悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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7. 顔合わせ

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    その日は朝から邸内はバタバタしていた。
    お義母様もいつもより早い時間から、殺気立った様子で使用人達を叱り飛ばし、指図している。

「うわぁ、触らぬ神に祟りなしってとこだね。」
「全くですわ。」

    思わず口をついて出た言葉に、また“お小言タイム”が始まるのかと、恐る恐る振り向くと、専属侍女のミランダ(愛称・ミリィ)がニッコリ微笑んで立っていた。

『お願いだから、気配もなく後ろに立たないで…(泣)』

「という事で、とっとと飯食って、さっさと着替えやがれ…ですわ。」
「ミリィ…あなたも言うようになったわね。」
「お褒め頂きありがとうございます。が、かのお方は電光石火な方だとお聞きしております。ならば、速やかに準備なさるのが最善と考えますが…。」
「ぐぬぬぬぬ…。」

  『  相変わらず、無表情で正論を吐きやがりますわね。』

    とはいえ、顔合わせなので最初が肝心。やっぱり、第一印象って大事だよね。
けど…はあぁぁ…気が重い…。

    結局、朝食は喉を通らず、フルーツを少しとミリィ特製の野菜スープを取っただけでお腹がいっぱいになった。

    その後は、侍女達に身体中磨き上げられ、バラの花弁から作られたバラ水なるもの(化粧水のようなもの)を、全身に塗られ、髪にも香油を塗られた。

    そこからがまた大変で、誰に見せる訳でもないのに、用意されていた乙女チックな下着を身に付けた後、侍女二人掛かりでコルセットの紐を締め上げられ、淡い白に近いアイスブルーのシルク地に同色のオーガンジーを幾重にも重ねたプリンセスラインのドレスを着せられた。
    襟はそれほど広くなく、オーガンジーで華やかさがあるものの、清楚な感じに仕上がっている。

    と、ここまでで2時間、やれやれである。

    そしてドレッサーの前に座らせられ、サイドの髪を編み込んで後ろで髪留めを使って留める。白い小花を編み込んだ髪に散らしたみたいに差し込んでいく。

    安定の職人技である。

    次は装飾品なのだが、これが中々…。で、ここでも侍女達のセンスが試されるのだが、流石である。

    適当に見繕っているように見えて、何が何が、素晴らしいセンスで、しっくりくる装飾品で飾ってくれる。

    イヤリングは小振りながらも鮮やかなグリーンの葉っぱみたいな形に加工された物が幾つかぶら下がっていて、それがシャラシャラと揺れる。

    そして、チョーカーを付けたのだが、それがまた可愛い。黒いレース糸で編まれた小山が連なり、滴型に加工されたエメラルドが付いている。
    中央にはオーバルの形のエメラルド。その周囲は小粒のパールでぐるりと囲まれている。

    で、これで出来上がりではない。
最後に繻子を使った白い靴には、金糸、銀糸で刺繍が施されている。
    それを履いて出来上がりだ。

    撃墜王に会う前から疲れた…。

    見計らったかのように、公爵閣下が間もなく到着する事を知らせる先触れが来た。

    サロンで顔合わせを行う事になっていたので、そちらで出迎えるために一階に降りる。

    が、サロンに入ろうとすると、入り口にいた侍女が、気不味そうにしていた。
    何か言いた気であるが、何も言えずオロオロしているようにも見えた。

「どうしたの?」

    と、聞くと

「いえ…それがその…」

    答えを聞く前に玄関先が騒がしくなった。

「お嬢様、お急ぎを。」

    ミリィに急かされ、サロンに入ると、そこには…

『居たよ。やっぱりって言うか、何考えてんの?』

    唖然とした。

    そこには、華やかに…というか、派手に着飾ったサンドラが居た。
    真っ赤なドレスに真っ赤な口紅を塗った彼女は、何故か誇らし気である。
    まるで、彼女が公爵閣下の婚約者のようだった。

『え…っと、この後、どうなんのかな?』
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