悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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21. 愛は無くとも

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*今話は、フランとアルベルト、交互の視点で話が進みます。

~~~~~

    公爵家へ向かう馬車の中、ミリィは窓の外を眺めながら溜め息を吐く。

「公爵家との結婚って、大変なんですね。妻になる為の勉強があるのって、王家に嫁ぐ時だけだと思ってました。」
「仕方無いわよ。爵位が上の家から、下の爵位の家に嫁ぐなら、そんな必要ないけど、その逆ってなるとね…。」

    真実って、時に残酷…。
    フリッツがあの時死んでて、王妃や王太子妃が言うみたいなミーハーな理由なら、まだマシだった。

    そこに愛は無くとも…良い意味での何かが育ったかもしれないのに…。

    何だか、今日は閣下に会う前から疲れちゃったみたい…。やだなぁ…。

    恐らく、フリッツが捕まるか、あの時戦場で何があったか分かったら、この婚約、又は婚姻が無効になるんだと思う。

    それまでは、この馬鹿げた舞台から降りる事など許されないんだろうな…。

    そして今日も、顔に笑顔を貼り付け、大階段下で出迎えてくれている閣下に、私も貼り付けた笑顔で挨拶する。

『愛は無くとも…か。とんだ茶番よね。』

    

~~~~~

    今日の彼女は、何処か様子がおかしかった。

    元婚約者と連絡が取れて、何か思う所でもあるのだろう。
    というよりも、彼がこの国に戻って来ると知って、この婚約が嫌になったんだろう。

    そう、彼は既にこの国に密入国している。

    元々、騎士団内で起こった対立へのカンフル剤的な意味合いの婚約だったのだから、頃合いを見計らって婚約解消なり、離縁なりする事が前提の婚約だった。
    だから、それまでは彼女に我慢してもらうしかないな。

    しかし、幾らそれらしく見せる為とは言え、“王命”はやり過ぎだろ。

    愛は無くとも…なんて言葉があるが、愛する男が戻って来た以上、例え王命だったとしても、彼女と俺の間に、何か育つ事など無いのに…。

    …?
    これじゃあ、まるで彼女の元婚約者が居なかったら、何か育ったみたいな言い方になってしまうじゃないか。

    俺の見た目や地位に群がってくる女達とは違うと思い込んで、少し期待していただけに、それを裏切られて彼女に対して悪感情ばかりになっていた。

    とんだ茶番だな…。

    そして俺は今日も、笑顔を顔に貼り付けて彼女を出迎える。

    今日も交流の為のお茶会だ。

    しかも、王家主催の夜会が近いから、ダンスの練習を二人でする事になっている。

    ダンスは苦手だ。
    
    夜会などで令嬢や未亡人達に群がられるが、色々なキツい香水の臭いが混ざり合って吐きそうになり、頭痛までする。

    幸い(?)彼女は香水を使っていないのかと思うほど香水の匂いはしない。
    が、元々の彼女の匂いか、ほんの少しだけ香水を使っているかのように、ふとした時にほんのりといい香りがする。

    それはいいのだが…。

    彼女とダンスをした事は無いが、やはり彼女も他の女達のように必要以上に、身体を密着させてきたり、胸を押し付けてきたりするのだろうか?

    それを考えただけで憂鬱になる。
    そう、ダンスなどというものを作った奴を怨みたくなる程に…。

    ダンスなんて無くなればいい…。

~~~~~

    お茶会の後、ダンスの練習があると聞いて眩暈がした。

    近く、王家主催の夜会があるかららしいけど、私からすればとんでもない!

    思わず「誰だよ、ダンスなんて考えた奴!」と、腹の中で悪態を付いてしまうくらい…。

    ムスクをシャワー代わりに浴びたのか?と言いたくなる程キツいムスクの臭いと汗と煙草の臭いが混ざった臭いに頭痛と吐き気と眩暈に襲われながら、緊張して手汗で湿った手と手を繋ぎ合わせた上に、身体を必要以上に密着させて踊るなんて、何の罰ゲームだよ?と言いたくなる。

    まぁ、閣下はキツいムスクの臭いも煙草の臭いもしないし、これまで傍に居る事があっても、汗の臭いを感じた事が無いのが救いと言えば救いではあるが…。

    あの閣下の事だから、ムッツリスケベでもない限り、身体を密着させてくるなんて事も無いと思われる…。

    逆に、私がダンスが苦手な所為で、舌打ちぐらいはされそうだ。
    舌打ちだけで済めばいいが、+ 侮蔑したような冷たい眼でみられるのだろうな。

    おまけに、足でも踏もうものなら…。“推して知るべし”である。

    その様を想像しただけで憂鬱になる。

「はあぁぁぁ…。ホント誰だよ、ダンスなんて考えた奴。」

    一人言ちた。

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