悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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40. クラウス・ティル・エメリッヒ王太子

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*今話以降、戦争に関する内容が含まれます。物語の設定上避けて通れない内容の為、削る事が出来ません。
なので、苦手な方は全力で回避して下さい。読まれる方は自己責任でお願いします。


~~~~~



    私はあの時に見たお兄様の顔を、一生忘れられないだろう。

「兎に角、お兄様は完璧主義で、プライドの高い方でした。」

    そんな出だしで始まったユークリッドの話は、王太子の(表?)優しげな風貌からは想像する事など出来ない内容(裏?)だった。


~~~~~


    お兄様とフランの間に何があったのかまでは分かりません。
    ただ、フランがお兄様のプライドを傷つけた事は間違い無いと思います。

    お兄様の彼女に対する態度がおかしいと感じたのは、私達が10才の時に行われたお茶会での事でした。

    庭園の隅に、二人一緒にいるのを眼にした私は、お兄様を驚かそうと思い、そっと近付いて行きました。

    でも、何か様子がおかしいと感じて、植え込みの陰に隠れたまま様子を窺っていました。

     何を話していたのか聞こえませんでしたが、フランが何か言った後、お兄様の顔が…。彼女が殺されてしまうのでは?とそうなっても不思議ではない程の恐ろしい顔でした。
    私はあの顔を一生忘れる事などできそうにありません。

    そして、彼女が顔を顰めたのに気付いたのです。
    お兄様が彼女の耳元で何か言った後、立ち去りました。

    でも、その後ドレスの袖を捲り上げた二の腕に、手形がくっきりと…。

    その事があってから、彼女を見るお兄様の眼が昏く澱んだ物に変わりました。

    私はそれ以降、自分についている影に、お兄様を監視させました。今もです。

    私達が学園に入学して暫く経った頃、お兄様はフランと婚約したいと思っていると、お父様に言ったそうです。

    けれど、一足違いでエックハルト卿と彼女は婚約してしまい、それを聞いた日、お兄様は荒れて、部屋の中にある物を手当たり次第に投げ、ヒステリックに叫んでいたそうです。

    しかし、事はそれで収まりませんでした。

    あろう事か、お兄様は隣国と手を組み、4年前の戦を起こしたのです。彼女の結婚式に合わせて。

~~~~~

「「「 なッ!?」」」

『驚いた。そんな事の為に戦を起こし、無駄に兵を死なせたのか!』

    そう思った。が、王太子がやった事はそれだけでは無かった。

    ここから先の事はユークリッドも知らないが、王太子は、エックハルト卿が任されていた第5中隊を葬るように裏で敵と取り引きしていたのだ。

    そして、敵陣に取り残された第5中隊を助けに、父は大隊を率いて戦場に戻り、亡くなった。

    第5中隊の何人かは助け出せたが、隊長のエックハルト卿以下副官を含め、9名が行方不明。屍を拾ってやる事も出来ず、戦死とされた。

    そして父を含め、大隊の1/3近くを喪った。

    それが4年前の真相だと、最近まで思っていた。
    だが、エックハルト卿が隣国で生きていた事で、事情が変わる。

    あの戦場でエックハルト卿による“裏切り行為”があったという噂が、あっという間に広がったからだ。

    その事から考えて、彼が生き残ったのは、イレギュラーな出来事(想定外)だったと俺は思っている。

    誰にとってのイレギュラーか?

    勿論、王太子にとって、だ。

~~~~~

「最近、エックハルト卿がこの国に戻って来るのと時を同じくして、辺境でお兄様の影達の動きが活発になってきていると聞いて、4年前の時と同様、隣国と取り引きして手を組み、戦を起こそうとしているのではないか?との見解は、リンツ卿と同じです。」

    ユークリッドの話に、現在に意識を戻した。

    俺は、ユークリッドが知らない情報を一つ、彼女とリンツ卿に告げる事にした。

「彼女が学園時代に、婚約破棄になりかけた時、テレサ、王太子妃がそれを止めた事があっただろ?」
「ええ。フランが怒り狂ってましたわ。何で邪魔をするのかと。」
「あれは王太子の入れ知恵だ。隣国との取り引きが成立する迄の時間稼ぎをする為のな。」
「「「 ッ?!」」」

『やはり知らなかったようだな。』

「どうしても王太子妃になりたかったテレサだが、当時はフランが有力候補だったんだ。だが、婚約者がいた。普通なら婚約破棄がなされれば瑕疵となる。が、彼女の兄は王太子の側近だった事もあって、彼女が有力視されていた。」
「なるほど…。」

    エーリッヒが顎を擦りながら呟く。

    それを横目に見て続けた。

「だから、最有力候補を潰したかったテレサは、彼女の婚約破棄を何としても阻止したかったのだろう。王太子と手を組んだ。時間稼ぎとも知らずにな。」

    3人は何とも言えない表情というか、苦虫を噛み潰したような表情で聞いていた。

「国王は、婚約者のいるフランを王太子妃候補から外すように王太子に命じた。ユークリッドも知っている通り、外面のいい奴はそれを受け入れた。というか、完璧主義の奴には瑕疵のある王太子妃(後の王妃)は受け入れられなかったんだ。」
「まさか!」

    ユークリッドとエヴァだけでなく、リンツ卿にも分かったらしい。

「そう、側妃や愛妾にはなれる。が、奴は純潔に拘った。お下がりなど我慢ならないと。そこで考えたのが4年前の戦だ。相手が戦死すれば、違和感無く問題を排除出来る。しかし、結婚式が迫っても交渉は纏まらなかった。だが、不運な事にギリギリ間に合ってしまった。」

    話し終わった後、アルベルトは冷めきったお茶を一口飲んだ。

    残りの3人は、言葉もなく沈痛な面持ちをしていたのだった。

    リンツ卿は4年前の戦で従弟を喪っている。エヴァは親友の身に起こっていた出来事を知り愕然としている。

    ユークリッドに至っては、実の兄である。その為人を知っていたとしても、ショックな事に変わりはない。
    しかも、その兄が親友を苦しめ続けているのだ。
    彼女が受けた衝撃は計り知れない。

    そして、フラン。
    彼女が何処まで何を知っているかは分からない。
    おまけに、そんな男の妄執に囚われてしまった彼女の事を考えると…。

    4人4様に、重く苦い思いを抱えてしまった。
    だが、何も(敵を)知らなければ如何する事も出来なくなる。
    知ってしまった後、如何するか?それが重要だった。

    なのに彼女は一人で方を付けようとしている。

『まだ、間に合うだろうか…?』

    アルベルトは、心の中に浮かぶ彼女の面影に問いかけた。
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