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15. 頭が痛い
しおりを挟む隣に座っていた書記官の膝に閣下が横座りする格好になってしまった結果、更にその閣下の膝にサンドラが乗る形になってしまい、下敷きになった書記官は「ぐえッ!!」と、変な声を出した。
見てはならない物を見てしまったと思った私は、目の前から扉の方に視線を移した。
扉を開けて、様子を窺おうとしていたらしい護衛騎士は扉に潰され、ミリィが声を掛けている。
因みに、公爵家の侍女もミリィ同様、扉に近付かなかったので無事だった。
公爵家の侍女が無事でホッとした。
が…恐る恐る視線を戻す。
逃げるに逃げられず、青い顔をした閣下と眼が合った。
「あ…。」
「あ…。じゃないだろう!」
『ですよね。』
「ちょっと…サンドラってば…。」
言いながら、閣下から引き剥がす。
と、下から睨み付けられた。
「邪魔しないで!」
再び閣下に抱きつこうとしたが、今度は逃げられ、書記官に抱き付く羽目に…。
「あ…。(ポッ)」
書記官、頬染めない!
「サンドラ…いい加減に…。」
今度は、書記官から引き剥がす。
と、目を潤ませ、閣下に縋り付こうと駆け寄る。
「アルベルト様ぁ~」
が、今度は断固拒否された。
鞘に入れたままの剣を鼻先に突き付けられ、
「酷ぉい!何で?」
「正当防衛だ!それ以上近付くな!」
言い切った後、荒くなった呼吸を整えて私の方に顔だけ向け、
「誰が連れて来ていいと言った?」
冷たい眼で睨まれる。
「連れて来てません!」
「そうですわ!お義姉様ったら、酷いんですぅ。アルベルト様の所に行くのを、私に教えてくれずに黙って行ってしまうんですよぉ!」
『頭痛ぇ。お願い、もう黙って…。』
サンドラの話に頭が痛くなる。頼むから何も言わずにとっとと帰って欲しい。
閣下も同じ考えだったみたいで、部屋に入って来た執事に
「摘まみ出せ!」
と、指示した。
公爵家の騎士が4,5人入って来たかと思うと、サンドラを拘束して部屋から引き摺って行った。
扉が閉まったのを見てから、ソファーに座り、頭を抱えた。
そこへ、執事が扉をノックして、返事を確認してから閣下の傍まで行き、耳元で何か囁いた。
バキッ!!
「ひッ?!」
テーブルの上を見て血の気が引く。
閣下が置いたカップとその下にあった皿が割れ、お茶がテーブルに広がる。
視線を上に向けると、怒りの顔が…。
「叩き出せ。」
低く唸るように閣下が言う。
それを聞いた執事が踵を返し部屋から出て行った。
その間、侍女がテーブルの上を片付け、お茶を入れ直して置く。
目の前の閣下は大きな溜め息を吐いた後、額に手を当て天井を見上げた。
「 叩き出せ。」って事は、まだサンドラがごねているのか?
…!?
と、思い出した。サンドラと対で居る事が多い人物の存在を…。
体内の血が一気に下がり、全身から嫌な汗が…。
そして、閣下の顔を見た私の背筋が凍り付く。
閣下が、ゆっくりと口を開く。
「何か…?」
「も、も、申し訳ありません!」
テーブルに額をぶつける勢いで、頭を下げる。
意図せず口から、吃りながらも言い訳が出てきて、
「ああ、あの、つ、連れて来た訳では…。だん、断じて…。ほ、ほ、ほ、ほん…本当に…。も、も、申し訳ありません!」
後は、米突き飛蝗か、水飲み鳥の如く、只々、頭を下げ続けた。
『もう…嫌…。』
恐る恐る顔を上げると、観察しているかのような閣下の眼が…。
『何を考えているのか分からなくて…分からないから…怖い。』
それは、ほんの僅かの間で、直ぐに貼り付けたような笑顔に変わった。
「中々ユニークなご家族だ。」
嫌味である。
「申し訳…」
「あなたの謝罪は求めていない。」
「…も…」
口から出そうになった謝罪の言葉を飲み込む。
その時
「…あのぅ、私はどうすれば…。」
「「 !? 」」
閣下の隣を二人共、見た。
「「 あ…。」」
忘れていた。
そこには、困惑した書記官の顔があった。
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