悲劇にしないでよね!

雫喰 B

文字の大きさ
上 下
39 / 76

39. エーリッヒ・アレクサンダー・リンツ

しおりを挟む

    フォイエルバッハ公爵邸・応接室。テーブルを挟んで向かい合わせに座る男が二人。

    一人は言わずと知れた“氷撃の撃墜王”こと、アルベルト・ヨーゼフ・フォイエルバッハ公爵、この邸の主である。

    そして、その向かい側に座る男、エーリッヒ・アレクサンダー・リンツ辺境伯。

    二人は何を隠そう13才~15才迄の間、通っていた騎士養成所で一緒だった。

    そこを出て以降は、エーリッヒは辺境伯領に帰り、只管ひたすら実戦経験を積む毎日。バリバリの叩き上げである。

    片やアルベルトは、士官候補生となり、士官学校へ通う毎日だった。

    士官学校を卒業したアルベルトは、近衛騎士団に入団。(士官学校を卒業している為、階級は少尉)

    だが、この二人、騎士養成所に居た頃から馬が合わず、お互いに  “高飛車”、“バーバリアン”と呼び合う程、仲が悪かった。

    ユークリッドが渡りをつけたと言っても、いきなり仲良くなれる訳など無く、引き会わされて紹介されてから30分。双方共、腕組みをしたまま睨み合いが続いていた。

    そしてとうとう…

「「二人共、いい加減にしなさい!!」」

    ユークリッドとエヴァから雷を落とされ、二人のお小言を、正座して肩を竦め、聞いている。

「「全く、いい年をして!」」
「「…はい。」」

    シュンとして項垂れる二人。

    この後、アルベルトとエーリッヒの子供じみた言い訳に、呆れ果てたユークリッドとエヴァは、他の部屋に行ってしまった。

    仕方がないので話をしてみれば、今までのいがみ合いは何だったんだ?と言いたくなる程、意外と馬が合った事に二人共驚いた。


~~~~~


    腹を割って(?)話し合い、共闘する事に決まったり、ユークリッドとエヴァも加わっての話となった。

    アルベルトが、開口一番、ズバリ聞いた。

けいは何処まで知っているんだ?」

    エーリッヒの為人ひととなりが分かったところで、ストレートに聞いた方がいいと判断しての事だった。

「…如何だろうな…。」

『ストレート過ぎたか…。』

    いきなり知っている事の全てを教えてくれる訳が無い。
    そこまでの信用を得ている筈も無いので、当たり前と言えば当たり前なのだが…。

『 此方から情報を明かすしかないか。とは言っても、全てを明かすのは難しいから、相手の様子を見ながら明かせるところまでしか無理なのだが…。』

「…では聞くが、今回の事が何処から何処まで関係があるのか分かっているのか?」

    ギリギリ情報を共有出来るのは、今のところここまでだ。

    顎に手を当て、何かを考えているような難しい顔をしていた。

「…何処から何処までと言っても、アルバ伯爵令嬢の元婚約者が実は生きていて、この国に密入国して来たって事だろ?で、彼女の身が危ない。」

『え?まさかそれだけなのか?』

    そんな気持ちが顔に出ていたのか、言葉を継いだ。

「そして4年前、あの卑怯者の裏切り行為の裏に、隣国が関わっていた。違うか?」
「その通りだ。」

    この分だと、俺が持っている情報以下の事しか、知らなさそうだな。
    と、判断したところで、目の前にいる男が片側の口角を吊り上げて嗤った。

「そう焦んなよ。ほんと、せっかちだな。最近、王太子の影が辺境でも見掛けられるようになった。コソコソ嗅ぎ回って、動き回ってるぜ。」
「本当か?!」
「あぁ。今のところ泳がせているけどな。鬱陶しくて仕方ない。おまけに、傭兵に見せかけているが、ありゃあ、王太子の私兵だと思うぜ。そいつらの数も増えてきてる。」
「…そうか…。」

    やはり、王太子が裏で糸を引いていると見て間違い無い。

「リンツ卿、あなたはお兄…、王太子と面識は有りまして?」

    ユークリッドの記憶では、個人的な遣り取りは無かった筈である。

「年に一回、大夜会で挨拶する程度だ。大体、国境の守りで忙しいのに、そんなに夜会に出られる訳無いだろ。それに、ああいう腹に一物持ってそうなタイプはけれぇなんだ。」

    エーリッヒの返事を聞いて、アルベルトとユークリッドはお互いの顔を見て頷く。
    全ての情報を共有していいだろうと。

「実は、今回の国内の不穏な動き…、王太子が裏で糸を引いているらしいのです。」

    そう言ったユークリッドの顔色は悪かった。

    そして彼女の口から語られた話は、エーリッヒの顔から、驚愕以外の表情を奪った。


    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】返してください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。 私が愛されていない事は感じていた。 だけど、信じたくなかった。 いつかは私を見てくれると思っていた。 妹は私から全てを奪って行った。 なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、 母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。 もういい。 もう諦めた。 貴方達は私の家族じゃない。 私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。 だから、、、、 私に全てを、、、 返してください。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...