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5.その後…
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彼との婚約が破棄され、暫くは、自宅で傷を癒せば良いと両親も言ってくれたので、この後どうするか考えながらも、穏やかな日常を送っていました。
けれど、いつからでしょう。誰かにずっと見られている様な落ち着かない日々が始まったのです。
何処へ行っても、何をしていても、いつも誰かしらの視線を感じます。
勿論、周囲を見回しても、私をずっと見ている人など誰もいません。
初めは、気の所為だと思っていたのですが…。
耐えきれなくなった私は、両親に相談しました。けれど、気にし過ぎだと言われてしまいました。
ですが、段々と怯えだした私を見て、暫く領地で静養してはどうか。と言うので、そうする事に致しました。
そして、長閑な田園風景に、私の心は癒されていき、王都にいた時に感じていた視線は、気の所為だったかもしれないと思う様になったのでした。
けれど、このまま平穏な日常が続くかと思われた時、それは起こりました。
ある夏の、雨風の強い夜、寝苦しくて夜中に目が覚めると、何か黒い影が私に覆い被さっていました。
恐怖に悲鳴を上げかけた時、手で口を塞がれ、声が出せません。
歯の根も合わず、ガタガタと震えながらも、暗闇の中眼を凝らしました。
すると、じっと私の眼を見つめているギラギラとした眼が…。
「大人しくしていたら、痛い目には合わさない。」
次の瞬間、喉に何か尖った物が当たりました。
「分かったか。」
と言うので、小さく頷くと、ニヤリと笑った様な気がしました。
身体の震えはまだ治まりません。
そして、何かを嗅がされたかと思うと、そこで私の意識は途絶えたのです。
どのくらい時間が経ったのでしょうか。
ぼんやりとした意識の中、眼を開けると、かなり古い木でできた天井が見えました。
何処かの納屋か小屋の様でした。
固い床の上に、後ろ手に縛られ、転がされています。
状況を見る為に、何とか芋虫の様に、ずりずりと這いながら壁の方まで行き、壁を背に凭れて座りました。
ですが、頭がズキズキ痛み、目眩がします。
嗅がされた薬か何かの所為だと思うのですが…。
そんな事より、此処は何処なのでしょう?
窓も無いので、今が昼なのか夜なのかすら分かりません。
私が居なくなった事に、邸にいる使用人たちは気付いてくれたでしょうか。
けれど、気付いたとしても、居場所までは分からないでしょう。
その事に酷く落胆しました。
助けを待っても来ないかもしれないからです。
せめて手が自由になったらと思い、何とか外そうと手を動かしましたが、外れそうにありません。
手首の痛みに耐え、何か手立てはないものかと考えていたら、扉が開きました。
そして、そこに立っていたのは、元婚約者の幼馴染みの伯爵令嬢でした。
その姿を見た私は息を呑みました。
以前見た時よりも顔色は悪く、髪の毛の艶も無く、けれど化粧は派手で、真っ赤な口紅を塗った口は赤く弧を描いていましたが、目は笑っていません。
何か、得体の知れない恐怖に、息苦しくなります。
けれど、いつからでしょう。誰かにずっと見られている様な落ち着かない日々が始まったのです。
何処へ行っても、何をしていても、いつも誰かしらの視線を感じます。
勿論、周囲を見回しても、私をずっと見ている人など誰もいません。
初めは、気の所為だと思っていたのですが…。
耐えきれなくなった私は、両親に相談しました。けれど、気にし過ぎだと言われてしまいました。
ですが、段々と怯えだした私を見て、暫く領地で静養してはどうか。と言うので、そうする事に致しました。
そして、長閑な田園風景に、私の心は癒されていき、王都にいた時に感じていた視線は、気の所為だったかもしれないと思う様になったのでした。
けれど、このまま平穏な日常が続くかと思われた時、それは起こりました。
ある夏の、雨風の強い夜、寝苦しくて夜中に目が覚めると、何か黒い影が私に覆い被さっていました。
恐怖に悲鳴を上げかけた時、手で口を塞がれ、声が出せません。
歯の根も合わず、ガタガタと震えながらも、暗闇の中眼を凝らしました。
すると、じっと私の眼を見つめているギラギラとした眼が…。
「大人しくしていたら、痛い目には合わさない。」
次の瞬間、喉に何か尖った物が当たりました。
「分かったか。」
と言うので、小さく頷くと、ニヤリと笑った様な気がしました。
身体の震えはまだ治まりません。
そして、何かを嗅がされたかと思うと、そこで私の意識は途絶えたのです。
どのくらい時間が経ったのでしょうか。
ぼんやりとした意識の中、眼を開けると、かなり古い木でできた天井が見えました。
何処かの納屋か小屋の様でした。
固い床の上に、後ろ手に縛られ、転がされています。
状況を見る為に、何とか芋虫の様に、ずりずりと這いながら壁の方まで行き、壁を背に凭れて座りました。
ですが、頭がズキズキ痛み、目眩がします。
嗅がされた薬か何かの所為だと思うのですが…。
そんな事より、此処は何処なのでしょう?
窓も無いので、今が昼なのか夜なのかすら分かりません。
私が居なくなった事に、邸にいる使用人たちは気付いてくれたでしょうか。
けれど、気付いたとしても、居場所までは分からないでしょう。
その事に酷く落胆しました。
助けを待っても来ないかもしれないからです。
せめて手が自由になったらと思い、何とか外そうと手を動かしましたが、外れそうにありません。
手首の痛みに耐え、何か手立てはないものかと考えていたら、扉が開きました。
そして、そこに立っていたのは、元婚約者の幼馴染みの伯爵令嬢でした。
その姿を見た私は息を呑みました。
以前見た時よりも顔色は悪く、髪の毛の艶も無く、けれど化粧は派手で、真っ赤な口紅を塗った口は赤く弧を描いていましたが、目は笑っていません。
何か、得体の知れない恐怖に、息苦しくなります。
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