悲劇にしないでよね!

雫喰 B

文字の大きさ
上 下
2 / 76

2. 悲劇の貴公子と悲劇(?)の未亡人(?)

しおりを挟む
─ 結婚式の四年後・現在 ─

「はぁ…。泣き崩れてなんかいないんだけどね…。」

    テーブルの上に投げるように新聞を置いた。

「何なの?溜め息なんて吐いて。」

    顎をしゃくって、テーブルの上の新聞を指し示す。

    向かい側に座っていた令嬢が新聞を手に取って見ると、一面にでかでかと『“君が為、散る命”大好評につきロングラン決定!!』と書かれている。

「あぁ、これね。真相を知っている者からしたら、もう笑うしかないわね。」

    ニヤリと片側の口角だけ器用に吊り上げて笑う。
    シニカルな笑い方をしている友人に視線を向け、天井を仰ぎ見た。

「ほんと、勘弁して欲しいんだけど。周囲でこの話している人を見る度に、真相を教えてやりたくなるわ。まったく…。」
「あら、いいじゃない。再婚(?)相手を見つけ易くなるかもしれないし…。実は、あのヒロインは私なの…。なんて言ってみたら?」

    友人を睨み付け、溜め息を吐く。
    
「冗談でもやめてよね。結婚なんて懲り懲りよ。勿論、恋愛もね。死んだ人間を悪く言いたくないけど、あいつの何処が、愛する女を守る為に死んだ“純愛の戦士”なのよ。愛の女神も真っ青。卒倒する事請け合いよ。」

    そう言うと、友人は腹を抱えて笑う。

    真相なんて、事情を知らない人には聞かせられたもんじゃない。それほど酷いのだ。


    と、その時、外が急に騒がしくなった。

    何だろう?何があった…?

    バーンッ!!

    サロンの扉がノックもなく、凄い勢いで開いた。
    その音と同時に、お父様の大きな声が響き渡る。

「喜べ、フラン!お前の嫁ぎ先がやっと決まったぞ!」

    帰宅した父が、最上の笑みを浮かべ、両手を広げて私の方に来た。
     サロンに居た友人と私。嫌な予感しかしない。

    マナーが残念なお父様と違って、出来た友人は、そんなお父様を落ち着かせようと宥めながらソファーに座らせた。

    呆れるやら、恥ずかしいやら…。

    けれど、先ずは落ち着かせて、先程の不穏当な発言の内容を確認せねば。
 と、私は侍女が用意したカップにティーポットを傾けてお茶を注いでいる。

「相手の名前を聞いて驚くなよ。なんと、あのアルベルト・ヨーゼフ・フォイエルバッハ公爵だぞ!」

    興奮冷めやらぬ父。

「 … 」

    絶句する友人。

    そして、お茶を注いだまま固まった私。
    カップからお茶が溢れまくっている。

「へ?」

    驚いた私の口から変な声が出た。
    嫌な予感的中!!

    え…っと…フォイエルバッハ公爵って…?

    自分の耳が拾った名前が信じられなくて…いや、認めたくないその名前。

    アルベルト・ヨーゼフ・フォイエルバッハ公爵、御年28歳。

    8年前に最愛の婚約者を事故で亡くされた、悲劇の貴公子。あと3ヶ月で結婚式だったという。

    確か、4,5年前に劇場で上演され、ご令嬢方が滂沱の涙を流したと噂になった、“死が二人を別つとも…”なんてタイトルの…。

    あの公爵閣下?!

    婚約者を亡くして以来、一人息子である彼にの元に、喪が明けると同時に大量の縁談が持ち込まれたが、これを悉く、身も心も凍り付く程の冷たさで撃墜…。付いた渾名が“氷撃の撃墜王”、そして現在(未婚継続中)に至る。

    “氷撃の撃墜王”が何故…?

    疑問に思うも、私の頭の中はパニック状態。

♪エライコッチャ、エライコッチャ、ヨヨイのヨイ、ヨヨヨイのヨイ…♪

    あ、いかん、いかん。
    つい現実逃避してしまった。


   しかし、その理由は簡単であった。

    “王命”である。

    後日聞いた話だと、国王に呼び出された公爵閣下が、その王命を聞いた途端、室内の温度が急激に下がったらしい。

    その上、公爵閣下から怒りのオーラが駄々漏れ、国王以下、場に居合わせた者達の顔色が一瞬で真っ青に染まり、ガクガクブルブルと震え凍り付いたという…。

    あー…終わった……。

    顔合わせの時、私…瞬殺されんじゃね?と思ったのは言うまでもない。

    ま、その時は亡き夫(?)の所に行けるからいっか…。(良くねぇーよ!ってか、行きたくねぇー!)

    国王、ちゃんと仕事しろよ。
    公爵閣下には、もっとまともな結婚相手、宛がってやれよ。

    何トチ狂った事してくれてんのよ。
    立った、立った、フラグが立った。
    瞬殺されんの確実じゃん。
    死んだら化けて出てやる!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義兄の執愛

真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。 教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。 悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...