優しすぎる貴方

雫喰 B

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18. コンラートの追想 ②

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    リンドブルム侯爵家は、王家の流れを汲むライテンバッハ公爵家に連なる末席、と言っても縁戚関係にある。
    
    騎士団長のクラウス・ライテンバッハ公爵と俺は従兄弟になる。
    と言うと、聞こえは良いが、先代の公爵は7人兄弟姉妹の一番上で長男だった。

    そして俺の父は先代公爵の一番下の弟で、結婚する時にライテンバッハ公爵家が持っていたもう一つの爵位である侯爵を継いだ。

    ライテンバッハ公爵家は、今の国王の先々代の国王の弟、つまり王弟が臣下になる時に公爵位に就いて出来た家である。

    いくら王家の遠戚と言っても末席は所詮、末席で先々代の王弟が元帥だった事もあって、武門の家として名を馳せているだけあって、一族の男として産まれた以上は、騎士になるのが当然だった。

    その体面の為の所為と言うか、末席に掛かるプレッシャーは凄まじく、現リンドブルム侯爵(父)には、幼い頃からスパルタで育てられた。

    そんな父は、物凄く寡黙で冗談一つ言わないし、言っているのを聞いた事も無い。
    おまけに笑っているのも一度も見た事が無い。

母は、物静かで貞淑と言う言葉通りの人だった。

ただし、父の前では……。

    子供の頃の母は、お転婆で、女だてらに剣を振り回していて、この国で初の女騎士になった人で、祖父の頭痛の種だったと、今でも大叔父や大叔母達から言われている。

    そんな父と母が結婚するに至った経緯を、母に聞いた事があるが、人差し指を立てて唇に当て、ウインクをして誤魔化された。

言いたくない何かがあるのか?

    大叔父や大叔母達にも聞いた事があるが、誰も教えてくれなかった。

    ただ、父の副官をしていた事を酔って話してしまった大叔父が、周囲から止められ、一瞬で青い顔になったのを覚えている。

    昔の事は教えてくれなかった母だが、木登りやチャンバラ、乗馬等を教えてくれた。
    その時の母がとても活き活きしていたのが印象的だった。

    そんな環境で育った所為か、俺も気を許した友人とは、砕けた話し方をするし、冗談も下ネタも言ったりする。

    そんな俺が、幼い頃に二つの出会いをする。

    一つは、父の学園時代の友人だという、ウンツフリーデン伯爵の娘、ツォルニヒ令嬢との出会いだ。

    両親に連れられ、初めて家に来た時の彼女は、まだ覚束ない足取りで、ヨタヨタと俺の後を『にぃーたま、にぃーたま。』と舌足らずな言い方で付いて回るのが、とても庇護欲を掻き立てる程可愛くて、まるで本当の妹が出来た様で、とても嬉しかったのを覚えている。

    けれど、その母親に対する印象は、最悪と言っていい程だった。

    父や母の前だと、子煩悩なフリをしているが、それ以外では、我が子にすら関心がなく、子供心にも、この女はドレスや宝飾品にしか関心がないのが分かる様な女で、俺に対しても、父母の目が無い所で、『ホント、可愛くない子ねぇ。』と、事ある毎に言っていた。

    何より、母の目が無い所では、父に撓垂れ掛かり、媚びを売る女だった。

    だから余計に、幼くて無垢な彼女を、妹として守ってやらねば。と言った、使命感の様な物があって可愛がっていたのだ。

    が、歳月は人を変える。とはよく言った物で、歳を追う毎に、彼女は変わっていった。

    悪い方に……。

    俺が、彼女の悪い噂を耳にした頃には、あの最悪な印象しかない母親にそっくりだった。

    成長していく彼女を目にする度に、見た目は、綺麗で、美しくなっていた。

    けれど、それに比例して、悪い噂ばかり耳にする様になった。

    幼い頃に、父から婚約者になるかもしれない。と言われていたが、そのうち父も母も言わなくなり、『  で、好きな女の一人もいないのか?』と言われる様に…。

    その頃には、誰にも言っていなかったが、心に決めた唯一と言っていい程好きな人がいたのだ。

~~~~~~~~~~~~~~
明日以降、一日に二話づつUpします。
でも、話のストックが無くなったら、
再び    不定期投稿に戻ります。                                         
                                         sivaress
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