願わくは…

雫喰 B

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── 第一章 ──

11. 手合わせという名の…(少し長いですが、分けると中途半端なので、このまま投稿しました)

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    ルイーゼの熱意に折れる形ではあったが、ローエングリン公爵が二人の結婚を認めてくれた。

    彼女と正式に婚約を交わす事が出来ると、夢の様な幸せにどっぷり浸かっていた俺は、その幸せな時間を奪われる事になった。

    彼女の家系は武術に秀でている。その古くからある閨閥が、由緒正しいローエングリン公爵家の次期当主に、歴史の浅いリンドブルム公爵家の病弱な男がなるなど、許す筈もなく…。

    当主が認めても、閨閥に連なる者達が認めない限り、俺はルイーゼとできない。

    そう、当主になる事など、飽くまでも“でしかないのだ。

    “強い血を残す”その事こそが、ローエングリン公爵家が建国時から続いている理由である。

    だから俺は当主だけでなく、閨閥認めなければならない。

    この辺りの事情を伏せたまま、娘には“最終的に娘に甘い父親が折れた”と思わせておく。

    流石は“冷徹仮面”。やってくれるぜ。

    尤も、俺にしてみれば、やけにあっさり引き下がったな。と思っていたのだが…。

    この状況はいただけない。今まで何人の婚約者を葬ってきたのやら…。“推して知るべし”である。

    斯くして俺は、“手合わせ”と言う名の決闘をしなければならなくなったのだった。
    相手は閨閥と、それに連なる者達の中でルイーゼの伴侶として名乗りを挙げた者達全てである。

    ルイーゼ、君ってモテモテだったんだね。
うん。分かっていたけど、それって嬉しく無い。
だから、コイツらにも思い知らせてあげないとね。

    そしてその事は、“総領娘(次期当主の妻、今はルイーゼ)に知られてはならない”という鉄則があるのだ。

    そう、娘婿が気に入ってベッタリと摺り寄っている裏で、が行われていた事を彼女は知らない。

    食えない冷徹仮面おっさんだぜ。

    そして俺はこの決闘を勝ち抜いていかなければならないのだった。

                   ************** ***************

    俺の愛と人生を賭けた決闘が始まりを告げた。

    だが、俺には不利な状況だ。決闘の日時は予め決められる。
    当然、延期など無い。例え俺の体調が悪くても…。

    決闘相手は、伴侶に名乗りを挙げた者達の中で、弱い奴から強い奴へと序列順で相手をする事になる。最後は一番強い奴との決闘だ。

    俺は順当に勝ち進んだ。その中には彼女の従兄弟や再従兄弟はとこもいた。

    予想通り、閨閥とそれに連なる者達の中で、彼女と年齢で釣り合う者全てがいた。が、年上、年下も含めて10歳以上年が離れている者までいたのはどういう事だ。

    俺が病弱だから嘗められているんだろうか?
    そんな事よりあと何人いるんだ?

    いつまでも終わる様子の無い決闘に苛立ちを覚えた頃、決闘相手がの腕前になりだした。

    という事は、最終決闘が近いのか?

    喜んだのも束の間、心配していた事が現実となった。

    その日俺の体調は最悪だった。

    熱があり呼吸も荒く、肩で息をする俺に、相手は油断してしまったのだ。そうでなければ油断などしなかっただろう。

    余裕の無かった俺は、手加減できなかった…。

    一瞬本気で決めなければこっちが死んでいただろう。

    そう…、俺は初めて人を殺した。

    しかも、彼女の幼馴染みだったらしく、葬儀の日、彼女は声もなく涙を流していた。
    そして、その両親も泣いていた。母親は棺に取り縋って泣き、父親と弟も静かに涙を流していた。
    父親は、武門の家に生まれた以上、避けられなかった事だから仕方がない。とどこか諦めた様に言っていた。

    だが、母親と弟の憎しみに染まったあの眼を、俺はこの先ずっと死ぬまで忘れる事が出来ないだろう。

    そして、何も知らない彼女は俺の腕の中、彼の早すぎる死に、静かに涙を流す。
   本当の事を言えない俺は、胸が締め付けられる様に痛くて、息が出来なくなりそうなほど苦しかった。

    彼の死は、いきなり心臓が止まった事(心筋梗塞)による突然死だと届け出られた。

    遺体は荼毘に付され、小さくなってしまった息子を、背中を丸め、守る様に抱き締め泣いている彼の母親とそれを支え、寄り添って帰って行く家族の後ろ姿をルイーゼと共に見送ったのだった。

    そして無情にも、決闘は再開された。例え喪中でも血筋を守り抜く事こそが、ローエングリンなのだと、苦虫を噛み潰した様に公爵が呟いた。

    それ以降、俺の体調が悪くても気を抜いたり、油断したりする者はいなくなった。

    決闘相手は強い奴ばかり続く。その時闘った相手より弱い奴はいない。寧ろ対決する毎に強くなっていく。

    そして、最終決闘 ━

    俺も相手もボロボロだった。いや、長引けば長引くほど、俺の方が不利だった。
    相手もその事が分かっているから、簡単には勝たせてくれない。

    体力的にも、あと一度か二度、全力で打ち込めればいい方だろう…。

    相手は長引かせればいいだけだから、仕掛けてこない。
    剣を構えたままの睨み合いが続く。

    気を抜くと、眼が霞み、手足が震えそうだった。それを何とか抑え付ける。

    せめて、此方の間合いに入ってくれれば…。
そう思うも、相手も馬鹿ではない。そんな危険を冒さない。

    体調が良い時でも、成功率が6割の“颯天はやて”を使うしかないのか…?

    恐らく、それしか勝てる見込みは無いだろう。だが、一度しか出来ない上に、“颯天”が成功しても相手が戦闘不可にならなければ、俺の負けが確定する。

    俺は一か八かの賭けに出た。

    左手に持った長剣を逆手に握って下段に構え、右手に持った短剣を逆手に持って腰より少し後ろで構えた。

    相手は、初めて見る型に驚き、警戒した。
    
    颯渡はやとで相手との間合いを詰め、短剣を振るう。相手の剣で止められる。

    短剣を振るうと同時に、相手の肘を長剣の柄で打つ。と同時に離れた。
痛みに顔を歪めるが、剣は落とさない。

    離れたと同時に相手の右側面へ。
中段に構えていた長剣を右下から斜めに左上へと切り上げ、相手の剣を弾き飛ばし、短剣を喉元に突き付けた。

    ヒュッ!と相手が息を呑む音が聞こえるのと同時だった。

「勝負ありッ!」

見届け人の声が響き渡る。

    ホッと息を吐くものの、指一本動かせなかった。

    決闘に立ち合ってくれていた末弟おとうとが、俺の指を一本一本開いて短剣と長剣を鞘に収めた。

    二本の剣を自分の剣帯に差すと、俺を“お姫様抱っこ”しようとする。

「…冗談…だろ?」

    すると、口角を片方だけ上げ、ニヤリと笑う。

「やっぱり、嫌か?」
「当たり前だろうが!」

    声を振り絞って言うと、やっぱりかぁ。と言いながら、カラカラと笑う。釣られて俺も笑った。
そして、彼は俺を背負う。

    やっと終わった。これで名実共にルイーゼの夫になれる。と喜んだのも束の間、

「アルフォンス君、おめでとう!次の相手に勝てれば、ルイーゼの夫になる資格有り。と、認められるぞ。」

    そう言って、にこやかに笑う。

“冷徹仮面”は健在だった。

    それどころか、俺を谷底へと突き落としやがった。クソッ!
    

    

    

    
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