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番外編【感謝御礼!!】②
しおりを挟む私達家族が別荘に着いたのと同じ日に、隣の別荘にも人が来たようだった。
隣の別荘もリンドブルム家の所有だけれど、他家との交流の為に貸し出している別荘だった。
「コンラート、隣の別荘に誰か来られたみたいね。」
「あぁ。多分、叔父上のところだろう。」
「叔父上って…?」
コンラートの父は、兄弟姉妹が多い。だから叔父といっても、誰の事を指しているのか分からない。一般的に考えれば……。
けれど、この国で交流のある義父の身内となると、自ずと限定されてくる。
「ローエングリン家だよ。」
「まぁ!公爵閣下ですか?!」
そう言いながらも、やっぱり予想通りの答えだったわねと思う。
俺の父の兄である叔父が婿入りしたローエングリン家には、コンラートよりも3才年上の嫡男ミハイルが爵位を継ぎ、妻テレーゼとの間に、長男エセルバート(12才)、長女ジークリンデ(8才)がいる。
そして、近衛騎士団総長であり、今は爵位も名も無くなった表の公爵家、本来ならばそれと対を成すライテンバッハの影公爵でもある。
コンラートとはライバル関係だったが、マグダレーナが誘拐された事件の解決後、交流を持つようになり、今では親友と言っても過言ではない。
「あいつも、家族サービスだと言っていたから、子供達も連れて来ているだろう。」
そんな風にコンラートが言っていたからという訳ではないだろうけど、翌日ローエングリン家の使いが来た。
所謂、先触れと言うもので、この後、ローエングリン公爵ご夫妻が、ご挨拶に来られると言う。
慌ててバタバタと準備をしていたら、子供達が遊びに行きたそうにソワソワしている。
ウィルとエーブに、海で遊ぶ場合の注意点を言い聞かせて送り出し、ウォルフとフィーには、お客様が来るからと、後から遊びに行こうと約束した。
少し時間が経ってから、ローエングリン公爵夫妻が訪れた。
当主のミハイル様は、相変わらずの美貌で、黙っていると女性と勘違いしてしまいそうだった。
奥方も美しい女性で、二人が並ぶと宛ら“美の競演”と言ったところである。
夫妻には、春に一度会っている所為か、ウォルフもフィーも二人には懐いている。
「マグダレーナ、久しぶりだな。」
「二人ともお久しぶり。」
二人とは、従兄妹夫婦と言うよりも、兄妹のような関係なので、プライベートな集まりの時は、お互いに砕けた口調で会話している。
お互い了承済みなので、名前で呼び合う事も当たり前だった。(愛称呼びは絶対にしない。)
「ところで、エセルバートとジークリンデは一緒じゃないのか?」
夫妻の子供は、長男エセルバート(16才)と、長女ジークリンデ(12才)の二人だけだ。
「エセルバートは、士官学校の方が忙しくて、今回は来ていないんだ。」
「何だ、それは残念だな。久しぶりに模擬戦でもと思ったんだが…。学校が忙しいなら仕方無いな。」
「お前も相変わらずの剣技バカだな。まぁ、血筋だから仕方ないか。」
そう言ってお互いに苦笑した。
「だから、今回はジークリンデの友人が一緒に来ているんだ。」
「そうか。それは楽しみだな。」
そしてお茶を一口飲む。
実は、お互いに自分達の子供同士が結婚してくれれば…。と思っていた事がある。
だが、ウィルとジークリンデは年が同じではあるが、ジークリンデの方が精神的に大人で、ウィルの事はいつも弟扱いをしている所為か、弟としか見えないらしく、ウィルの方も彼女の事は姉としか見る事が出来ないと言っていた。
そんなジークリンデだから、当然エーブの事も弟扱いである。
故に、親同士の目論見は、疾っくの昔に脆くも崩れ去っていた。
ジークリンデの友人だったら、ウィルかエーブの結婚相手にいいかもしれない。
「婚約者にするのは無理だと思うぞ。」
俺の考えが分かったのか、釘を刺された。
「何だ、まだ何も言っていないだろう。」
苦笑交じりに言ったのだが、珍しく真剣な顔をしている。
「……だ。」
何と言ったのか聞き取れなかった俺は、ミハイルの顔を見て続きを促した。
「アストリッド様だ……王女殿下だよ。」
その言葉に、危うくお茶を吹き出しかけた。
「な、何で王女殿下が……。」
気軽にこんな所で、休暇を楽しむ身分の方では無い。
「お忍びだよ。陛下からも、呉々もよろしく。とお願いされたんだ。仕方ないだろ。」
「…いや、仕方ないじゃ無いだろ。警備は?護衛は?」
焦る俺とは逆に、ミハイルは飄々としている。
「そこまで仰々しくしたら、お忍びにならないだろ。」
そう言って、何でも無いようにお茶を飲むミハイルを、俺は二の句が継げずにただ見ていた。
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