願わくは…

雫喰 B

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── 第一章 ──

14. 結婚

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    あの悪夢のような決闘の日々も終わり、 結婚の準備が着々と進む。
    決闘で当主に勝った俺は、正式にルイーゼの婚約者と認められた。

    ローエングリン公爵は、結婚の準備やルイーゼに会う為に、公爵邸に行く度、「婿殿」、「アルフォンス君」と俺に付いて回り、義母上とルイーゼに叱られている。

    肩身の狭い思いはせずに済みそうだが、違う事で疲れそうではある。

    そして今日、俺とルイーゼは結婚式を挙げる。
    出会いから、実に2年もの月日が過ぎていた。

    朝早くから、我がライテンバッハ公爵邸は、大忙しである。

    父上も母上も緊張している所為か、いつもの二人とは思えないほど、あたふたしている。

    そして、兄のオトフリートと弟のフランツは何やら不機嫌そうだ。
    兄は二年前に結婚しているのだが、俺の結婚が不機嫌の理由らしい。
    けれど、その不機嫌(実にくだらない)の中身が、兄が婚約を申込んだ時に断られていた事と、妻の実家の爵位という何とも幼稚なものだった。

    兄の婚約申し込みだが、公爵は勿論の事、ルイーゼ本人が兄との婚約を拒絶したのだから仕方の無い事なのだが…。

    因みに兄の妻は、文官を多く輩出しているエーベルハルト侯爵家次女のヘレーネ嬢である。
    武官の家と文官の家の婚姻と聞くと、恋愛結婚だと思われがちだが、そんな二人の結婚は貴族間ではよくある政略結婚だ。

    そして、一人息子のクラウスが産まれる前から、夫婦の間は冷えきっており、大きくて深い溝が出来ていた。

    それに関しては兄の自業自得と言うしかない。
何せ、妻の妊娠が分かっても、悪阻が酷い彼女を放っておいて他に女を作っていたのだから…。
    おまけに、その女は妻の実家に雇われていた、ヘレーネ付の侍女だったというから驚きだ。

    そして、弟のフランツの妻だが、こちらも文官を多く輩出している、ダールベルク伯爵家長女のヒルデガルド(愛称・ヒルダ)嬢だ。

    妹(次女)のオデットが学園を卒業した後(18才)、(東部)辺境伯バルバロッサ・ビュルテンベルク卿(23才)との結婚式に出席していたヒルダ嬢と出会い、一目惚れしたらしいが、ヘタレて告白できないまま、悶々としていたのを見兼ねたトリスタンの妻ガートルード(愛称・ガーティー)が従姉ヒルダを紹介した事で婚約を結んだ。

    と、まぁこんな感じではあるが、おわかりいただけただろうか?

    そう。この国最大の軍閥が、俺とルイーゼの結婚によって出来上がるという事を…。
    しかも、政略結婚の様に見えて、ほとんどが恋愛結婚なのだが、まるで狙ったかのような結果に、国王が苦笑していた事は言うまでもない。

    だからこそ、裏の諜報機関が早々と出来上がり、機能する事が出来たのだった。

    しかし、長男であるオトフリートはこの時、何も知らされていなかった。そして、それは三男のフランツも同様で、この事に関して二人は完全に蚊帳の外だったのである。

    まぁ、そんな事は置いといて…。

    そろそろ、式の開始時刻になるらしい。
    式が始まる前に花嫁のウエディングドレス姿を見るのは、あまり縁起が良くないという話なので、とっとと式場である礼拝堂に直行した。

    司祭が、結婚式の開始を告げる挨拶「今日の良き日に…(以下略)」の後、「新郎はバージンロードの先で、新婦を迎えて差し上げて下さい。」と言われ、前へ進み出た。

「新婦のご入場です。」

    高らかに告げられた言葉に、参列者達が一斉に入り口を見ている。

    扉が開き、父親の公爵閣下にエスコートされたルイーゼが、バージンロードを俺に向かって歩いて来る。

    胸元まで垂れ下がった、手の込んだ模様でレース編みされたベール、胸上からハイネックのレース生地、大胆に肩から背中にかけて開いた、胴部分はタイトなシルエットで、ウエストから下に緩やかに流れ、後ろに長く延びるウエディングドレス。
    大胆に開いた背中を覆うドレスと同じ生地のショールが肩のすぐ下から二の腕に回されている。

    170cmと、女性の中では長身になる彼女、スレンダーな体型と相俟って、物凄く映える。
    白すぎない肌の色にも良く合っている。

    なんだか、隣に並ぶ新郎が俺で申し訳無いような…。
    だからといって、彼女の隣を誰かに譲るつもりなど全く無い。うん。無い無い。

    目の前まで来たルイーゼ。義父の耳元に顔を寄せ何か囁く。離れた後、義父が彼女の手を俺の方へ差し出し、手の平を上に向けて俺は受け取った。思わず指に力が入る。

    ベール越しに俺を見ていた彼女が俯く。
    今度は義父が彼女の耳元に顔を寄せ、何か言った後、新婦側の参列者席へ向かい夫人の隣に座った。

    その背を見送り、司祭の前に二人で並ぶ。

    そして、誓いの言葉の後ベールを上げ、彼女の眼から涙が溢れたのを見て唇を付けて吸い取った。

    頤を持って上を向かせ、そっと口付けると参列者達から拍手と歓声が上がる。

    その中を二人寄り添って歩いて行った。

~~~~~

    結婚式が終わった後は、晩餐会と御披露目だ。大広間だけでなく、ホールや庭にも料理やテーブルが並ぶ。

    公爵家の結婚の御披露目ともなると、参列者の人数が凄く多い。

    あちこち挨拶に回ったりと、忙しくて息も吐けない。
    皆、酒も入って楽しんでくれている。
    少し早い気もするが、この後の事もあるので二人とも早々に下がらせてもらう事にした。

    ルイーゼをエスコートして、自分達の部屋へと向かって歩いた。

    彼女の部屋の前で一度離れる。
    頬に口付け、「また後で。」と言うと、顔を赤くして頷いた後、部屋の中に入る。そして、俺も自分の部屋へと入って行ったのだった。
    




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