だけの仮初めだったのですから。閣下が責任を感じるような事は何も…。」
穏やかな口調で言う。
そんな彼女に
「違う、違うんだ!聞いてくれ!俺は君を…」
「いえ、本当にお気遣い無く。それよりも書類を…サインをしますので。」
それ以上何も言えず、書類を取り出してテーブルの上、何も置かれていない所に置いた。
フランにペンを手渡すと、何の躊躇いも無くサインする。
それが又、アルベルトの心を容赦なく抉るが彼女は気付かない。
その事に胸を痛めながらも、契約結婚の書類を書類箱から取り出した。
サインし終わったフランも書類を取り出す。
「フラン。」
「何でしょうか?」
「申請書が認可されたら、正式に解消という事になる。それまでは、俺の婚約者でいてくれないか?」
疑問に思ったのか、首を傾げる。
「頼まれなくとも、認可されるまでの間、書類上は婚約者だと理解しておりますが…。」
堪らず彼女の傍に移動した。
そして、その手を取り、両手で包むように握る。
手を引き抜こうとしているのが分かったが、離すつもりなど無い。
彼女の顔を見上げ、
「違う。違うんだ。指輪も花も…何も無いのに、こんな事を言っても信じてもらえないかもしれないが…俺と結婚してくれ!」
フランが固まってしまった。
が、すぐに立ち直って
「はあッ!?」
「え?」
「何を言っているんですか?たった今、サインしましたよね?」
「あ、ああそうだ。だが、それは…」
「契約結婚の書類も破棄するんですよね?違いますか?」
「いや、それは…」
フランが怒って…いる?
「聞いてくれ!結婚して欲しい。王命なんかじゃ無く、俺がフランと結婚したいんだ。」
「へ?」
キョトンとした彼女が…可愛い。
可愛くて…つい…
バシッ!ベシッ!
彼女の唇に軽く口づけただけなのに…。
往復ビンタを食らった。
「い、いきなり何するんですか!?」
「いきなり…じゃなかったらいいのか?」
「ダメに決まってます!」
『本当に、いきなり何て事するのよ!』
女嫌いじゃなかったの?
…じゃなくて…。
訳が分からない!
「結婚も、契約結婚じゃなくて、本当に結婚したいんだ。一生、フランと一緒に居たい。」
一瞬で、茹でダコのように真っ赤になった彼女。
触れたくて一歩近づいたら、三歩が下がられた。
『何で?!何でだよ。』
「…分かった。座るよ。座るからフランも座って。」
取り敢えず、書類の方を先に片付ける事にした。
0
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!
ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生!
せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい!
魔法アリなら色んなことが出来るよね。
無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。
第一巻 2022年9月発売
第二巻 2023年4月下旬発売
第三巻 2023年9月下旬発売
※※※スピンオフ作品始めました※※※
おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~
義母様から「あなたは婚約相手として相応しくない」と言われたので、家出してあげました。
新野乃花(大舟)
恋愛
婚約関係にあったカーテル伯爵とアリスは、相思相愛の理想的な関係にあった。しかし、それを快く思わない伯爵の母が、アリスの事を執拗に口で攻撃する…。その行いがしばらく繰り返されたのち、アリスは自らその姿を消してしまうこととなる。それを知った伯爵は自らの母に対して怒りをあらわにし…。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!
困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》
新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。
趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝!
……って、あれ?
楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。
想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ!
でも実はリュシアンは訳ありらしく……
「お前のような田舎娘を聖女と認めない」と追放された聖女は隣国の王太子から溺愛されます〜今更私の力が必要だと土下座したところでもう遅い〜
平山和人
恋愛
グラントニア王国の聖女であるクロエはラインハルト侯爵から婚約破棄を突き付けられる。
だがクロエは動じなかった、なぜなら自分が前世で読んだ小説の悪役令嬢だと知っていたからだ。
覚悟を決め、国外逃亡を試みるクロエ。しかし、その矢先に彼女の前に現れたのは、隣国アルカディア王国の王太子カイトだった。
「君の力が必要だ」
そう告げたカイトは、クロエの『聖女』としての力を求めていた。彼女をアルカディア王国に迎え入れ、救世主として称え、心から大切に扱う。
やがて、クロエはカイトからの尽きない溺愛に包まれ、穏やかで幸せな日々を送るようになる。
一方で、彼女を追い出したグラントニア王国は、クロエという守護者を失ったことで、破滅の道を進んでいく──。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる