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42. フランドール・アルバ
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*今話、本文中に戦争の話が出てきます。
苦手な方は全力で回避して下さい。読まれる方は自己責任でお願いいたします。
~~~~~
クラウディアがあざとく、アルベルトに擦り寄り、それを(無理矢理)見せつけられてユークリッドとエヴァがストレスを溜めまくっている頃、フランはアルバ伯爵邸の自室でぼんやり窓の外を眺めていた。
何だが呆気ない婚約解消に、自分が思っていた程傷ついていない事に驚いていた。
「こんなもんなのね…。」
一人言ちた。
婚約を解消したフランを気遣って、侍女達も「一人にして…。」と言えば一人にしてくれる。
夜会で踊っていたアルベルトとクラウディアを思い出す。
お似合いだった二人。
「これで良かったのよ…。」
そう、これで良かったんだと自分に言い聞かせる。
自分の為にアルベルトを、フリッツなんかに利用させてはいけない。
彼女はあの日、フリッツから聞いた話を思い出していた。
4年前の戦い、その戦場での真実。その内容に誰にも話す事など出来ずに、自分で抱える事しか出来なかった。
~~~~~
4年前、国境近くの町ポーセリオン、その町の郊外と国境の間にある小高い丘に囲まれたセンチュリオン平原。
そこで起こった戦い。
隣国アッティラ帝国・4万8000人、自国エメリッヒ王国・4万5000人。
双方丘の上に陣取り、戦いが始まった。敵も味方も志願者を募ってかき集めた者ばかり、碌な演習も出来ない状態での戦闘。
当然、戦場は混乱の坩堝と化す。訓練をしていた騎士や衛士ならばまだしも、訓練など受けた事も無い貴族の令息達までが志願した為に、指揮系統もバラバラ、初めての実戦にパニック状態になる。
当たり前だ。そんなの素人でも分かる。若さ故の滾る熱意だけで何とかなる訳が無い。
けど、血気盛んな彼らは自ら進んで前線に出たがった。
実戦経験のある者が指揮を執り、その中にそういった若者達をほんの少し混ぜた混成隊にしたのだが、志願者の殆どが貴族の子息だったのが災いした。
彼らは、命の遣り取りが行われている戦場に、あろう事か身分を持ち出したのだ。
実戦経験者達は鼻白んだ。
身分を振り翳し、指示や命令を聞かない彼らに対して、一度懲りればいいと思ったかもしれない。
そうすれば、戦場で身分を振り翳すのがどれ程愚かな事か分かるだろうと。
そう考えたとしても不思議ではない。
でなければ、フリッツが中隊を率いられる筈など無いのだから。
本当のところは分からないけど…。
そして退却する時、パニック状態に陥っていた彼の隊は、戦場に取り残され孤立した。
彼の話では、パニックどころか、狂乱状態だったようだ。
そしてそれは起こるべくして起こった。
彼らを救いに大隊を率いて、アルベルトの父、前公爵が戦場に戻ったという。
しかし、誰かが「敵だ!敵が押し寄せて来た!」と叫び、狂乱状態に陥っていた彼等は、攻撃したのだ。
味方を…。
自分達を助けに来た味方を攻撃してしまった。
そして、大隊だったにも拘らず、そこを敵に付け込まれ、総崩れになり被害は拡大した。
後の事は、皆が知っている通り。大隊は1/3を喪い、中隊はフリッツを含め9名が行方不明(戦死扱い)。
助けに行った味方に殺されたようなものだ。(事実、味方に攻撃している)
残された遺族が聞いたらどう思うだろう。悲し過ぎて…遣りきれない…。
更に酷い事に、それらの事を仕組んだのがこの国の王太子だという。
しかも、「全てお前の所為だ!」とフリッツは言った。
私を不幸にする為に王太子が仕組んだと聞いたと…。
それを聞いた私は目の前が真っ暗になり、吐きそうになった。
そんな私にフリッツは言った。「何もかも全てお前の所為だ!全てお前が悪い。だから、俺が生き残る為に協力しろ。あの男にも手伝わせるんだ!」
私は…どうすれば…どうしたらいい?
初めて会ったあの時から、私に対して色々仕掛けてきていたのは分かっていた。
けど、それが分かっても私には何も出来なかった。
単なる伯爵家の子女である私が、王太子に何か出来る訳無い。
アルベルトとは王命だけど、ついでに言うなら契約結婚だけど…。
彼を好きになりだして、ほんのちょっと思った。『幸せになってもいいの…?』って。
だから、なのかな?
