願わくは…

雫喰 B

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── 第一章 ──

13. 最終決戦 ②

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    判断は一瞬!
    右か!左か!

    左だ!

    ガキィッン!

    左からの攻撃を受け止め、読みが当たったと喜んだのとほぼ同時に、右の脇腹に激痛が走る。

 「ウグゥアッ!!」   

    右の脇腹を見てみると、彼の短剣が刺さっていた。

「なッ?!」

    今の攻撃は分身ではないのか?
    彼の剣撃を受けたのと脇腹に激痛が走ったのは、同時だった。
    ヴィルヘルムも“ツヴァンツィヒ”は分身攻撃だと言っていた筈。
    なのに、は、まるで二人の人間を相手にしているみたいだ。

    クソッ!傷が痛くて考えていられない。

    だが、由緒正しい武門の公爵家の当主が無様に負ける事など出来ない。
    この若造に意地を見せてやらねば。

    相手が短剣を抜くと同時に距離を取った。
    摺り足で、相手の隙を窺いながら、こちらから仕掛けられる距離まで移動する。

    誘っているのか、アルフォンスが隙を見せた。態と見せた隙でもいい。
    相手がこちらを侮っているなら、意地を見せるだけ。

    そして攻撃に出た。

「「「  !?  」」」

    今度は、アルフォンスと観戦者が驚く番だった。
    が、次の瞬間アルフォンスの口元が綻んだ。

    これはこれは。侮ってしまって申し訳ない。ここまで出来るとは…。

    目前に迫ったブリュックナーの一撃目を軽く往なし、二撃目で剣を叩き折った。

「勝負ありッ!!勝者、アルフォンス!!」

    その声を聞いた途端、彼の身体が傾いだ。限界だったのだ。

    咄嗟に、ブリュックナーがそれを支えようとしたが、負傷した彼には無理だった。
    ヴィルヘルムとウルリッヒが二人を支えに走った事で、共倒れを免れた。

    そして、それぞれ肩を貸して座れる所まで移動した。
    座らせた彼らの元に、妻と婚約者が駆け寄る。

「アル!」「あなた!」

    隣に寄り添い、座っているのが辛そうな彼らの身体を自分達に寄り掛からせる。

    そこへホルツ医師が駆けつけた。

    アガーテに膝枕された状態で手当てを受ける。               
    だが、ホルツが不思議そうに何度も首を傾げる。
    不安になったアガーテがホルツに尋ねた。

「ホルツ医師せんせいどこか悪いところでもあるのでしょうか?」
「いやいや、悪いところなど…。脇腹の傷ですが、普通なら、内臓に傷が付いていてもおかしくない場所なのですが…。無いのですよ…内臓に傷が…。」

    それを聞いて、アガーテもブリュックナーも驚いていた。

「避けましたからね。」

    しれっと、アルフォンスが言った。

「よ、避けたって…。」

    今度は、ホルツ医師も驚いている。

    そして何故か、ライバルだった男が親指を立ててドヤ顔をしている。
    その顔を見て呆れてしまうブリュックナー。

「化物の孫も化物だったという事か…。」

    その言葉に、ヴィルヘルムは苦虫を噛み潰したような顔をして、フン!と言ったきり、黙り込んでしまった。

    惜しい…惜しくて惜しくて、諦めきれないのだろうな…。
    親友であり、嘗てライバルでもあった男の無念を感じたのだった。

~~~~~

    その夜、ブリュックナーは妻のアガーテに身体中、至るところに膏薬を貼ってもらっていた。

「あイタたたたた…。」
「まったく、もう若くない癖に、無茶ばかりするからですよ。」
「す、すまん。」

    妻に叱られ項垂れた。

「はい、これで最後よ!」

    パシッ!!

「 イテッ!」

    やっと最後の一枚を貼り終わった。

    恐らく明日…いや、明後日には全身が筋肉痛で辛いだろうな。トホホ…

    今日の決闘を振り返る。

    全く、恐ろしい男だ。
    婿殿は決闘を楽しんですらいた。そしてあの剣技。

    過去に“ツヴァンツィヒ”と呼ばれていた剣技は、分身攻撃で、今は“水月”と呼ばれる剣技だという。
    水に映る月に手を出せば消えてしまう。だから、“水月”に名が変わったらしい。

    そして今日、婿殿が使った剣技こそが“ツヴァンツィヒ”だという。
    分身ではなく、ほぼ二人存在しているのに近い剣技。だから、“ツヴァンツィヒ”。

    今のところ、“ツヴァンツィヒ”を使えるのは、アルフォンスだけという話だった。
    
    が、末弟のウルリッヒならば、近い内にそれらの剣技を使う事が出来るだろう。とも言っていた。

    何より驚いた事に、残像を使った剣技である“残月”、“水月”、“ツヴァンツィヒ”、この3つの剣技を編み出したのは婿殿であるというのだ。

    そして、この3つの剣技をマスターする為には、“颯渡”をマスターしなければならないらしい。

  ( 余談ではあるが、“ツヴァンツィヒ”と命名したのはウルリッヒだった。)

    それにしても惜しい…“天賦の才”を持ちながら、騎士としての一生を送れないとは…。

    武門の家を継いだ当主としての手前勝手な願いを言わせてもらうならば、ルイーゼには是非とも男児を産んでもらいたい。

    だが、父親としては幸せになってくれればそれでいいと思っている。

    それは本心だ…。
    けれど、あれほどの“天賦の才”を見せつけられれば、否が応でもその血に期待してしまう。

    否が応でも…いや、少し…いやいや、ほんのちょびっと期待してしまう…。

    すまん!ルイーゼ!アルフォンス!
    心の中で土下座するブリュックナーであった。
    


    
*『ツヴァンツィヒ』とは、ドイツ語で『2倍』という意味らしいですが…
    (合ってますか?自分で調べただけなので自信がなくて…すみません;)
    
    
    






   

    
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