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17. 知りたくなかった真実
しおりを挟む彼女の事を、少し見直したというか、こんな出会い方でなければ…と思うぐらいには、その印象は良くなっていたのだが…。
まさか、時間差であんな事をするとは…。
お互いに条件を提示しようとしたところで、あの忌々しい女が乱入して来た。
フランドール嬢が邸に入って来た時には、確かに居なかった。
馬車の中にでも隠れていたのか?
と思うようなタイミングで乱入して来た“招かざる客”は、あろう事か俺の名前を呼びながら抱き付いて来た。
咄嗟に避けようとしたが、隣に座っていた書記官に躓き、屈辱的な“膝の上に横抱き”された格好にされただけに止まらず、頭から香水を浴びたかと思うほど、キツい臭いをさせた、娼婦のような格好の女に抱き付かれてしまうなど…堪えられない!
なのに、眼が合った彼女は、それを退ける事もなく、謝罪もしないどころか
「 あ…。」
などと、間の抜けた声を出した。
「あ…。じゃないだろう!」
そう言ったら流石に退けてくれたが…。
頭の中でまだ警鐘が鳴り響いていた。“次の攻撃がある”と。
ソファーの陰に立て掛けていた剣を手にしたところで、再びあの娼婦が俺の名前呼び、飛び掛かって来た。
丸腰の女を叩き斬る訳にもいかないので、鞘ごと鼻先に突き付けた。
稀に見る “トラウマ級”の生き物を撃退できて、ホッとしていた俺の耳元で、バトラーが「もう一匹玄関先で暴れている。」と告げた時には、怒りが頂点に…。
『そうか、これが君の遣り口なのか。やはり君も、彼女達と同じ種類の女だったんだ。』
彼女に対する印象が地に堕ちた瞬間だった。
~~~~~
閣下がそんな風に思っているなんて知らなかった。
というか、あの二人に頭の痛い思いをさせられ、精神的に参っていた私は、そこまで思い至らなかった。
閣下の眼が人間を見る物から、虫を見る物に変わったと気付いたのはかなり後で、ちょっとガッカリしたけど、結婚後も何とかやって行けるんじゃないか。なんて思っていた。
~~~~~
今日はお茶会という名の“報告会”
ユークリッド様、エヴァ、私の3人がこの日の為に仕入れた情報を報告し合う。
その中で驚いたのが、“私の元婚約者が生きているかもしれない”というエヴァから齎された情報。
エヴァの幼い時からの専属侍女が、エヴァの婚約者の従者(恋人)から上手く聞き出してくれたらしい。
それを聞いて、呆れた。
“生き残って隣国に居る”
その意味とは、つまり“裏切り行為”があった事に他ならない。
私はあの男の元婚約者として、隣国との戦いで亡くなった人達の遺族に対して、申し訳なさでいっぱいになった。
ユークリッド様もエヴァも…二人共「フランの所為じゃない。」って言ってくれたけど、途中までとはいえ、結婚式を挙げていた私の胸は傷んだ。
と同時に、理不尽さを感じた私も、あの男と同じ穴の貉だと思った。
婚約破棄が成功していたら、こんな思いをしなくてよかったのに…。そう思ってしまったから。
そこでユークリッド様から
「王家だけでなく、公爵家の暗部にも動きがある。」
と聞いて、私もエヴァも顔色を失くした。
口元で扇を広げて眼を眇め、私達を見ていたユークリッド様が口を開く。
「フラン、あなたに黙っていた事があるの…。」
「 …?」
その真剣な表情に、息が詰まりそうだった。
「あなたと公爵の結婚話は当初、騎士団内の不穏な空気を抑える為に、テレサの案に国王と王太子が便乗した物だったの。」
「それって、どういう…?」
『騎士団内の不穏な空気って、何?』
初めて聞く話に、訳が分からない。
「あの戦闘の後、前公爵が指揮していた第一師団の生き残りに、あなたの元婚約者、エックハルト侯爵令息が指揮していた第五中隊の生き残りを加えて、軍の再編が行われた。でも…その当初から、令息の裏切り行為は、両部隊の一部で囁かれていたらしくて…。」
ユークリッド様から語られた内容に驚愕した。が、話はそれで終わりではなかった。
「その裏切り行為があったとの噂を払拭したいが為に、“例え死が別つとも…”というタイトルの劇が作られ、上演された。」
「「 !? 」」
「でも…事はそう簡単にはいかなかった。噂は部隊内に広がり、日に日に対立が酷くなって…。」
「…で、私と閣下の結婚なんて話になったんですか?」
扇を口元で広げたまま、ユークリッド様が頷く。
エヴァは言葉も無く話を聞いていた。
当時、閣下は近衛騎士団に所属していた為、あの戦闘には参戦していなかった。
けれど、エヴァの婚約者は参戦していた筈…。だから、色々と思うところがあると思う。
『なんて事…じゃあ閣下は敵の元婚約者との結婚を王に命令されたって事なの?!』
にも拘らず、今の所、多少の嫌味や冷たい眼で見る事はあるものの、怨み言も言わずに紳士的な態度を取っている。
「だから、王命で、私だった…。」
力無く呟く私に、ユークリッド様は告げた。
「そう。そして…フラン、今から言う事に、ノーリアクションでお願い。フラン…あなたは元婚約者が生きていた事によって…監視対象になった…。」
思わず顔を上げそうになった。
『…そんな!?』
そして、ユークリッド様は続けた。
「本当は、言ってはいけない事なの…。でも…あなたの事が心配で…。言動に注意してね。呉々も無茶は駄目よ。」
涙が出そうになるけど、今この時も、恐らく監視されている筈。そう思って何とか堪えた。
そして、閣下との結婚生活に対する甘い考えは捨てた。
だって、彼は敵の元婚約者と結婚しなければならないのだから…。
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