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23. コンラートの追想 ⑦
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そして、とうとう自分に課した誓いを破り掛けたその時、ドアノブが回り、ガチャッ!という音と共に勢い良く開いた。
俺は、反射的にそっちを見た。部屋の中は薄暗いが、廊下は明るかった。
その明るい廊下に、眼を見開き驚愕の表情をしているレーナがいた。
驚いた。しかし、俺の身体の下にもレーナがいるという状況に、身体中から血の気が引いた。
と同時に、すぐ傍で悲鳴が上がった。
俺はその悲鳴を上げたのが、彼女だと思った。
そして、何か言わないと彼女が消えてしまう気がして、そちらに歩きながら、『違うんだ。』とか『誤解だ。』等と口走っていた。
悲愴な顔をした彼女が、ゆっくりと後ろに下がったかと思うと、踵を返して走り去って行った。
途中で執事や使用人達とすれ違ったが、足を止める事は無かった。
この世が終わった様なショックを受けた俺は、その場に膝から崩れ落ちた。
とっとと身嗜みを整えた女は、すれ違いざまに
『終わったわね。アハハハハ…』
楽しくて堪らないと言った感じで、高笑いをしながら帰って行った。
後に残された俺は、薬物の本当の恐さを知った。
とは言っても、摂取した量が微量だった所為なのか、幸いにも禁断症状は出なかった。
それは良かったのだが、深刻な事に変わりはなかった。
薬物の影響を受け、幻覚を見ていた間の記憶が残っているのだ。
だから、思考能力が奪われていても、レーナ(幻覚でそう思わされていた)とのベッドでの記憶がある。
そして、薬物の影響の幻覚から解放された今の俺は、ベッドで同じ時間を過ごした相手が、レーナではなく、あの女、ルーニーだったという事が分かっているのだ。
酷い頭痛に、例え様の無い凄まじい罪悪感。
それらに苛まれ、俺は嘔吐しまくった。
やっと、何とか持ち直した時には、団長と諜報部隊統括長を本気で殺したくなった。
が、任務だったのだから、仕方が無いと何とか殺す事は諦めた俺だったが、シュトラウス子爵家から婚約破棄の申し入れの連絡が来たと聞いて、
あの二人、やっぱり殺しておけば良かった!
と、ドス黒く思ったとしても仕方ないだろう。
~~~~~~~~~~~~~
そして、あの悪夢の様な日から五日後、両家の婚約破棄の条件についての話し合いが行われた。
こんな目に合っているのに、まだ任務を継続させられている俺は、言いたくもない事を言わされる。
『彼女の事は、妹の様に思っていて、支えてあげたかっただけだ。けれど慰めているうちに、魔が差したと言うか、彼女に誘惑されてあんな事になってしまって、』
⦅本当は(薬を)一服盛られた。⦆
『ただ、離縁され身も心も傷付いて可哀想な彼女を、切り捨てる事など出来ない。勿論、彼女には愛情は無い。同情や家族に対する情しかない。妻にしたくて、一生側にいて欲しいと思って愛しているのは君だけだ。けれど、魔が差したとはいえ、関係を持ってしまった彼女を切り捨てる事など出来ない。責任をとる意味で結婚後、彼女を家族として、支えてあげる事を許して欲しい。』
⦅可哀想だと思っていない。自業自得だと思っている。⦆
『関係を持ってしまった今、彼女に対する責任もあるのを分かって欲しい。』
⦅そう、俺は誘惑された訳では無い。薬を盛られたのだ。
必死で堪えに堪えて、キスもしていないし、入れてもいない。
関係は持っていないのだが、何の慰めにもならない……。
しかも、既に妹だなどと思ってすらいない、支えてあげたいとも思っていない。
彼女の事は、離縁されて傷付いて可哀想だとも思っていない。⦆
俺は今もまだ任務継続中で、『悪党の首根っこを押さえる為に、あの女の言いなりになっていてくれ。』と命令されている。
⦅こんなセリフを言わされて、婚約破棄されて……。大切なものを失って。
けれど、薬物の影響下にあった時の記憶がある俺は、レーナに対する罪悪感は、半端無かった。
しかも、これ以上無いってぐらい、傷付けた。⦆
だが、何故あのタイミングで、彼女が彼処に来たのかが謎だった。
