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1. 撃墜王と(一応?)未亡人
しおりを挟むアルベルト・ヨーゼフ・フォイエルバッハ公爵、御年28歳。
フォイエルバッハ公爵家。
それは、建国当時の王弟を初代とする由緒正しき名家である。代々続いた由緒正しき公爵家も、現在では直系は彼一人。所謂一人息子で、兄弟姉妹はいない。
故に、幼いうちから婚約者が決められていた。
ガートルード・ブロスフェルト侯爵令嬢(三女)、彼の最愛の婚約者だった。
そう…だったつまり、過去形である。
今から8年前の雨の降る日に、横道から出て来た馬車に衝突され、乗っていた馬車が横転。その事故に因り、彼女は帰らぬ人となってしまった。享年18歳。早すぎる死であった。
婚約者である公爵家令息アルベルトと、彼女の仲睦まじさは社交界では知らぬ者などいない程有名だった。
しかも、3ヶ月後には結婚式を控えていたという。
事故で最愛の婚約者を失った彼の嘆きは誰も慰める事が出来ない程だった。
が、そんな事などお構いなしに、月日は過ぎ、喪が明けた。
すると……待ってましたとばかりに、降って湧くように大量の縁談話が彼の元に持ち込まれた。
未だ彼女を忘れられない彼は、書面で断れる物(家格が低かったり、悪い噂がある等)は全て断り、それ以外は顔を合わせるなり、冷たい言葉と態度で撃墜。
その様な中、あらゆる攻撃を仕掛けた猛者もいたが、多種に渡る弾幕を張られ、躱された揚げ句撃墜されたのだった。
そんな彼に付いた渾名が“氷撃の撃墜王”
これまでに持ち込まれた縁談話は悉く撃墜、現在に至る。
にも拘らず、毎年大量の縁談話が持ち込まれ、お茶会や夜会に顔を出そうものなら、年頃の娘を持つ、“我こそは━”と息巻く親子にあっという間に取り囲まれる始末。
4年前、隣国との国境で起きた戦いで、当時公爵であった父親が戦死した為に、公爵家を継いだ途端、縁談の数は再び跳ね上がり(一度断られた家もリトライした)、彼の婚約者の座を巡る争奪戦は益々ヒートアップした。
なので、ここ最近は王家主催などの、如何しても出席しなければならない物しか顔を出さなくなった。
故に、そんな彼が婚約したという噂は、半日も経たずに王都中に知れ渡る事となる。
そして人々は口々に問う。
「フランドール・アルバ伯爵令嬢って誰よ?」
当然である。美人で有名とか、才女であるとか、良い噂でも悪い噂でも、騒がれた事などない令嬢の事なんて誰も分かる訳などない。
しかも、彼女は4年ほど社交界から遠ざかっている。
だが、そんな彼女の事を知らなくても、4年前に起きた隣国との国境での戦いと、結婚式当日に緊急召集され、戦死した悲劇の将校がいた事は知っている。
そう、教会での結婚式の最中、泣き崩れる花嫁を置いたまま、戦場に向かう花婿。
そして花婿は戦場でその命を散らす。
国中の劇場で上演され、大人気だった悲しい愛の物語…。
その物語を知る者は多い。
何を隠そう、その物語のヒロイン…結婚式の最中に花婿が戦場に向かった後、教会に残され泣き崩れる花嫁こそが、フランドール・アルバ伯爵令嬢(当時16歳)であった。
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