悲劇にしないでよね!

雫喰 B

文字の大きさ
上 下
41 / 76

41. クラウディア・ブロスフェルト

しおりを挟む

*今話、不愉快になるような、不適切な言葉が出てきます。
苦手な方は全力で回避して下さい。読まれる方は自己責任でお願いいたします。

*本日、もう一話21時に投稿しますのでよろしくお願いいたします。


~~~~~


    取り敢えず、今日はここまでにして、休憩を挟んで今後の事を話し合う事にした。

    お茶を飲みながら、俺はエーリッヒと、ユークリッドはエヴァとの雑談に花を咲かせていた。

    すると部屋の外、廊下の方が騒がしいような…?

    何か言い争っているようだと、俺もエーリッヒもソファーの横に立て掛けていた剣に手を伸ばした。

    エーリッヒが確認の為だろう、

「今日、俺達以外の来客の予定は?」

    と聞いてくる。

「いや、何の約束も無い筈…。」

    そう答えると、二人共扉を睨み付けた。

バタンッ!!

    勢いよく開いた扉の向こうから現れたのは、クラウディアだった。

「チッ!ノックも無しかよ。」

    忌々しげにエーリッヒが言えば、

「ですわね。」「ですよね。」

    ユークリッドとエヴァも言う。
    俺は大きく溜め息を吐くと、

「ノックぐらいしたらどうだい?」

    と、注意した。
    すると、肩を竦めて舌先を少しだけ見せ、やっちゃったとばかりにおどけてみせる。

「あら?(今日はあの女は居ないのね。)」

    訝しげに部屋の中を見遣ってから言う。

『お兄様から婚約解消されたあの女が、別れたくないから、友人を引き連れて抗議しに来たって聞いたけど、違ったみたいね。』
    
    謝りもしない彼女に、エーリッヒが眉間に皺を寄せ、

『「あら?」じゃないだろ!』

    心の中だけで突っ込んだ。

「(マナーが)なってませんわね。」
「ええ。(マナーが)なってないですね。」

    ユークリッドとエヴァが眼を眇て言う。

「ハッ!とんだ深窓の令嬢だな。」

    エーリッヒが鼻で嗤う。

    彼が当て擦ったのに気づいたらしい、クラウディアは顔を赤くして怒った。

「な、何ですって?!」

    ユークリッドが挑発するように

「あらあら。本当にとんでもないお子様ね。」

    と、追い討ちをかけ、扇で口元を隠し、眼をすっと細める。

「くっ…!」 

    悔しいが、相手が王女なので言い返せないクラウディアは、次なる手に出た。

「お兄様ぁ~。」

    アルベルトに泣きつく。

「しょうがないな…。ごめんユークリッド、僕からも謝るから許してやって。」

    アルベルトが“よしよし”と宥めると、彼が着ているシャツの胸元を両手で握りしめ、彼から見えない角度で振り返ったクラウディアの口角は弧を描き、『勝った』とばかりに、ニヤリと嗤っていた。

「ッ!!」

『この小娘がっ!!』

    と、ユークリッドの顔に書いてあるように見えて、アルベルトはたじろぐ。

    そんな中、エヴァがぼそっと呟いた。

「ユークリッド様を本気で怒らせるなんて馬鹿な。」

    けれど、その呟きはクラウディアには届いていなかった。が、アルベルトには届いていたようだ。顔色が悪いし、汗も凄い。

    アルベルトのそんな表情は滅多に見られない。ユークリッドは仕方ないからそれで我慢してやる事にした。

「アルベルト、お子様の躾ぐらいちゃんとしなさい。」

    躾のなっていない、鉄面皮な小娘を庇うような奴は名前呼びで充分といった感じで、ピシャリ!と言った。
 
    それが分かっているだけに、彼は苦笑する。

「で?何か用でもあるのかな?クラウディア。」

    そう質問すると、両手を胸の当たりで落ち着き無く動かしながら、頬を染めてモジモジしている彼女。

    それを見た、ユークリッドとエヴァの視線がギッ!と鋭く変化したのを、彼は肌で感じた。

    彼女達は、顔を寄せ合ってヒソヒソと囁き合っている。

「ユークリッド様、これはもう間違い無いですよね。」
「間違い無いですわね。きっと、フランとアルベルトの婚約が解消されたと聞いて押し掛けて来たのよ。」
