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11. 尻尾を掴め!
しおりを挟む━ アルベルト ━
フランドール・アルバ伯爵令嬢、20歳。その外見は、光の加減でアイスブルーに輝く銀髪、エメラルドのような鮮やかなグリーンの瞳。薄く紅を刷いたみたいに色づく唇。
決して美女という訳ではない。ある程度整った顔をしているが、上ランクの十人並みといったところか…。
“毒にも薬にもならない女”
それが4年振りに見た彼女の印象だった。
彼女を初めて見たのは、4年前に隣国との国境で起きた戦いで戦死した騎士達の追悼式でだった。
戦死した騎士達の鎮魂の願いが込められた石碑に、参列者が花を手向けていく。
その中の一人が彼女だった。
気丈にも涙を堪え、死んだ婚約者に何か話し掛け、花を手向けた彼女から何故か眼が離せなかった。
その時に、近くにいた令嬢や夫人達が彼女の噂をしていた内容に同情したのだと思う。
そう、2年ぐらい前から、“君が為、散る命”というタイトルで上演されている劇。そのヒロインのモデルが彼女だった。
(何を隠そう、俺も2度観に行った。そして、恥ずかしい話だが、泣いた。)
あれから4年間、俺の心の中にあの時の彼女が居座り続けた。
ずっと気になっていたが、追悼式以降、彼女は社交界から姿を消していた。
だから、彼女がどうしているのか気になって調べたのだ。
追悼式以降、彼女は領地にずっと引き籠ったまま…。そして気が付けば4年の月日が流れていた。
それがつい最近になって、彼女が王都に戻って来ていると聞いた。
俺は彼女に会って、話をしてみたいと思ったのだ。
彼女が俺に群がって来る女達とは違うような気がして…。
そして彼女となら、恋愛ではなくとも、友情なり親愛の情なり、育めるのではないかと…。
俺だって男だ。友人達のように恋愛に憧れた時もある。だから…期待してしまったのだ。
その事とは関係無く、4年前に父が戦死した後に気になる話を聞いた俺は、その事をずっと調べていた。
そして、つい最近ある報告を受けた。
彼女の婚約者が生きて隣国にいるのを見た者がいるというのだ。
父が戦死した後に聞いた、気になる話というのは、“その男が裏切った為に、父を含めた多くの騎士達が死んだ。”という内容の物だった。
彼女の婚約者だった男が生きているという話を聞いた俺は、彼女に対してある疑惑を抱いた。
追悼式の時、彼女が泣かなかったのは、彼が生きているのを知っていて、連絡を取り合っていたからなのではないか?
それならば、結婚式の途中で愛する男と引き裂かれ、その男が死んだと聞かされても、涙一つ見せなかった事に納得がいく。
彼女に淡い期待を抱いていた俺は、その想いを踏みにじられ、裏切られた気持ちになった。
やっぱり彼女も、俺に群がって来る女達と同類なのだと…。
あの女狐め!必ず尻尾を掴んでやる!
そう思った。
ただ、どうやって近付いたものかと悩んでいたら、上手い具合に彼女との婚約話が持ち上がった。
これを利用しない手はない。
勿論、この事は国王もあの腹の黒い王太子も知っている。
父が戦死した時の事を調べる最初の時から二人は関わっていたのだから。
まさに“飛んで火に入る夏の虫”とはこの事。
あの女は“毒にも薬にもならない”ような振りをして、とんだ食わせ物だった。
早く尻尾を出せ!
その時がお前の最後だ!
そして今、目の前で青い顔をして縮こまっている振りをしている女を、油断させる為にも恋人のように振る舞わないとな。
腹の中でくっくっと嗤った。
だが後日、俺はこの時の自分を、フルボッコ(フルでボコボコにする)にしたくなるとも知らずに、その時は本気でそんな事を思っていた。
勝手に期待して、勝手に裏切られたと思っていたくせに。
~~~~~
━ 仕切り直しの続き ━
「遠慮なんてしなくていいから、どれが食べたいか教えてくれないかな?ん?」
「あの…何で急に優しくなったんですか?」
何か裏があるような気がした私は、取り敢えず聞いてみた。
「ん?やっぱりそう思うよね。実は君に頼みたい事があって…。」
何でも持ってる公爵閣下。王命の婚約でも(裏から手を回して)国王に、無かったように頼める閣下が、私に頼みたい事なんてあるのだろうか?益々怪し過ぎる。
訝しんで閣下をじっと見ていると、
「俺が今まで、縁談を断りまくってたの知っているよね。有名な話だから。で、今回は王命による婚約だろ?丁度いいかな。って思ったんだ。」
急に(随分と)砕けた口調になった閣下に、更に疑いの眼差しを向けた。
「そんなに警戒しないで欲しいな。つまり、俺はここで君との縁談を断っても、まだまだ縁談は持ち込まれる訳だろ?」
「…まぁ、閣下ならそうでしょうね。」
「もう、疲れちゃったんだよね。それに、いい加減うんざりしてるし。だから、偽装結婚して欲しい。そしたら、結婚、結婚って煩く言われなくなる。という訳。頼む!お願い!駄目かな?」
それは、物凄く納得出来る話だった。
正直、縁談が持ち込まれだした私にとっても“渡りに舟”な話な訳で…。
おまけに、お義母様とサンドラと同じ邸に居る事に疲れてしまっていた。
それに、兄も結婚した以上、夫婦の邪魔はしたくないし…。
でも、何か裏がありそうなのが物凄く気になる…。
まぁ、私を騙しても得するような事って無いと思うし…。ま、いっか。
と、簡単に考えてしまった。
だから、一番気になっていた事を聞いた。
「…分かりました。でも、公爵家の跡継ぎは如何なさるんですか?」
私が投げ掛けた疑問に、閣下は固まった。
流石にそこまでは考えていなかったようだ。
『ですよねー』
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