こんな事になってしまったのは…。
もう、堪えられなかった。アルベルトの婚約者でいる事に…、彼と結婚するなんて私には無理だった。
苦手な方は全力で回避して下さい。読まれる方は自己責任でお願いいたします。
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クラウディアがあざとく、アルベルトに擦り寄り、それを(無理矢理)見せつけられてユークリッドとエヴァがストレスを溜めまくっている頃、フランはアルバ伯爵邸の自室でぼんやり窓の外を眺めていた。
何だが呆気ない婚約解消に、自分が思っていた程傷ついていない事に驚いていた。
「こんなもんなのね…。」
一人言ちた。
婚約を解消したフランを気遣って、侍女達も「一人にして…。」と言えば一人にしてくれる。
夜会で踊っていたアルベルトとクラウディアを思い出す。
お似合いだった二人。
「これで良かったのよ…。」
そう、これで良かったんだと自分に言い聞かせる。
自分の為にアルベルトを、フリッツなんかに利用させてはいけない。
彼女はあの日、フリッツから聞いた話を思い出していた。
4年前の戦い、その戦場での真実。その内容に誰にも話す事など出来ずに、自分で抱える事しか出来なかった。
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4年前、国境近くの町ポーセリオン、その町の郊外と国境の間にある小高い丘に囲まれたセンチュリオン平原。
そこで起こった戦い。
隣国アッティラ帝国・4万8000人、自国エメリッヒ王国・4万5000人。
双方丘の上に陣取り、戦いが始まった。敵も味方も志願者を募ってかき集めた者ばかり、碌な演習も出来ない状態での戦闘。
当然、戦場は混乱の坩堝と化す。訓練をしていた騎士や衛士ならばまだしも、訓練など受けた事も無い貴族の令息達までが志願した為に、指揮系統もバラバラ、初めての実戦にパニック状態になる。
当たり前だ。そんなの素人でも分かる。若さ故の滾る熱意だけで何とかなる訳が無い。
けど、血気盛んな彼らは自ら進んで前線に出たがった。
実戦経験のある者が指揮を執り、その中にそういった若者達をほんの少し混ぜた混成隊にしたのだが、志願者の殆どが貴族の子息だったのが災いした。
彼らは、命の遣り取りが行われている戦場に、あろう事か身分を持ち出したのだ。
実戦経験者達は鼻白んだ。
身分を振り翳し、指示や命令を聞かない彼らに対して、一度懲りればいいと思ったかもしれない。
そうすれば、戦場で身分を振り翳すのがどれ程愚かな事か分かるだろうと。
そう考えたとしても不思議ではない。
でなければ、フリッツが中隊を率いられる筈など無いのだから。
本当のところは分からないけど…。
そして退却する時、パニック状態に陥っていた彼の隊は、戦場に取り残され孤立した。
彼の話では、パニックどころか、狂乱状態だったようだ。
そしてそれは起こるべくして起こった。
彼らを救いに大隊を率いて、アルベルトの父、前公爵が戦場に戻ったという。
しかし、誰かが「敵だ!敵が押し寄せて来た!」と叫び、狂乱状態に陥っていた彼等は、攻撃したのだ。
味方を…。
自分達を助けに来た味方を攻撃してしまった。
そして、大隊だったにも拘らず、そこを敵に付け込まれ、総崩れになり被害は拡大した。
後の事は、皆が知っている通り。大隊は1/3を喪い、中隊はフリッツを含め9名が行方不明(戦死扱い)。
助けに行った味方に殺されたようなものだ。(事実、味方に攻撃している)
残された遺族が聞いたらどう思うだろう。悲し過ぎて…遣りきれない…。
更に酷い事に、それらの事を仕組んだのがこの国の王太子だという。
しかも、「全てお前の所為だ!」とフリッツは言った。
私を不幸にする為に王太子が仕組んだと聞いたと…。
それを聞いた私は目の前が真っ暗になり、吐きそうになった。
そんな私にフリッツは言った。「何もかも全てお前の所為だ!全てお前が悪い。だから、俺が生き残る為に協力しろ。あの男にも手伝わせるんだ!」
私は…どうすれば…どうしたらいい?
初めて会ったあの時から、私に対して色々仕掛けてきていたのは分かっていた。
けど、それが分かっても私には何も出来なかった。
単なる伯爵家の子女である私が、王太子に何か出来る訳無い。
アルベルトとは王命だけど、ついでに言うなら契約結婚だけど…。
彼を好きになりだして、ほんのちょっと思った。『幸せになってもいいの…?』って。
だから、なのかな?
こんな事になってしまったのは…。
もう、堪えられなかった。アルベルトの婚約者でいる事に…、彼と結婚するなんて私には無理だった。
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