しかし、事態は思ったより深刻だった。あの悪夢の様な出来事が、彼女の身を更に危険に晒す事になろうとは……。
この六ヶ月後の深夜、彼女は自室から誘拐されたのだった。
俺は、反射的にそっちを見た。部屋の中は薄暗いが、廊下は明るかった。
その明るい廊下に、眼を見開き驚愕の表情をしているレーナがいた。
驚いた。しかし、俺の身体の下にもレーナがいるという状況に、身体中から血の気が引いた。
と同時に、すぐ傍で悲鳴が上がった。
俺はその悲鳴を上げたのが、彼女だと思った。
そして、何か言わないと彼女が消えてしまう気がして、そちらに歩きながら、『違うんだ。』とか『誤解だ。』等と口走っていた。
悲愴な顔をした彼女が、ゆっくりと後ろに下がったかと思うと、踵を返して走り去って行った。
途中で執事や使用人達とすれ違ったが、足を止める事は無かった。
この世が終わった様なショックを受けた俺は、その場に膝から崩れ落ちた。
とっとと身嗜みを整えた女は、すれ違いざまに
『終わったわね。アハハハハ…』
楽しくて堪らないと言った感じで、高笑いをしながら帰って行った。
後に残された俺は、薬物の本当の恐さを知った。
とは言っても、摂取した量が微量だった所為なのか、幸いにも禁断症状は出なかった。
それは良かったのだが、深刻な事に変わりはなかった。
薬物の影響を受け、幻覚を見ていた間の記憶が残っているのだ。
だから、思考能力が奪われていても、レーナ(幻覚でそう思わされていた)とのベッドでの記憶がある。
そして、薬物の影響の幻覚から解放された今の俺は、ベッドで同じ時間を過ごした相手が、レーナではなく、あの女、ルーニーだったという事が分かっているのだ。
酷い頭痛に、例え様の無い凄まじい罪悪感。
それらに苛まれ、俺は嘔吐しまくった。
やっと、何とか持ち直した時には、団長と諜報部隊統括長を本気で殺したくなった。
が、任務だったのだから、仕方が無いと何とか殺す事は諦めた俺だったが、シュトラウス子爵家から婚約破棄の申し入れの連絡が来たと聞いて、
あの二人、やっぱり殺しておけば良かった!
と、ドス黒く思ったとしても仕方ないだろう。
~~~~~~~~~~~~~
そして、あの悪夢の様な日から五日後、両家の婚約破棄の条件についての話し合いが行われた。
こんな目に合っているのに、まだ任務を継続させられている俺は、言いたくもない事を言わされる。
『彼女の事は、妹の様に思っていて、支えてあげたかっただけだ。けれど慰めているうちに、魔が差したと言うか、彼女に誘惑されてあんな事になってしまって、』
⦅本当は(薬を)一服盛られた。⦆
『ただ、離縁され身も心も傷付いて可哀想な彼女を、切り捨てる事など出来ない。勿論、彼女には愛情は無い。同情や家族に対する情しかない。妻にしたくて、一生側にいて欲しいと思って愛しているのは君だけだ。けれど、魔が差したとはいえ、関係を持ってしまった彼女を切り捨てる事など出来ない。責任をとる意味で結婚後、彼女を家族として、支えてあげる事を許して欲しい。』
⦅可哀想だと思っていない。自業自得だと思っている。⦆
『関係を持ってしまった今、彼女に対する責任もあるのを分かって欲しい。』
⦅そう、俺は誘惑された訳では無い。薬を盛られたのだ。
必死で堪えに堪えて、キスもしていないし、入れてもいない。
関係は持っていないのだが、何の慰めにもならない……。
しかも、既に妹だなどと思ってすらいない、支えてあげたいとも思っていない。
彼女の事は、離縁されて傷付いて可哀想だとも思っていない。⦆
俺は今もまだ任務継続中で、『悪党の首根っこを押さえる為に、あの女の言いなりになっていてくれ。』と命令されている。
⦅こんなセリフを言わされて、婚約破棄されて……。大切なものを失って。
けれど、薬物の影響下にあった時の記憶がある俺は、レーナに対する罪悪感は、半端無かった。
しかも、これ以上無いってぐらい、傷付けた。⦆
だが、何故あのタイミングで、彼女が彼処に来たのかが謎だった。
しかし、事態は思ったより深刻だった。あの悪夢の様な出来事が、彼女の身を更に危険に晒す事になろうとは……。
この六ヶ月後の深夜、彼女は自室から誘拐されたのだった。
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