悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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28. 何が?

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*今話も、クズで、胸糞悪くなるような内容です。
    苦手な方は全力で回避して下さい。読まれる方は自己責任でお願いします。

~~~~~






    元婚約者である男の話を聞き終わった時の私は、自分の顔が徐々に、スナチベ顔に変化していくのを自覚するという貴重な体験が出来た。

    自分の言葉に酔っていた男は、気付いていないだろう。

    “味方を裏切っただけでなく、とんでもなくクズで卑怯で最低な事を自分がやりました。”と、声高らかに、ペラペラと喋ったという事に。

    感想を言うなら、「聞くんじゃなかった。」の一言だけ。

    こんな話、あの戦場で訳も分からず死んでいった人達や、残された遺族の方達には、とてもじゃないが、聞かせられない。

    それどころか、当時この男の婚約者だった私は、遺族や生き残った人達からすれば、仇も同然ではないか。

    その上、あの劇…“たとえ死が分かつとも…”、あの嘘で塗り固められ、美談に仕立て上げられた劇…。

    あれのお陰で、仇以上に憎むべき存在に昇格させられてしまった。

    明日から、どんな顔をして生きていけばいいの?


「フランが泣いてるなんて…。ひょっとして、俺の話に感動してくれたの?」
「…な訳無いでしょ!逆よ、逆、そんな最低な事しておきながら、何で生きていられるの?」
「お前もあいつらと同じ事を言うんだな。」
「あいつら…って?」
「一緒に逃げた部下だよ。もう部下じゃないけどな。」

    嫌な予感に、全身に冷水をかけられたような気がして、体が勝手に震え出す。

『まさか…そんな…』

    したくもない質問が口をついて出た。

『やだ…聞きたくない…』

    私の、「もう部下じゃないって…どう…いう?」との質問に、

「煩いから、殺っちゃったよ。当然だろ。」

    口元に笑みを浮かべて答える。

「な…にを…、何笑いながら言ってんのよ!」

『目の前に居る男は、本当にフリッツなの?確かに彼はクズだった。でも、ここまでクズじゃなかった筈。それとも私が知らなかっただけ?』

    体の震えが止まらない。吐きそうになり、片手で口を押さえた。

「可哀想に…震えちゃって。」

    その時、何を考えているのか、フリッツが肩を抱き寄せた。

「触らないでッ!!」

    思わず叫んだ。


~~~~~


    登城していた俺の所へ、緊急の知らせが来たと言われ、部屋に通すように告げると、入って来たのは、アルバ伯爵邸に潜入させていたリヒターだった。

    真っ青になっている彼を見て何かあったと分かった。

「何があった?」

    気が動転しているのだろう、跪くのも忘れて立ったまま報告する。

「アルバ伯爵令嬢が、エックハルト卿に呼び出されました。」
「場所は?」
緑の森グリューネヴァルトにある狩猟小屋です。」
「分かった。済まないが後を頼む。」

    副官に後を頼んで部屋を出た。

    馬車よりも馬の方が速い為、騎士団の厩舎まで急いでいる時に、ふと、疑問に思った。

「何故呼び出されたと分かった?」
「いえ…実は令嬢の侍女から閣下に知らせるようにと…。」
「何ッ!?」

    思わず足を止めた。

「申し訳ありません!」

    俺に知らせるように言われた意味を、今分かったのだろう。

    彼が俺の部下で、伯爵邸に潜入している事がバレていたという事だ。

『いつから…。』

    だが、今はそんな事は如何でもいい。
    俺は隣を歩いている従卒に、一足先に邸へ戻り、公爵家の騎士達に準備させておくように命じた。

    大急ぎで邸に戻ると、今一番会いたくない人物に会ってしまった。

    恐らく彼女も、侍女から詳しい事情を聞きたかったのだろう。

    そう、彼女。フランの親友にして最も頼りになる女性。
    ユークリッド・ディア・エメリッヒ、この国の王女である。

「遅い!」
「申し訳…」
「そんな事より、ミリィ、彼女が出掛けてからどのくらい時間が経ってるの?」
「恐らく、30分は経っていると思います。」

    と、そこへ執事のベーレンドルフが、後ろ手に縛られた男二人を引き摺って来た。  
    が、二人に何があったのか、ボロボロだった。

「まだ欲しい情報があるならお持ち帰り下さい。」
「これは…何故、このような…?」
「責められる謂れはありません。」

    執事のベーレンドルフにしてみれば、主家の令嬢を呼び出したクズの仲間である。この程度で済んだ事を、寧ろ感謝して欲しいぐらいだと思っている。

「兎に角、お急ぎにならないと、アジトに引き揚げられてしまえば、お嬢様の身が更に危険に…。」

    本当は自分も行きたいベーレンドルフだが、行けば足手まといになりかねない。だから、余計に気が急いてしまっている事に本人は気付いていない。

「分かりました。フォイエルバッハ卿、急ぎましょう。子細、検討は彼方に着いてから、でよろしいかしら。」
「承知した。では、行くぞ!」

    公爵家の騎士達に命じると、馬の腹を蹴った。
ユークリッド達はその後ろを駆けて行く。

    フランが、自分達に伝えさせたという事は、彼女が出来る限り、時間を稼ぐという事に他ならない。

    エヴァにも、隼を飛ばして知らせた。森の入り口付近で待ち合わせている。

    「フラン…無事でいて。」

    祈るような思いで馬を駆けさせた。

    

~~~~~

フランの専属侍女の名前をずっと間違えたままでした。なので、変更しています。

カタリーナ(愛称・カティ)
           ↓
ミランダ(愛称・ミリィ)

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