悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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25. 夜会 ③

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*侮辱する言葉が出てきます。苦手な方は全力で回避して下さい。読まれる方は自己責任でお願いします。

~~~~~





    夜会も始まり、アルベルトも戻って来ないので、暫くユークリッド様とエヴァと三人で、お喋りを楽しんだ。

    音も無く扇を広げて

「あの女、確信犯ですわね。」

    そう言った後、扇でゆらゆらと扇ぐユークリッド様。

「やっぱりそうですの?」

    エヴァが答えたその時、舞踏曲の演奏が始まり、国王と王妃が踊りる。

「相変わらず、仲がよろしいですわね。」

    溜め息混じりにエヴァが、羨望の眼差しで見ている。

    この国の国王は、珍しく側妃や愛妾を持たない。王妃一筋で仲睦まじさは有名である。

「見ていてこちらが恥ずかしくなるから、いい加減にして欲しいのですけれど、未だに仲良しですわ。」

    エヴァとは違う意味で溜め息を吐くユークリッド様。

「でも、確かに羨ましいですわ。」

    あ、何か実感籠っちゃった。

    “一度目は偶然、二度目は必然…”なんて言葉があるけど、他の女に心全部捧げてる男にしか婚約してもらえないのだろうか?と、恋の女神とやらが居るなら、文句の一つも言いたくなる。

    昔はこれでも恋に憧れたりした事もある。けど、事ここに至っては諦めしかない。

    で、気がつけば、王太子と王太子妃も踊り終わり、沢山のカップル達が会場の中央付近に集まり、踊り出した。

    見るとは無しにそれを見ていた私は、口にした果実酒を吹き出しそうになった。

    恐る恐る左右を見ると、二人とも鬼の形相で一点をにらみつけている。

「クズなだけじゃなくて、とんでもないアホたれでしたわね。」
「全くですわ。」
「 … 」

    あまりの衝撃に私の口をついて出た言葉は

「ファーストダンスって、いつから婚約者以外と踊るようになったんですか?」

    だった。

「やだフランったら!そんな訳ないでしよ!」

    ユークリッド様からガチでツッコミが入った。

「ですよね。アハハハ…」

    もう、笑うしかない。

    私、何かアルベルトにしたっけ?考えたけど、思い当たる事が全く無い。
    じゃあ、気づかないうちに何かしちゃったんだろな…。

    と、ユークリッド様の手にある扇がミシミシッと、今にも折れそうな悲鳴を上げている。

「ちょ、ちょっと、ユークリッド様!」

    慌ててお止めする。

「あら、失礼。つい…。ほほほ。」

    渇いた笑いのユークリッド様…怖い…。

    幸い(?)一曲だけでこちらに戻って来たアルベルト。

    引き攣りそうになりながら、笑顔を貼り付ける。
「お待たせ。参ったよ、皆クラウディアの事、婚約者だと勘違いするし…。」

    彼がにこやかに言ったと同時に、

    バキッ!!

    ユークリッド様の扇が限界突破した。

    驚く彼。ユークリッド様の後ろで私とエヴァは抱き合ってカタカタと震えた。

    が、流石は王女様。
    ニッコリ微笑むと

「クズなだけじゃなくて、救いようの無いアホたれだったのね。」
「え?」

    彼は何も分かっていなかった。
    いや、別に如何でもよかったのだと思う。所詮、仮初めの婚約者。彼の中あるのはそれだけ。

    だから、こんな事が出来るんだろう。夜会のドレスも贈られず、エスコートも無しで一人で入場、挙げ句にファーストダンスも他の人と踊られる。

    そんなのは婚約者とは言わない。

    彼にとっては、密入国しているフリッツを捕まえ、4年前の真相が分かればそれでいいのだ。

    その目的さえ果たす事が出来たら、仮初めの婚約者がどんな扱いを受けようと構わないのだろう。

「流石、氷撃の撃墜王…」

    ボソッと呟いてしまい、ヤバッと思ったが…まぁ、いいか所詮仮初めだし…。と思い直した。

    でも、彼の耳には届いていなかった。

    その時彼は何か失態をしでかしたのかと、只管ひたすらユークリッド様に謝罪していたから。

    ほらね。と言いたくなったのは言うまでもない。(言う必要もないから言わなかったけど。)

    エヴァは残念な物を見るような眼で彼を見て、大きな溜め息を吐いた後、首をゆっくり左右に振っていた。

    その後、折角練習したからと、ダンスに誘われたけど、靴擦れで足が痛いから…。と、丁重にお断りした。

    因みに、婚約御披露目は、一応あった。
    壇上に上がり、陛下から「王命により、両名が婚約した事を周知する。」と宣下された。

    けれど、壇上に並んだ二人の間は、人一人分ぐらい空いていた。

 『仮初めだし、そこに愛は無いから、当然と言えば当然ね…。』

    この時の私には諦念しかなかった。
    
    だから、『とっとと、フリッツを取っ捕まえて、4年前の真相を突き止めてやる!』と、決意を新たにした。

『そして、領地に籠ってスローライフよ!』

    まぁ、それが無理なら…旅にでも…。

   なんて事を考えていた。
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