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13. お茶会前
しおりを挟む“お茶会”と称した契約を交わす為の交流日を明日…深夜だが、日付が変わったので当日、フォイエルバッハ公爵邸の寝室。
暗闇の中、姿を現した者がいた。
「何かあったのか?」
ベッドの上で声がした。
男は素早くベッドの傍に行き跪く。
「昨夜、監視対象と接触した人物が、アルバ伯爵邸の使用人と接触したと報告がありました。」
その報告を聞いた主の口角が僅かに上がったのを男は見逃さなかった。
「潜入している者に、出入りしている者も含めて、これまで以上に監視を強化する旨伝えろ。」
「は!」
男が姿を消した後、ベッドの上で何事かを考えていたようだったが、暫くすると、規則正しい寝息だけが聞こえるだけになった。
~~~~~
今日は、交流目的のお茶会がある為、朝から忙しなかったが、何処と無くお父様とお兄様の様子がおかしいというか…。
何か空気が張り詰めている…?
朝食を食べている時、無意識にだろうけど、チラチラと私の様子を窺っているみたいな感じ。
何かあったのか?何かあるのか?
昨夜の晩餐の時は、そんな様子は見受けられなかった。
という事は、朝までに何かあったのね。
「お兄様、今日はやけにゆっくりですわね。お仕事はお休みですの?」
と、軽く探りを入れてみる。
すると、ほんの僅かに片眉がヒクついた。
それを見て、
『やっぱり何かあったんだ。けど…何かまでは分からないわね。』
~~~~~
実は、早朝、日も昇らないうちに、王太子から俺の所に知らせが来たのだった。
“昨夜、伯爵邸内に接触者あり。そのまま静観せよ。”
妹の元婚約者が生きて隣国にいるという話を、王太子から聞いて以降、初めての接触。
王太子からは、
「この件の解決に協力すれば、伯爵家を罰する事は無い。が、元婚約者と繋がっていた者の身柄は、例え何者であっても引き渡すのが条件だ。」
との言質は取ってある。
とはいえ、実の妹だ。出来る事なら助けてやりたい。
が、領地と領民に対しての責任がある。
邸内にいる接触者から、妹に接触はあったのだろうか?
見ている分には、いつもと変わり無いように見えるのだが…。
そんな事を考えていたら、探りを入れてきた?という事は、やはり何か接触があったのだろうか?
疑心暗鬼になって、お互いに探り合いになっているのを二人は知らなかった。
そして、少し遅くなってしまったが、まだ始業時間には十分間に合うので出仕した。
~~~~~
取り敢えず、お茶会に行く為に支度をする。
ミリィは、今にも鼻歌を歌い出しそうなぐらい上機嫌だ。
ドレスを着せられた後、サイドの髪を後ろに向けて複雑に編み込んでいく。
最後に髪留めで留めると満足気に頷いている。
そして化粧をする時には、本当に鼻歌を歌い出した。
支度が進む毎にテンションが上がっていく彼女とは逆に、私のテンションは駄々下がっていく。
自分の使えている伯爵家の令嬢が、“氷撃の撃墜王”のハートを射止めたと信じて疑っていない様子に良心が痛む。
んな訳無いのに…。
~~~~~
しかし、ミリィにしてみれば、所用で街に行った時、他家の侍女に出会して、「おめでとうございます。」なんて言われたりすると、鼻高々なのだった。
それまでは、「変わり者のお嬢様に仕えて可哀想。」などと影で言われて悔しい思いをしていたのだから。
“蓼食う虫も好き好き”
「氷撃の撃墜王は、変わり者が好きだったのか?」
と思ったり、言われたりしても、そこは“腐っても公爵家”、おまけに女の影も形もなく、仕事に関しては優秀という評価の超優良物件。
ミリィは自分が仕えている主の幸せを信じて疑っていなかった。
まさかの契約結婚で、この後、嵐に巻き込まれるなど、一介の侍女に分かる筈など無いのだから…。
~~~~~
二人がそれぞれ胸の内の考えなど知らないまま、支度が終わり、出かける事となった。
今日はお嬢様の付き添いだし、気合い入れて頑張るわよ!
と意気込むミリィの前を、力無く歩くフラン。
そんな主の後ろ姿を、
『嫌だわお嬢様ったら、昨夜はよほど嬉しくて眠れなかったのね。』
なんて思って見ている。
そのお嬢様の方は
『あぁ…嫌だ。行きたくない。閣下怖い…。』
と思っているなんて知らずに…。
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