願わくは…

雫喰 B

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── 第一章 ──

9. 打ち合わせ

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    病弱な自分では、ルイーゼを幸せに出来ないからと身を引く覚悟でいたアルフォンスだったが、意図せず公爵に認めて貰える事になった。

    ルイーゼも喜んでいたのだが、ここへ来て予期せぬライバルの登場に、面白くない思いだった。

    父のブリュックナーである。
彼は、“冷徹仮面”などと言われ、偉そうに踏ん反り返っている自分が、情けなくも大粒の涙をポロポロと流し、涙と鼻水で汚れた顔を晒しても、侮蔑した様な態度を取る事無く、当たり前に受け入れ、宥めてくれたアルフォンスの為人を気に入り、本当の息子の様に…いや、本当の息子以上に思う様になったのだった。

    しかし、面白くないのはルイーゼだ。何せ、婚約式は省略しての結婚式である。
    時間的に余裕も無い中、アルフォンスの体調の良い時に少しでも打ち合わせをしておかないといけない。

   それに、結婚準備で忙しい今、会えるのはその時だけなのだ。

    なのに…である。

    訪問して来たアルフォンスがルイーゼと結婚準備の打ち合わせをしようとすると、父ブリュックナーが二人の間に割って入る。

    それまでは二人の結婚に反対していた父が、母と自分達姉妹とで、結婚を認めさせる為の作戦を実行した結果、結婚を認めてくれた。

    それだけで無く、早く一緒になれる様に婚約式を省略し、一日も結婚式を挙げる事を提案したのは、父であった。

    その事に、感動し、感謝すらしていた。

    自分達の立てた作戦が功を奏して、思っていた以上の成果を上げ、喜んでいたのも束の間、今の状況は、“策を弄して墓穴を掘る”と言ったところだろうか…。

    何にせよ、笑えない状況である事には違い無い。

    そして今日も、私達の目の前に、ニコニコと笑みを浮かべ座っている。
    我が父ながら、目障りなお邪魔虫だというのが、どーしてお分かりにならないのかしら。

「いやぁ、待ち遠しいねぇ。アル君が我が家に婿入りしてくれるのが。チェスは?したりするのかね?」
「はぁ。まぁ、チェスはしますが…。」

    ア、アル君ですってぇ!(怒)
わ、私ですら愛称呼びはですのに!

    しかも!テーブルの上に乗り上げんばかりに、私のアルフォンス様に顔を近付けるなど…誰の許しを得て…キィーッ!

    扇子(鉄扇)で、バタバタと態とらしく扇ぐ。
「んん!」(咳払い)としてみたりするのだが、気付かないのか、気付いていながら気付かないフリをしているのか…。

「お父様!これでは、結婚の打ち合わせが出来ないではありませんか!」
「あぁ、構わんよ。私も一緒に話を聞こう。」
「…なッ!何を馬鹿な…」
「馬鹿な事ではないだろう。重要な話だ。私がいても不思議ではないのではないか?」
「くっ…」

    この、クソ…じゃなくて、お邪魔虫!

    イライラと、先ほどよりも早くバタバタバタバタ…と扇ぐ。

義父ちち上、二人で決めたい事もあるので…その、ルイーゼ嬢も人前だと恥ずかしがって言い難い事もあるかも…?なので、少し二人だけで話をさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「  ……  」

    な、なんですの!?その捨てられた子犬の様な眼は?お父様、お諦めになって。私のアルフォンス様のお言葉ですのよ♪

「申し訳ありませんが…お願いします。」

    これ以上は、ルイーゼが怒り出して、親子喧嘩になりかねないと思ったアルフォンスは、何とか説得しようとした。

「…分かった…。」
「ありがとうございます。」

    立ち上がり、肩を落としたまま応接室から公爵が出て行った。

「「  良かったー…」」

    思わず二人の口から出た言葉が同じだった事に、顔を見合わせて笑った。

    流石、アルフォンス様ですわ。言うべき所は、きっちり言う。何て頼りになるのかしら。

    ニャつく口元を、扇子で隠す。

「ホントに、我が儘な父で済みません。」
「いやぁ、良いお父様じゃないですか。そんな事よりも、ルイーゼ嬢も、私の事は“アル”と呼んで欲しいのですが…」
「え!?  良いのですか?」
「ええ、是非。」
「ア、アル…」
「何でしょう?」

はぅッ!?  反則ですわ。その笑顔。キュン死しそう!

「で、では、私の事は、“ルーイ”と…」
「ルーイ。」

はぅッ!はぅッ!あぁ、何て幸せ。

    扇子(鉄扇)を胸の前で、両手で握り締める。
何か、メキッミシッという音がしているが、そんな事はどうでもいい。
    幸せを噛み締めているルイーゼだった。

    が、何やら外が騒がしい様な…?

と、その時、扉が開いたかと思うと、ブリュックナーが顔を出した。

「も、もう二人だけの話って、おわっ…ぐっ?!」

    彼の顔が消えたかと思えば、公爵夫人が顔を出す。

「ア………ル……
「ホホホ。お気になさらず、ごゆっくり。」
「………く………ん……!」

    と、扉が閉まった。
気の所為か、扉が閉まる前に公爵の叫び声が聞こえたような…?

    アルフォンスとルイーゼは、ややこしくなりそうだったので、何も聞かなかった事にした。
そう、何も……。

    そして結婚の打ち合わせを、進められるだけ進めた。今度こそ邪魔をされないように…。





    
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