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18. このままでいいの?
しおりを挟むあのお茶会の後、結婚する二人の交流目的のお茶会の為に、公爵邸を訪問した。
前回と同様、大階段の下で閣下が、紳士的な態度で出迎えてくれる。
「…何か?」
「いえ…何も…。」
いけない。つい閣下の顔をガン見していたみたい。気を付けなきゃ。
けれど、今はこの世に居ない彼の婚約者…。彼女の事を未だ愛しているのに、いくら任務とはいえ、親の敵である男の元婚約者と結婚しなければいけないなんて…気の毒過ぎる。
そう思う度、フリッツに対して怒りが湧く。
そして今、閣下と私は、応接室でテーブルを挟んで座り、お茶を飲んでいる。
「フランドール嬢、あなたがフリッツ・エックハルト卿の婚約者だったとは驚きです。」
「え…ええ、まぁ…。」
「しかし、よかったんですか?今でも彼を愛しているのでしょう?」
「いいえ。そんな…というか、閣下の方こそ、このまま結婚してしまっていいんですか?」
危うく、あんな奴と結婚せずに済んで良かった。と言うところだった。
そうよ。私の事なんていいのよ。この結婚が、離婚前提って分かっているから。
そんな事より、こっちこそ、閣下の亡くなった婚約者への想いを踏みにじるみたいで申し訳ないのに…。
『全く、あのバカ!』
フリッツの所為で、散々である。
顔を上げると、閣下と眼が合った。と、前回までと違って、貼り付けた笑顔を浮かべ、
「そうそう、フランドール嬢の婚約者と私の父は、同じ第一師団だったんですよ。ご存知でしたか?」
ガチャッ!
動揺して、カップを置く時に音を立ててしまった。
このタイミングでその話を出すのは、何か目的があったりするのだろうか?
でも、動揺を誘うのが目的だったかもしれないと思う。
小心者の私はまんまと引っ掛かってしまったということか…。
「いいえ。全く知りませんでしたわ。」
『声は震えていなかった筈…。』
結婚したら、この先ずっとこんな腹の探り合いみたいな事が続くのか…。
『胃が痛い…。もう、帰りたい…。』
テーブルの上のカップに手を添えたまま俯いた。
紳士的な態度で接してくれているけど…何か違和感を感じる。
『何だろう?』
そして、閣下と眼が合った時、ハッとして気付いた。前回までは、確かに無かった。
それは、冷たいだけでなく、蔑みを含んだ眼だった。
『どうして…?』
やはり、監視対象となった事と関係があるのかもしれない。
漠然とだけど、そう思った。
そして、自分の考えの甘さを思い知らされた。
『無理よ。無理だわ。』
蔑みを含んだ眼で、自分の事を見ている人と、どうやって情が生まれると言うの?
「顔色が悪いようだが、体調が悪いのか?」
口角が上がって、口元だけを見れば笑っているようだけど、眼が笑っていない。
「いいえ、緊張しているだけですわ。」
動揺しているのを、悟られないように、声が震えないように努めて答えた。
「なら、いいです。少しでも体調が悪かったら、遠慮せずに言って下さい。」
「…ええ、ありがとうございます。」
何処か、私の反応を窺っているように感じる。でも、気の所為かもしれない。
公爵夫人になる為の勉強も始まっているけど、社交は必要最低限でいいと言われている。
それでも、王家や高位貴族が主催している物は出席しなくてはいけない。
が、重要な書類等は閣下にしか分からない事も多い為、今のところしなくていいらしいので、それらの事については良かったと思っている。
元婚約者のフリッツは、どんな裏切り行為をしたのだろうか?
「そんなに熱い眼で見られると、流石に照れるよ。」
いけない。また閣下をガン見していたみたい。
「すみません。少し考え事をしていて…。」
当たり障り無く答えたつもりだったのに…。
「あぁ、それとも私の事じゃなくて、元婚約者の男の事でも考えていたんですか?」
「え?」
「冗談です。今言った事は忘れて下さい。」
「はい…。」
何故、こんなにも元婚約者のフリッツの事ばかり言われなくちゃいけないの?
と、居心地の悪い思いをした。
『このままでいいの?』
自分に問いかける。
だけど王命だから…仕方ない。そう自分に言い聞かせた。
何だか“王命”で逃げ道を塞がれ、追い込まれているような気がした。
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