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── 第一章 ──
3. 天賦の才って、美味しいの?食べれるの?
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アルフォンスはもうすぐ13歳になる。春になったら、フランドール王立学園に通う事となり、王都に戻るとその準備に忙しかった。
二年前の長女エリザベートの入学式は、両親と弟、妹二人が出席したので、賑やかだった。
その時は、勿論アルフォンスは領都の邸で静養中で、ウルリッヒは王都の邸でお留守番だった。
今年のアルフォンスの入学式は、両親と弟二人に、妹二人だったので二年前以上に、賑やかだった。
アルフォンスは、病弱な為、騎士養成所に入所出来ないので、十八歳での卒業まで学園に通う事になっている。
因みに、領都の邸から王都の邸まで戻って来てから熱を出していたが、体力がついた所為か、寝込むほどではなかった。
静養の甲斐あってか、王都の邸に戻ってからは、身体に負担が掛からない程度に運動する事が出来る様になっていた。
そして、そんな彼が素振りをしているのを、二歳の末弟はいつも見ていた。二歳児とは思えないような集中力で…。
アルフォンスが、王都に戻って来てから、長男・オトフリートは少し精神的に不安定になった。
周囲からの期待と重圧、それと、“期待外れの嫡男”“残念な腕前”と揶揄され、王家主催の武術大会での成績も、芳しくなかった。だからという訳でもないのだろうが、いつも終始イラついている様な有り様だった。
こればかりは、父・ジークフリートにもどうしようもなかった。武門の家に生まれた者の宿命でもあるからだ。
付け加えるなら、重圧という点ではジークフリートの方が酷かった。
何せ、ヴィルヘルムは第一線で活躍していたのだから…。おまけに一人息子、。重圧が掛からない訳が無い。
だから、オトフリートの気持ちも分からなくはなかったが、それを差し引いても彼に関しては、鍛練不足(特に精神面で)の感も否めなかった。
それでも、取り巻きからは、次期公爵と持て囃され、持ち上げられていた。
その事も、彼にとってはある意味良くなかったのだろう。慢心し、腕を磨こうとしなかったのだから…。
そして、それまでに歪みはあったものの、そこまで酷い歪みではなかったのが、更に歪む事になったのだった。
その上、高過ぎる自尊心は傷ついていた。
***********
**********
そして、オトフリートが16歳になり、養成所の一般課程修了式の日に、それは起こった。
その日、修了式も終わり、保護者達も殆ど帰って行った後、ヴィルヘルムとジークフリートは養成所の所長と談話室で話をしていた。
マリーカとシュザンヌ、そして子供達は、先に邸に帰っていた。が、アルフォンスだけは、祖父と父親と一緒に帰る事にして残った。
祖父と父の二人が所長と談話室で話をしている間に、その日は、珍しく体調の良かった彼は、通えなかった憧れの養成所を見学したくて残ったのだ。
生徒達は、修了パーティーが夜にあるので、それまでの自由時間を、思い思いに過ごしていた。
そして、アルフォンスが養成所内を見て回り、雨の日でも修練する事が出来る屋内施設に差し掛かった時、何やら怒鳴り声や言い争うような声が聞こえてきた。
何だろう?と思って音のする方へ、気配を殺し、音を立てないように近づいて行った。
状況を把握する為に、話し声に聞き耳をたてる。
「生意気なん……が…せに!」
「……親の……!…残念な奴……!」
「…面よご……!えらそ……!」
「ライテンバッ……虎の……狐……!」
聞こえてきた言葉の中に、“ライテンバッハ”と聞こえた様な気がしたので、そのまま進んだ彼が眼にしたのは、兄オトフリートが数人の生徒達に取り囲まれ、木剣で打ち据えられているところだった。
「兄上っ!!」
思わず駆け寄り、倒れている兄を抱き起こすと、ううっ…と呻いた。傍には木剣が転がっている。
怪我の程度をざっと見た。何ヵ所か木剣で打たれているのか痣だらけで、左腕が変な方向に曲がっていた。骨折をしているかもしれない。
「何者だ!」
「邪魔するとお前も同じ目に合わせるぞ!」
「貴様も、そのクズの仲間か!!」
「何とか言ったらどうだ!!」
兄を抱き抱えかている彼に、怒気を向け、罵声を浴びせた。
顔を上げ、キッ!と男達を睨んだ。
「ハハハハ。これはまた可愛いお姫様のお出ましだな。」
「その綺麗な顔で、クズに可愛がられているんだろうな?」
「違いない。そんなクズより俺達が可愛がってやろうか?」
傍に転がる木剣に手を伸ばし、掴む。
「お、やる気か?」
「面白い。相手になってやる。」
言うが早いか、襲い掛かってきた。
が、片手で一閃。
剣圧で起こった風で、相手を威嚇する。相手が怯んだ隙に、兄をそっと地面に置いた。
「な、なんだ」
「何をした。」
一瞬怯んだものの、再び襲い掛かってきた。
攻撃を木剣の下を掻い潜り、避けると、男達の間を擦り抜け、背後を取り、次々打ち据える。
彼が再び構えると同時に、男達が片膝を付いた。
そして立ち上がろうとしたその時、
「貴様ら何をしておる!」
と怒声が飛ぶ。逃げようとした男達に怒気を向け、
「動くな!」
と叫ぶ。
と、そこへ、父が来た。
後ろからは、祖父と所長が来ている。
張り詰めた糸が切れた様に、アルフォンスが膝から崩れた。
その身体を父が抱き留め、木剣はそのまま地面に転がる。
顔色が悪く、肩でしている息が荒い。
そのまま父に抱え上げられ、馬車まで運ばれた。
そして、兄も祖父に肩を借り、馬車に乗り込んだ。
