願わくは…

雫喰 B

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── 第一章 ──

17. 一夜が明けて

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    一夜明けて、ルイーゼと顔を合わせたら、真っ赤になって照れている。

「可愛いよ。」

    そう言えば、耳まで真っ赤になって背中を向けて恥ずかしがっている。
    益々可愛くて後ろから抱き締める。

    そうすると、身体を縮めて恥ずかしそうにして…。の繰り返し。

    可愛い。

    こんなに幸せでいいのだろうか?
    逆に、幸せすぎて怖いぐらいだった。

    すると、ルイーゼが俺が思っていた事と同じ事を言った。

    驚いた俺がそれを言うと、同じ事を感じていた事に彼女も驚き、不安そうにしているから、思わず強く抱き締めた。

    暫くお互いの体温と心臓の鼓動を感じてその幸せを噛み締めた。

    だが、この時に感じた俺とルイーゼの不安が、後日とんでもない形で現れるとは思ってもみなかった。

    この半年後、ルイーゼが妊娠、ウルリッヒが婚約とライテンバッハ公爵家ではお祝いムード一色だった。
    
    両親も俺も、そしてウルリッヒも、本当に幸せで、浮かれていた。だから気づかなかったのだ。

    オトフリートとフランツの中で限界まで膨れ上がった妬み、嫉み、憎悪に…。
    そして、それが何を齎すのかを…。

    その事を知るのは一月ひとつき程経ってからだった。

~~~~~

 ━ ウルリッヒの回想 ━

    その日は嫌になるぐらいの青空だった。

    こんな日はギーゼラ(愛称・ジジ)と一緒に遠駆けでもして、彼女の膝枕で日向ぼっこでもしながら微睡みたい。などと呑気な事を考えていた。

    一月ひとつき程前、彼女にプロポーズをしてOKを貰い、俺達は婚約した。

    来年には結婚だ。少しずつだが、その準備も二人でしていく。
    幸せってこういう事なんだと実感していた。

    新婚の兄夫婦の所も、義姉上あねうえが身籠ったという話だし、目出度いと浮かれていた。

    まさか、あの二人に奈落の底に突き落とされるなど、これっぽっちも考えていなかった。

    
    彼女は、王国騎士団の第三騎士団団長である俺の副官を勤めていた。
    なのに、始業時間になっても顔を見せないどころか連絡もない。

    第三騎士団団長の副官は、彼女を含めて3人いる。

    残りの2人、ジークフリート・リッテンハイムとワルター・バッケスホーフに、連絡が有ったかどうか聞くと共に騎士団本部にも確認させた。

    が、連絡は無かった。

    嫌な予感に、彼女の実家であるリンツ伯爵家所有のタウンハウスに連絡をさせると、昨夜から帰っていないと言う。

    俺と一緒かもしれないと、ライテンバッハ家に連絡をしたところだと言われた。

    応対した執事に、彼女が職場に顔を出していない事を伝え、直ちに行方を探す事と、事が事だけに内密にするようにと言い含めた。

    貴族社会では、未婚女性がトラブルに巻き込まれただけでも瑕疵がつく。
    傷物扱いされるのだ。例えそれが被害者の側だったとしても…。

    万が一、彼女に危害が加えられるような事があったら…。
    そう考えただけで気が狂いそうだった。

「ルリ、ジジだって伊達に騎士やってる訳じゃないから…」
「んな事わかんねぇだろ!って…すまない。」
「いや、お前の言う通りだ。騎士だからって安心できるもんでもないし…。」

    と、そこにノックも無く扉を開けて入って来たのは、ヴィルヘルム・ライテンバッハ元帥…祖父だった。

「おい!ジジちゃんの行方がわからなくなった、ってのは本当か!?」
「爺様、俺も(ジジを)探しに行っていいか?」
「やっとその一言が出たか。遅すぎるわい!」

そのまま、執務室から駆け出そうとして、立ち止まると

「悪い。ジーク、後の事は頼む!」

    言うが早いか、執務室から駆けて行った彼の姿は、あっという間に見えなくなる。

    直ぐに見つかるものと思われていたが、彼女の居場所が特定されるまで、更に3日を要したのだった。




    


    

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