悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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34. 3人の女達

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「これで良かったのよ。」

    公爵家の馬車が遠ざかっていくのを、部屋の窓から見送りながらそう思った。
    このままでいれば、アルベルトが愛した女性ひとに生き写しのクラウディアと婚約する事ができるかもしれない。

    いくら生き写しと言っても彼女はガートルードじゃない。
    それでも、お互いに求め会ったのなら幸せになれるのでは…。

    少なくとも、愛していない女と契約結婚なんて、歪な結婚をしなくて済む。

    父親を殺した男の婚約者だった女と、契約とはいえ結婚なんて…。
    
    このままアルベルトと結婚したとしても、彼が苦しむだけ。
    真に求める相手と結ばれないどころか、仇の元婚約者と結婚なんて…私が憎まれる要素しかない。

    いくら綺麗事を並べ立てても、卑怯者で自分(だけ)が可愛い私は、彼に憎悪の眼を毎日向けられる事に堪えられないだけなのに。
    今も、疑惑の眼差しを向けられている事に堪えられないから、彼との距離を開けただけ。
    フリッツの思惑通りになるのは嫌だけど…。

    逃げただけ…。最低よね。


~~~~~


    最近、夜会に出るのが嫌。
    異性の中で、彼女が恋愛感情を向ける唯一の存在。
    昔から、何を考えているか分からないと言われる彼女。
    最初は単なる興味だけだった。

    宮廷生活なんて、判で押したみたいに、時間毎に区切られた、決まったスケジュールを熟すだけの退屈な毎日。

    そんな中、参加していたお茶会で、面白くもない話に、扇で口元を隠して欠伸を噛み殺していた。早く終わって欲しいと思いながら…。

    その時、一人の令嬢が面白い話をしだした。
侯爵家の令嬢で、一風変わった彼女の事を、密かに気に入っていた。

    だって、他の令嬢達の話なんかよりも、彼女の話は新鮮で面白かったから。

    “変わり者”と噂される彼女の口から、“変わり者”と噂される伯爵家令嬢の話が飛び出した。

    同じ“変わり者”と噂される私としては、一刻も早くその伯爵家令嬢を見てみたかった。

    結果は…。

    侯爵家令嬢と同じく、即、“友達認定”

    以来、ずっと3人でつるんでいる。

    “変わり者”と呼ばれた私が、“変わり者”と呼ばれている2人と友人になった後、毎日が楽しくて仕方なかった。

    ちなみに、侯爵令嬢の方はエヴァンジェリン・カスパール(愛称・エヴァ)、伯爵令嬢の方はフランドール・アルバ(愛称・フラン)という。

    その2人との交流は今も継続中である。

    そんなフランの様子が、あの事件以降おかしい。
    何処が?と言われても困るのだけど…。兎に角、おかしい。
    
    婚約者である、アルベルトがほんの少しでもいいから、気に掛けてあげてくれれば…。

    その思いも虚しく、事態は悪い方向に加速して行った。
    女心に疎い男だとは思っていたけれど、自分の取った行動がどんな影響を及ぼすか分かっていないクズだったとは…(怒)

    益々彼女から眼が離せない、眼を離してはいけない状況になってきているのに、自分の周囲も含めて不穏な気配が漂いだした。

    眼に見えだしたそれは、4年前を再現するような嫌な空気を纏いだす。

    そして、“変わり者”と呼ばれている私の大切な友人は、彼に頼る事も出来ず、私達を巻き込みたくなくて、悪手を打ってしまう。しかも、最悪の…。

    たった一人で、立ち向かう事にしたのだった。

    そんな彼女に、せめて!と思い、私の影を付けようとしたが、不穏な気配がする中、彼らが護る対象を変える事は無かった。

    そして、最悪な事にそれは彼の影も同じだった。

    数少ない友人の為に、何も出来ない自分に腹が立った。
    いくら王族で権力を持っているといっても、肝心な時に役に立たないような権力なんて、持っていないのと変わらない。

    そんな状況に臍を噛む思いだった。


~~~~~


    ユークリッド様からの手紙を読み終えた私は、婚約者であるエーリッヒ・アレクサンダー・リンツ辺境伯に連絡を取った。

    あのヘタレポンコツ公爵とは違って、流石、婚約者様である。

    混乱に乗じて敵が国境を越えて来ない為の策は講じてあるから、安心して友人の為に動いていい。との返事をくれた。

    そして、同門の貴族にも協力要請しているから、好きにこき使っていいとまで言って下さった。

    やはり持つべき者は、頼りになる婚約者だ。パートナーが優秀なら、自分達が護りたい者を護れる。自分の足元が磐石なら“言わずもがな”だ。

    おまけに、父に許可を取る事も忘れていない。

    そして私は、フランの為に動いた。

    影に命じて情報を集めさせた。
    集められた情報を精査して導き出された物。

    それは、とんでもない物だった。

    恐らく、ユークリッド様はこの事は既に気付いていると思う。 ならば、後日確認を取るだけだが…。

    先ずは、目の前の小煩い虫を片付けるだけだ。

    私が動くと知って、領地から駆けつけて下さったエーリッヒ様と情報の共有をする。

    やはり、彼も同じ答えに辿り着いていた。
    その上で、目の前の事から片付けるのが最善と、同じ考えだったようで、

「隣国の方は俺に任せてくれ。」

    と、悪戯を思い付いた子供のように笑う彼に任せる事にした。

    そして私も、クズ共を一掃出来る機会を与えられた事に歓喜した。

    とは言っても、表向きはエーリッヒ様のお手伝いだけど。

    自ら危険に飛び込んだ友人と、王族であるが故に身動きが取れない友人の為に…。

「動きます!」

    



    

  

   








    

    
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