祖父と父は、所長に簡潔に辞去の挨拶を済ませ、馬車は出発した。
所長は遅れてやって来た教官達と、捕まえた生徒達を指導室まで引き摺って行ったのだった。
二年前の長女エリザベートの入学式は、両親と弟、妹二人が出席したので、賑やかだった。
その時は、勿論アルフォンスは領都の邸で静養中で、ウルリッヒは王都の邸でお留守番だった。
今年のアルフォンスの入学式は、両親と弟二人に、妹二人だったので二年前以上に、賑やかだった。
アルフォンスは、病弱な為、騎士養成所に入所出来ないので、十八歳での卒業まで学園に通う事になっている。
因みに、領都の邸から王都の邸まで戻って来てから熱を出していたが、体力がついた所為か、寝込むほどではなかった。
静養の甲斐あってか、王都の邸に戻ってからは、身体に負担が掛からない程度に運動する事が出来る様になっていた。
そして、そんな彼が素振りをしているのを、二歳の末弟はいつも見ていた。二歳児とは思えないような集中力で…。
アルフォンスが、王都に戻って来てから、長男・オトフリートは少し精神的に不安定になった。
周囲からの期待と重圧、それと、“期待外れの嫡男”“残念な腕前”と揶揄され、王家主催の武術大会での成績も、芳しくなかった。だからという訳でもないのだろうが、いつも終始イラついている様な有り様だった。
こればかりは、父・ジークフリートにもどうしようもなかった。武門の家に生まれた者の宿命でもあるからだ。
付け加えるなら、重圧という点ではジークフリートの方が酷かった。
何せ、ヴィルヘルムは第一線で活躍していたのだから…。おまけに一人息子、。重圧が掛からない訳が無い。
だから、オトフリートの気持ちも分からなくはなかったが、それを差し引いても彼に関しては、鍛練不足(特に精神面で)の感も否めなかった。
それでも、取り巻きからは、次期公爵と持て囃され、持ち上げられていた。
その事も、彼にとってはある意味良くなかったのだろう。慢心し、腕を磨こうとしなかったのだから…。
そして、それまでに歪みはあったものの、そこまで酷い歪みではなかったのが、更に歪む事になったのだった。
その上、高過ぎる自尊心は傷ついていた。
***********
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そして、オトフリートが16歳になり、養成所の一般課程修了式の日に、それは起こった。
その日、修了式も終わり、保護者達も殆ど帰って行った後、ヴィルヘルムとジークフリートは養成所の所長と談話室で話をしていた。
マリーカとシュザンヌ、そして子供達は、先に邸に帰っていた。が、アルフォンスだけは、祖父と父親と一緒に帰る事にして残った。
祖父と父の二人が所長と談話室で話をしている間に、その日は、珍しく体調の良かった彼は、通えなかった憧れの養成所を見学したくて残ったのだ。
生徒達は、修了パーティーが夜にあるので、それまでの自由時間を、思い思いに過ごしていた。
そして、アルフォンスが養成所内を見て回り、雨の日でも修練する事が出来る屋内施設に差し掛かった時、何やら怒鳴り声や言い争うような声が聞こえてきた。
何だろう?と思って音のする方へ、気配を殺し、音を立てないように近づいて行った。
状況を把握する為に、話し声に聞き耳をたてる。
「生意気なん……が…せに!」
「……親の……!…残念な奴……!」
「…面よご……!えらそ……!」
「ライテンバッ……虎の……狐……!」
聞こえてきた言葉の中に、“ライテンバッハ”と聞こえた様な気がしたので、そのまま進んだ彼が眼にしたのは、兄オトフリートが数人の生徒達に取り囲まれ、木剣で打ち据えられているところだった。
「兄上っ!!」
思わず駆け寄り、倒れている兄を抱き起こすと、ううっ…と呻いた。傍には木剣が転がっている。
怪我の程度をざっと見た。何ヵ所か木剣で打たれているのか痣だらけで、左腕が変な方向に曲がっていた。骨折をしているかもしれない。
「何者だ!」
「邪魔するとお前も同じ目に合わせるぞ!」
「貴様も、そのクズの仲間か!!」
「何とか言ったらどうだ!!」
兄を抱き抱えかている彼に、怒気を向け、罵声を浴びせた。
顔を上げ、キッ!と男達を睨んだ。
「ハハハハ。これはまた可愛いお姫様のお出ましだな。」
「その綺麗な顔で、クズに可愛がられているんだろうな?」
「違いない。そんなクズより俺達が可愛がってやろうか?」
傍に転がる木剣に手を伸ばし、掴む。
「お、やる気か?」
「面白い。相手になってやる。」
言うが早いか、襲い掛かってきた。
が、片手で一閃。
剣圧で起こった風で、相手を威嚇する。相手が怯んだ隙に、兄をそっと地面に置いた。
「な、なんだ」
「何をした。」
一瞬怯んだものの、再び襲い掛かってきた。
攻撃を木剣の下を掻い潜り、避けると、男達の間を擦り抜け、背後を取り、次々打ち据える。
彼が再び構えると同時に、男達が片膝を付いた。
そして立ち上がろうとしたその時、
「貴様ら何をしておる!」
と怒声が飛ぶ。逃げようとした男達に怒気を向け、
「動くな!」
と叫ぶ。
と、そこへ、父が来た。
後ろからは、祖父と所長が来ている。
張り詰めた糸が切れた様に、アルフォンスが膝から崩れた。
その身体を父が抱き留め、木剣はそのまま地面に転がる。
顔色が悪く、肩でしている息が荒い。
そのまま父に抱え上げられ、馬車まで運ばれた。
そして、兄も祖父に肩を借り、馬車に乗り込んだ。
祖父と父は、所長に簡潔に辞去の挨拶を済ませ、馬車は出発した。
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