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2. 悲劇の貴公子と悲劇(?)の未亡人(?)
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─ 結婚式の四年後・現在 ─
「はぁ…。泣き崩れてなんかいないんだけどね…。」
テーブルの上に投げるように新聞を置いた。
「何なの?溜め息なんて吐いて。」
顎を刳って、テーブルの上の新聞を指し示す。
向かい側に座っていた令嬢が新聞を手に取って見ると、一面にでかでかと『“君が為、散る命”大好評につきロングラン決定!!』と書かれている。
「あぁ、これね。真相を知っている者からしたら、もう笑うしかないわね。」
ニヤリと片側の口角だけ器用に吊り上げて笑う。
シニカルな笑い方をしている友人に視線を向け、天井を仰ぎ見た。
「ほんと、勘弁して欲しいんだけど。周囲でこの話している人を見る度に、真相を教えてやりたくなるわ。まったく…。」
「あら、いいじゃない。再婚(?)相手を見つけ易くなるかもしれないし…。実は、あのヒロインは私なの…。なんて言ってみたら?」
友人を睨み付け、溜め息を吐く。
「冗談でもやめてよね。結婚なんて懲り懲りよ。勿論、恋愛もね。死んだ人間を悪く言いたくないけど、あいつの何処が、愛する女を守る為に死んだ“純愛の戦士”なのよ。愛の女神も真っ青。卒倒する事請け合いよ。」
そう言うと、友人は腹を抱えて笑う。
真相なんて、事情を知らない人には聞かせられたもんじゃない。それほど酷いのだ。
と、その時、外が急に騒がしくなった。
何だろう?何があった…?
バーンッ!!
サロンの扉がノックもなく、凄い勢いで開いた。
その音と同時に、お父様の大きな声が響き渡る。
「喜べ、フラン!お前の嫁ぎ先がやっと決まったぞ!」
帰宅した父が、最上の笑みを浮かべ、両手を広げて私の方に来た。
サロンに居た友人と私。嫌な予感しかしない。
マナーが残念なお父様と違って、出来た友人は、そんなお父様を落ち着かせようと宥めながらソファーに座らせた。
呆れるやら、恥ずかしいやら…。
けれど、先ずは落ち着かせて、先程の不穏当な発言の内容を確認せねば。
と、私は侍女が用意したカップにティーポットを傾けてお茶を注いでいる。
「相手の名前を聞いて驚くなよ。なんと、あのアルベルト・ヨーゼフ・フォイエルバッハ公爵だぞ!」
興奮冷めやらぬ父。
「 … 」
絶句する友人。
そして、お茶を注いだまま固まった私。
カップからお茶が溢れまくっている。
「へ?」
驚いた私の口から変な声が出た。
嫌な予感的中!!
え…っと…フォイエルバッハ公爵って…?
自分の耳が拾った名前が信じられなくて…いや、認めたくないその名前。
アルベルト・ヨーゼフ・フォイエルバッハ公爵、御年28歳。
8年前に最愛の婚約者を事故で亡くされた、悲劇の貴公子。あと3ヶ月で結婚式だったという。
確か、4,5年前に劇場で上演され、ご令嬢方が滂沱の涙を流したと噂になった、“死が二人を別つとも…”なんてタイトルの…。
あの公爵閣下?!
婚約者を亡くして以来、一人息子である彼にの元に、喪が明けると同時に大量の縁談が持ち込まれたが、これを悉く、身も心も凍り付く程の冷たさで撃墜…。付いた渾名が“氷撃の撃墜王”、そして現在(未婚継続中)に至る。
“氷撃の撃墜王”が何故…?
疑問に思うも、私の頭の中はパニック状態。
♪エライコッチャ、エライコッチャ、ヨヨイのヨイ、ヨヨヨイのヨイ…♪
あ、いかん、いかん。
つい現実逃避してしまった。
しかし、その理由は簡単であった。
“王命”である。
後日聞いた話だと、国王に呼び出された公爵閣下が、その王命を聞いた途端、室内の温度が急激に下がったらしい。
その上、公爵閣下から怒りのオーラが駄々漏れ、国王以下、場に居合わせた者達の顔色が一瞬で真っ青に染まり、ガクガクブルブルと震え凍り付いたという…。
あー…終わった……。
顔合わせの時、私…瞬殺されんじゃね?と思ったのは言うまでもない。
ま、その時は亡き夫(?)の所に行けるからいっか…。(良くねぇーよ!ってか、行きたくねぇー!)
国王、ちゃんと仕事しろよ。
公爵閣下には、もっとまともな結婚相手、宛がってやれよ。
何トチ狂った事してくれてんのよ。
立った、立った、フラグが立った。
瞬殺されんの確実じゃん。
死んだら化けて出てやる!
