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23. 夜会 ①
しおりを挟むそして夜会の日…
今日まで何度も練習した。正直言って、上達した気がしない。
アルベルトの足を踏まずに踊る事が出来たら…。氷撃を食らいたくない私は、その事だけしか考えていなかった。
他にも問題はあったのに…。
~~~~~
夜会の日、アルベルトは仕事がある為、遅れて入場するから、先に一人で入場するように言われていた。
『マジか…。』
他にエスコートしてくれる人がいれば良かったんだけど、当然そんな人はいない。
だから、諦めて一人で入場した。
のだが…
やはりと言うか、入場を待つ間、周囲の値踏みするような物から、嘲るような物まで様々な視線を投げ掛けられ、好き勝手囁かれる噂話に辟易した。
そして、入場したらしたで一斉に視線が集まり、あっという間に入場待ちの時と同じ状況になる。
あと、視線が痛い…。
とんでもない数の縁談を持ち込まれていたアルベルト。
しかも、それらを蹴り(断り)続けていた。
王命で転がり込んだ“優良物件”を手に入れた(ようにしか見えない)私に対する、嫉妬や憎悪、侮蔑や羨望といった類いの視線が次々突き刺さる。
入場前から、既に帰りたいと思っていた私。
でも…逃げ出せない。
この夜会は、王命によって決められた婚約の御披露目も兼ねた物だから。
故に、公爵閣下には一刻も早く来て頂きたい。
仕事だから仕方ないと思う反面、何だってこんな日にまで仕事なの?と思ってしまう。
取り敢えず知り合いを探し、挨拶するふりをして…。
と、考えていたら
「お義姉様~!」
響き渡る甲高い声。
姿を見ないと思っていたら、先に入場していたらしい。
恐らく、公爵閣下と入場すると思われていたんだと思う。
響き渡る声で呼ぶのもそうだけど、この様な場所で駆け寄るのもマナー違反だからね!
顔を引き攣らせていると、
「あれ?アルベルト様は?」
義妹よ。第一声がそれ?
「大きな声を出すのも、駆け寄るのもマナー違反ですわよ。」
一応、注意しておく。
頬を膨らませ、口を尖らせる義妹のサンドラ。その後ろから、お父様とお義母様が歩いて来た。
「まぁまぁ、そんな細かい事で一々“目くじら”立てていたら、この先、遣っていけませんわよ。ほほほほほ…」
『いえ、十分遣っていけますわ。』
心の中でだけ言う。
サンドラが袖を引っ張る。
仕方ないのでそちらを見ると、
「アルベルト様はどこですの?」
何故か咎めるように言われる。
『なんで?』
「ひょっとして放置されて…」
「仕事で遅れるから、先に入場しておくように言われただけです。」
『なんて事を言い出すの。ホントに。』
それを聞いたサンドラが、いそいそと何処かへ行った。
???
『何がしたいんだろ?まぁ、いいか。』
その答えは、暫くしてから分かった。
何故ならば、
「アルベルト・ヨーゼフ・フォイエルバッハ公爵様~ご入~場~!」
と、入場の名呼びがあったから。
ザッ!と音がするかと思う程、会場中の人々が一斉に入り口を見た。
が、次の瞬間、どよめきと共にそれらの視線が一斉に私に注がれる。
「なんで?」
そして、どよめきがピタッと止んだ後、遠くの方(恐らく入り口の方)から、きゃんきゃんとお座敷犬が吠えているような声が響き渡る。
しかも2つ…。
『え?2つって…?』
と、静かになった。
『何があったし…?』
いきなり人垣が、“モーゼの海割り”の如く、左右に分かれ、アルベルトがにこやかに私に向かって歩いてくる。
その後ろに、お父様に口を押さえられたサンドラが見えた。
そんな事はお構い無しに、私に向かって真っ直ぐ一直線にアルベルトが歩いて来る。
そう、黒地に銀の刺繍が施された上着とトラウザーズ、ポケットチーフとクラバットはアイスブルー、フロントとサイドの髪は後ろに向けて撫で付け、正装した5割増し格好いいアルベルトが…。
「えっ?」
でも…何かがおかしい。
いや、おかしいなんてもんじゃない!
私の方に、にこやかに歩いて来る彼が、
「結婚式か?!」とツッコミたくなるような…
白地に銀ラメ、パールとアイスブルーのアクアマリンが縫い付けられた、襟周りの広めなプリンセスラインのドレスを着て、勝ち誇ったように微笑むクラウディアを腕にぶら下げていた。
重要な事なので二度言わせて頂きたい…
「なんで?」
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