「何か、モジモジとあざといですね。見ていてムカムカします。」
「ここにフランが居ないのが悔しいですわ。何て腹立たしい!」
「けど…何でフランは婚約解消を願い出たんでしょうか?私からは公爵閣下に好意があるように見えたんですけど…。」
「アレよアレ、あの子って、肝心なところでニブいじゃない。おまけに、アルベルトの勘違いされても仕方ないあの態度。アルベルトもフランが好きなら、あんな女、放っておけばよろしいのに…。その分、フランを気遣えば良かったのよ。にしても、ムカツクわねあのクソあま。」

    そこでエヴァが、核心を突くかのような疑問を口にする。

「でも公爵閣下って、フランの事が好きって言ってましたよね。なのに何であの女にいい顔するんでしょうね。それまでは、“氷撃の…”なんて言われるぐらい女性に冷たかったのに…?」
「…確かにそうよね。一度調べてみる必要がありそうね。」
「ですね。」

    二人は、顔を見合わせて笑う。

    その間、アルベルトの前で頬を染めて、ずっとモジモジしていたクラウディア。
   『 早くこっち見ないかな。』といった感じで、二人の様子をチラチラ窺っている。

『女優気取りで、ギャラリーでも欲しかったのかしら?』

    心の中でも、毒舌なユークリッドだった。

    けれど、ユークリッドとエヴァが会話を止めたら、即座にアルベルトに公爵家を訪問した理由を語りだした。

   あながち間違いではなかったようだ。
    相変わらず二人の方をチラチラ見ながら、その反応を窺っている。
    そして、アルベルトに媚を含んだ声色で話しかけた。

『フラン、本当にこんな女にアルベルトを譲るつもりなの?後悔しないの?』

    ユークリッドはここに居ない、親友のフランに、心の中で尋ねた。
    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!

ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生! せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい! 魔法アリなら色んなことが出来るよね。 無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。 第一巻 2022年9月発売 第二巻 2023年4月下旬発売 第三巻 2023年9月下旬発売 ※※※スピンオフ作品始めました※※※ おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~

義母様から「あなたは婚約相手として相応しくない」と言われたので、家出してあげました。

新野乃花(大舟)
恋愛
婚約関係にあったカーテル伯爵とアリスは、相思相愛の理想的な関係にあった。しかし、それを快く思わない伯爵の母が、アリスの事を執拗に口で攻撃する…。その行いがしばらく繰り返されたのち、アリスは自らその姿を消してしまうこととなる。それを知った伯爵は自らの母に対して怒りをあらわにし…。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

「お前のような田舎娘を聖女と認めない」と追放された聖女は隣国の王太子から溺愛されます〜今更私の力が必要だと土下座したところでもう遅い〜

平山和人
恋愛
グラントニア王国の聖女であるクロエはラインハルト侯爵から婚約破棄を突き付けられる。 だがクロエは動じなかった、なぜなら自分が前世で読んだ小説の悪役令嬢だと知っていたからだ。 覚悟を決め、国外逃亡を試みるクロエ。しかし、その矢先に彼女の前に現れたのは、隣国アルカディア王国の王太子カイトだった。 「君の力が必要だ」 そう告げたカイトは、クロエの『聖女』としての力を求めていた。彼女をアルカディア王国に迎え入れ、救世主として称え、心から大切に扱う。 やがて、クロエはカイトからの尽きない溺愛に包まれ、穏やかで幸せな日々を送るようになる。 一方で、彼女を追い出したグラントニア王国は、クロエという守護者を失ったことで、破滅の道を進んでいく──。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

処理中です...