「はぁ…。泣き崩れてなんかいないんだけどね…。」
テーブルの上に投げるように新聞を置いた。
「何なの?溜め息なんて吐いて。」
顎を刳って、テーブルの上の新聞を指し示す。
向かい側に座っていた令嬢が新聞を手に取って見ると、一面にでかでかと『“君が為、散る命”大好評につきロングラン決定!!』と書かれている。
「あぁ、これね。真相を知っている者からしたら、もう笑うしかないわね。」
ニヤリと片側の口角だけ器用に吊り上げて笑う。
シニカルな笑い方をしている友人に視線を向け、天井を仰ぎ見た。
「ほんと、勘弁して欲しいんだけど。周囲でこの話している人を見る度に、真相を教えてやりたくなるわ。まったく…。」
「あら、いいじゃない。再婚(?)相手を見つけ易くなるかもしれないし…。実は、あのヒロインは私なの…。なんて言ってみたら?」
友人を睨み付け、溜め息を吐く。
「冗談でもやめてよね。結婚なんて懲り懲りよ。勿論、恋愛もね。死んだ人間を悪く言いたくないけど、あいつの何処が、愛する女を守る為に死んだ“純愛の戦士”なのよ。愛の女神も真っ青。卒倒する事請け合いよ。」
そう言うと、友人は腹を抱えて笑う。
真相なんて、事情を知らない人には聞かせられたもんじゃない。それほど酷いのだ。
と、その時、外が急に騒がしくなった。
何だろう?何があった…?
バーンッ!!
サロンの扉がノックもなく、凄い勢いで開いた。
その音と同時に、お父様の大きな声が響き渡る。
「喜べ、フラン!お前の嫁ぎ先がやっと決まったぞ!」
帰宅した父が、最上の笑みを浮かべ、両手を広げて私の方に来た。
サロンに居た友人と私。嫌な予感しかしない。
マナーが残念なお父様と違って、出来た友人は、そんなお父様を落ち着かせようと宥めながらソファーに座らせた。
呆れるやら、恥ずかしいやら…。
けれど、先ずは落ち着かせて、先程の不穏当な発言の内容を確認せねば。
と、私は侍女が用意したカップにティーポットを傾けてお茶を注いでいる。
「相手の名前を聞いて驚くなよ。なんと、あのアルベルト・ヨーゼフ・フォイエルバッハ公爵だぞ!」
興奮冷めやらぬ父。
「 … 」
絶句する友人。
そして、お茶を注いだまま固まった私。
カップからお茶が溢れまくっている。
「へ?」
驚いた私の口から変な声が出た。
嫌な予感的中!!
え…っと…フォイエルバッハ公爵って…?
自分の耳が拾った名前が信じられなくて…いや、認めたくないその名前。
アルベルト・ヨーゼフ・フォイエルバッハ公爵、御年28歳。
8年前に最愛の婚約者を事故で亡くされた、悲劇の貴公子。あと3ヶ月で結婚式だったという。
確か、4,5年前に劇場で上演され、ご令嬢方が滂沱の涙を流したと噂になった、“死が二人を別つとも…”なんてタイトルの…。
あの公爵閣下?!
婚約者を亡くして以来、一人息子である彼にの元に、喪が明けると同時に大量の縁談が持ち込まれたが、これを悉く、身も心も凍り付く程の冷たさで撃墜…。付いた渾名が“氷撃の撃墜王”、そして現在(未婚継続中)に至る。
“氷撃の撃墜王”が何故…?
疑問に思うも、私の頭の中はパニック状態。
♪エライコッチャ、エライコッチャ、ヨヨイのヨイ、ヨヨヨイのヨイ…♪
あ、いかん、いかん。
つい現実逃避してしまった。
しかし、その理由は簡単であった。
“王命”である。
後日聞いた話だと、国王に呼び出された公爵閣下が、その王命を聞いた途端、室内の温度が急激に下がったらしい。
その上、公爵閣下から怒りのオーラが駄々漏れ、国王以下、場に居合わせた者達の顔色が一瞬で真っ青に染まり、ガクガクブルブルと震え凍り付いたという…。
あー…終わった……。
顔合わせの時、私…瞬殺されんじゃね?と思ったのは言うまでもない。
ま、その時は亡き夫(?)の所に行けるからいっか…。(良くねぇーよ!ってか、行きたくねぇー!)
国王、ちゃんと仕事しろよ。
公爵閣下には、もっとまともな結婚相手、宛がってやれよ。
何トチ狂った事してくれてんのよ。
立った、立った、フラグが立った。
瞬殺されんの確実じゃん。
死んだら化けて出てやる!
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