悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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31. 信頼

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    犯人達が逃げた事を伝えると、呼子を取り出して3回鳴らした。

「もう出て来て大丈夫ですよ。」
「本当に?」
「ええ。公爵閣下も来られているので、すぐ此方に駆け付けると思いますよ。」  
「…そうですか。」

    笑顔で言う彼に頷きながらも、私の心は少し、ささくれ立っていた。
    
『心配ね…。そりゃあ、心配もするだろう。4年前の真相がかかっているから…。おまけに親の仇だし。』

    私の身を案じて来てくれた訳ではないのが分かっているだけに、素直に喜ぶ事なんて出来なかった。 

    扉を開けてみると、小屋の周囲の木の陰からわらわらと、沢山の騎士達が出て来た。

    皆、口々に私達の無事を喜んでくれているみたいな様子に、嬉しいような申し訳ないような…。

    後ろを振り返ると、サンドラが疲れた顔をしていたけど、大丈夫そうで良かった。

「フラン!!」

    私の名を呼ぶ声がする方に視線を向ける。

    二人から抱き締められた。

「うぐッ!ぐ…ぐるじぃ…です。」
「「 あ、ごめん…。」」

    パッと離れると、泣き顔の二人を見て私まで泣いてしまう。

「ユークリッド様、エヴァ…来てくれて…ありがとう。」

    感動の再会をしている横から、
 
「フ、フラン…その…だい…」
「アルベルト様~!こ、怖かった!」

    後ろからゆっくり来ていたサンドラが、アルベルトに抱き付き、彼の胸で顔をぐりぐり押し付けている。

『あ―あ…涙と鼻水で、アルベルトの胸がぐちゃぐちゃ…。サンドラの顔も、涙と鼻水と化粧が混ざりあって…うげぇ…エグい、エグいぜ…。』

    あまりの光景に、

「二人とも、行きましょ。」
「「え、ええ…。」」

    ドン引きである。

    声も掛けず、そそくさと馬車に向かった。

「あ、え?ちょ、フラン?」

    胸で涙と鼻水を拭かれたアルベルトは、泣きそうな顔で助けを求めたが、聞こえなかったふりをした。

「何でお義姉様を呼ぶんですか?とっても怖かったんですから、慰めて下さい💖」

    そう言われて、彼女の顔を見たアルベルトがフリーズしてしまった事は言うまでもない。



    大人6人が余裕で座れそうな程広くて、豪華な内装の王家の馬車。

    その馬車に私達は乗り込んで、従者が扉を閉めようとした。

    その時、それを遮り乗り込もうとした人が…。

「「 ひッ?!」」

    驚いた私とエヴァ。
    すかさず、蹴り飛ばしたユークリッド様。

「定員オーバーですわ!」
「ぐげッ!!」

    その声と共に馬車の扉は閉まった。

    御者が馬に鞭を入れ、従者は飛び乗り馬車は走り出しす。

    馬車に乗ろうとして蹴り出された彼を残して。

「クソッ!あのじゃじゃ馬ー!」

    そう叫ぶと、お腹を押さえて馬車を見送る。

「見事な蹴りでしたね。」
「綺麗に吹っ飛びましたねぇ。」

    笑いながら、幼馴染みでもある副官二名が、悔しそうにしているアルベルトの傍に来た。

「笑ってないで、手を貸せ!」

    仕方なく、上司に手を貸す。

「しかし、見事にスルーされてましたね。」
「いや、それ以前に、視認されてなかっただろ。」

    アルベルトが声を掛けるよりも先に、ユークリッドとエヴァがフランを抱き締めた。

    そして、サンドラに抱き付かれているうちに、置いてけぼりにされた。(見捨てられた?)

    何とか、部下に命じて引き剥がし、必死で追いかけ、馬車に乗り込もうとしたら、蹴り出されたのである。

    後ろから、ギャアギャア喚く声が響いてきた。

「アルベルト様~!助けてぇ~!ねえ!ねぇってば!ちょっと、あんた達離しなさいよ!アルベルト様ぁ~」

    その叫び声を聞いた3人は、先程の地獄絵図のような光景を思い出し、真っ青になった。

    馬に飛び乗ると、

「「「撤収ーッ!!」」」

    と号令を出し、馬の腹を蹴ると、駆けて行った。(逃げ出した)



    その頃、馬車の中では、エヴァから水の入ったコップを受け取り、切れた口内の痛みを堪え、フランは水を飲んでいた。

    水で濡らしたハンカチで頬を冷やす。

「で、暴力を振るわれた以外に、何がありましたの?」

    ユークリッドは、自ら危険に飛び込んだフランに怒っていた。

「はぁ…、昔話を少々…。」

    ユークリッドの眉間に皺が寄った後、怪訝そうな表情でフランを見てくる。

「…仰りたい事は分かっています。最初は、何の為に呼び出したのか分かりませんでした。でも…。恐らく、ユークリッド様が考えている理由で合ってると思います。」
「ただ、目的は分かりません。あいつは、作戦を変えなきゃいけなくなったと言ってました。」
「作戦を変更…。まぁ、相互不信を煽って疑心暗鬼に陥らせる事はよくある手だし、理に適っているわね。けど…」

    顎に指を添えて、そう言うユークリッドに

「…そうなんです。理に適っているけど、自分の利益も目的もない、そんな事をあいつはしない。」
「それって、裏に誰かいるって事ですよね。」

    エヴァの言葉に、二人は考え込んでしまう。

    こんなリスクの高い事に、首を突っ込む馬鹿などいるのか?

    フリッツが捨て駒なのは確実。リスクが高くても、この国に入国させ、資金を提供するだけの力と財力がある者。

    彼の後ろにいるそれが誰なのか?

    3人共、頭を悩ませたのだった。

   

    

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