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5. 舞台裏 ②
しおりを挟む私が知った衝撃の事実…
それは、義妹が既に何度もエックハルト侯爵邸に出入りしていたという事だった。
しかも、彼の部屋に二人きりでいた事も何度かあるらしい。
流石に、直ぐに気付いた夫人や使用人達が、“絶対に二人きりにさせず、侍女と護衛騎士立ち会いでなければ会わせない”という、徹底した措置を取っているお陰で、“既成事実”が無い事を感謝して欲しいぐらいだ。とまで言われる始末。
って言うか、義妹は当時まだ12歳だった筈。息子(フリッツ)を犯罪者にしたくなかったから、徹底した措置を施したんだと思う。
そうじゃなかったら…。と考えたら、ゾッとした。
彼の両親からその話を聞き、義妹が取った行動…常識の無さと厚顔無恥を上回るその破壊力に、ショックを受けた。
『何て事してくれるのよ!伯爵家を潰すつもり?!』
けど、此処で疑問が一つ。
ならば、何故彼と私の結婚話になるのか分からなかった。
私と義妹、二人揃って出禁になっていても可笑しくないと思うのに…?
まぁ、これについても後日分かったのだけれど…。
答えは王太子妃候補。
当時、王太子妃候補は、(現王太子妃) テレサ。シュツットガルト侯爵家令嬢の彼女と、エメリッヒ侯爵家令嬢でフリッツの妹ローラ、そしてアルバ伯爵家の私の3人しか残っていなかった。
偶々、王太子殿下と釣り合う年回りの令嬢の数が少ない上に、跡継ぎ問題に関して深刻な辺境伯家が早々と婚約を結んでいった所為だった。
だから、残った3家というのは全て文官を輩出している家で、武官を輩出している家の令嬢は、辺境伯家が全部唾付けちゃったって訳。
(勿論、友人のエヴァも侯爵令嬢だけど、辺境伯家との縁組み済みである。)
その候補者の中で、私が一歩抜きん出ていた。要は最有力だったらしい。
(そんな事は全然知らなかったんだけど。)
というのも、私の兄が王太子殿下の側近だから。
そして3人共、容姿も頭の中身も似たり寄ったりの、“団栗の背比べ”な所為だった。
と、まぁ、此処まで言えば、おかわり…いや、おわかり頂けただろうか?
最有力候補の私とフリッツを最初から婚約させるつもりだったって訳。
だから、先ずローラを私やテレサと友人にさせておいて、兄のフリッツを近付ける作戦だったのだ。
生憎、テレサからは警戒されたけど、私は何の警戒もしてなかったから、まんまと引っ掛かった。
それが私が14歳で…、フリッツは17歳。義妹のサンドラが12歳の時。
両親もこの結婚話には賛成していて、私が16歳になるのを待って結婚する事も決められていた。
私としては複雑な心境だった。
まるで、“前門の狼後門の虎”。
逃げ場無し、待ったなし。
王太子妃も嫌だけど、彼と結婚しても、義妹が愛人として転がり込んでくるのは眼に見えている。
だから、義妹を煽る事にした。
けれど、彼から贈られたプレゼントやドレスを見せびらかして、煽るまでもなく、彼と義妹は隠れて逢瀬を重ねていく。
やがて、隠れて会う事もなく堂々と二人で出掛けたりするようになり、多数の人が目撃する事となる。
私は喜んだ。
このままいけば、婚約の解消、悪くても婚約者の差し替えになる…と。
しかし、此処であの方…テレサ嬢のご登場だ。
有ろう事か、彼女は正義感を振りかざし、「“健気に耐えている婚約者”を蔑ろにして捨てるなど許されるべきではない!」と、声高に触れて回ってくれたのだ。
お陰で、私の目論見は失敗。
「 もう…駄目だぁ…。」とお先真っ暗な思いでいた。
そして、私は16歳になってしまった。
気分的には、もう、逃げられない。人生終わった。
どうやって、式場から逃げ出してやろうか。とそればかり考えていた。
勿論、それは彼も同じで、
「新郎、新婦共に顔色の悪い結婚式なんて、前代未聞よね。」
と、私が自虐的に言うと、「ははは…」と、渇いた笑いを返された。
その時の彼の眼は死んでいた。
二人共、逃げ出す事も叶わず、式が始まる。
司祭様が祝福の言葉を述べ、誓いの言葉を言い始めた時にそれは起こった。
いきなり勢いよく開いた扉、駆け込んで来る騎士。
「戦争です!隣国の兵が国境を越えようと攻めて来ました!王国騎士団の騎士は至急本部まで集まれとの事です!!」
戦争が始まるというのに、不謹慎なのは分かっている。今もその時の罪悪感は残り続けている。
でも、その時見つめ合った私達は、助かった。と喜んでしまった。
“モテるから”という理由で騎士になっていた彼も喜んだ。
恐らく、自分が戦場に行く事は無いと思っていたのかもしれない。
そう思ってしまった罰なのか…彼は死に、皮肉にもその時の話が、美談でラッピングされ、悲劇として、劇場で上演されているなんて…。
何なんだかなあ…。
遣る瀬ない気持ちになる…。
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