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39. エーリッヒ・アレクサンダー・リンツ
しおりを挟むフォイエルバッハ公爵邸・応接室。テーブルを挟んで向かい合わせに座る男が二人。
一人は言わずと知れた“氷撃の撃墜王”こと、アルベルト・ヨーゼフ・フォイエルバッハ公爵、この邸の主である。
そして、その向かい側に座る男、エーリッヒ・アレクサンダー・リンツ辺境伯。
二人は何を隠そう13才~15才迄の間、通っていた騎士養成所で一緒だった。
そこを出て以降は、エーリッヒは辺境伯領に帰り、只管実戦経験を積む毎日。バリバリの叩き上げである。
片やアルベルトは、士官候補生となり、士官学校へ通う毎日だった。
士官学校を卒業したアルベルトは、近衛騎士団に入団。(士官学校を卒業している為、階級は少尉)
だが、この二人、騎士養成所に居た頃から馬が合わず、お互いに “高飛車”、“バーバリアン”と呼び合う程、仲が悪かった。
ユークリッドが渡りをつけたと言っても、いきなり仲良くなれる訳など無く、引き会わされて紹介されてから30分。双方共、腕組みをしたまま睨み合いが続いていた。
そしてとうとう…
「「二人共、いい加減にしなさい!!」」
ユークリッドとエヴァから雷を落とされ、二人のお小言を、正座して肩を竦め、聞いている。
「「全く、いい年をして!」」
「「…はい。」」
シュンとして項垂れる二人。
この後、アルベルトとエーリッヒの子供じみた言い訳に、呆れ果てたユークリッドとエヴァは、他の部屋に行ってしまった。
仕方がないので話をしてみれば、今までのいがみ合いは何だったんだ?と言いたくなる程、意外と馬が合った事に二人共驚いた。
~~~~~
腹を割って(?)話し合い、共闘する事に決まったり、ユークリッドとエヴァも加わっての話となった。
アルベルトが、開口一番、ズバリ聞いた。
「卿は何処まで知っているんだ?」
エーリッヒの為人が分かったところで、ストレートに聞いた方がいいと判断しての事だった。
「…如何だろうな…。」
『ストレート過ぎたか…。』
いきなり知っている事の全てを教えてくれる訳が無い。
そこまでの信用を得ている筈も無いので、当たり前と言えば当たり前なのだが…。
『 此方から情報を明かすしかないか。とは言っても、全てを明かすのは難しいから、相手の様子を見ながら明かせるところまでしか無理なのだが…。』
「…では聞くが、今回の事が何処から何処まで関係があるのか分かっているのか?」
ギリギリ情報を共有出来るのは、今のところここまでだ。
顎に手を当て、何かを考えているような難しい顔をしていた。
「…何処から何処までと言っても、アルバ伯爵令嬢の元婚約者が実は生きていて、この国に密入国して来たって事だろ?で、彼女の身が危ない。」
『え?まさかそれだけなのか?』
そんな気持ちが顔に出ていたのか、言葉を継いだ。
「そして4年前、あの卑怯者の裏切り行為の裏に、隣国が関わっていた。違うか?」
「その通りだ。」
この分だと、俺が持っている情報以下の事しか、知らなさそうだな。
と、判断したところで、目の前にいる男が片側の口角を吊り上げて嗤った。
「そう焦んなよ。ほんと、せっかちだな。最近、王太子の影が辺境でも見掛けられるようになった。コソコソ嗅ぎ回って、動き回ってるぜ。」
「本当か?!」
「あぁ。今のところ泳がせているけどな。鬱陶しくて仕方ない。おまけに、傭兵に見せかけているが、ありゃあ、王太子の私兵だと思うぜ。そいつらの数も増えてきてる。」
「…そうか…。」
やはり、王太子が裏で糸を引いていると見て間違い無い。
「リンツ卿、あなたはお兄…、王太子と面識は有りまして?」
ユークリッドの記憶では、個人的な遣り取りは無かった筈である。
「年に一回、大夜会で挨拶する程度だ。大体、国境の守りで忙しいのに、そんなに夜会に出られる訳無いだろ。それに、ああいう腹に一物持ってそうなタイプは嫌ぇなんだ。」
エーリッヒの返事を聞いて、アルベルトとユークリッドはお互いの顔を見て頷く。
全ての情報を共有していいだろうと。
「実は、今回の国内の不穏な動き…、王太子が裏で糸を引いているらしいのです。」
そう言ったユークリッドの顔色は悪かった。
そして彼女の口から語られた話は、エーリッヒの顔から、驚愕以外の表情を奪った。
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