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37.顛末・ハロルドside
しおりを挟むライアンがキメラを斃した後、ニアと二人で手当てして薬を飲ませてくれ、すぐに眠気に襲われた俺は眠ってしまった。
呼吸もかなり楽になり、喉の渇きを覚え目が覚めた俺は信じられない物を見た。
あのいつも自信に満ち溢れた表情か、眉間に皺を寄せた顔しかしないライアンが辛そうな今にも泣き出しそうな表情でニアの頬や頭を撫で続けている。
「何て顔してやがるんだ……。馬鹿が……。」
婚約を解消されるのが…ニアに嫌われるのがそれ程辛くて悲しいなら何故彼女を裏切り続けた!
ニアの気持ちも知っている俺は目にした光景に遣る瀬ない思いでいっぱいだった。
そして、やはりと言うか次にニアが目を覚ました後、真面な思考・判断が戻ってきたのかライアンに対しての塩辛い対応に苦笑する事しかなかった。
(ライアンはニアを前にして、項垂れ耳と尾を垂れさせた犬のようだった。)
翌日の午後には救援隊が到着し、帰還後二人は双方の父親によって引き離され、ライアンの事情など関係なく婚約も破棄された。
勿論、ライアンの有責で。
しかも職務以外でニアに近付かないように厳命された。
婚約時に両家で交わされた約定と、両当主の盟約によって交わされた婚約だった為、解消から破棄とされた故の事で、ライアンの不義、(ラフレシアへの対応)不手際でニアが負傷した事に対して責任を取らせる物でもあった。
そしてライアンは自室に軟禁され、廃嫡とされたが現在彼以外に当主になる資格を有する者が居らず、その者が現れるまでの繋ぎとして権限を縮小した上で仮嫡男となった。
ニアは怪我の回復を待って自領に帰る事となり、キメラが斃された後、不思議な事に魔獣の気配や瘴気が消え去った。
其れにより、予定されていた後期合同訓練は中止・解散となった為、各辺境騎士団の一部の者を除いた騎士達は自領へと帰還して行った。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
その裏である事件と謀略の断罪が秘密裏に行われた。
一つはラフレシアが魔石を用いてニアを害そうとした事について。
実行犯であるラフレシアの斬首刑が確定し、即日刑に処された。
勿論、本人は殺意を否定していたが当時の状況としてあの場で魔石を使用すればニアが死んでもおかしくない事は明白で悪質だと判断された。
余談では有るが、彼女は最後まで謝罪も反省もせず、自分は悪くない。ニアの所為で自分は不幸になったのだと、ニアさえ居なければ幸せになれたのにと喚き散らしていた。
何をどうすればニアの所為になるのかわからなかったが、元婚約者の結婚式での出来事が決定打となり精神を病んで行ったのだろう。
そして、主犯として元東部辺境伯リカルドの名前が挙がり、刑が確定した一週間後に毒杯を賜った。
生前の彼の辺境伯としての功績と犯行動機からの温情である。
そして、その死は表向きの発表では救援隊として赴いた先で魔獣に負わされた怪我が原因とされた。
リカルドがラフレシアに魔石を渡したのは、カレドニアを害する為でなくライアンを害する事が目的で、彼にいつも纏わり付いているラフレシアに魔石を使用させる事でその目的を果たそうとしていた。
その動機だが、幼い頃から病弱で未だに婚約者が決まらない息子の初恋の為であった。とリカルドは訴えた。
実際彼はニアの婚約者がライアンに決まるまで何度もカレドニア家に婚約を申し込んでいた。
だが、本当の所は純粋に息子の為だけに婚約を申し込んでいたかというとそういう訳でもない。
その根底には跡継ぎ問題の解決以外に血筋の能力強化という目的があっての事だった。
カーネリアン家(北部)もガーネット家(南部)も昔から隣国や魔獣との戦いが多い土地を治めている事もあり、戦闘力が高く戦場の状況をいち早く読み取り、“ 味方の被害は最小に敵に与える被害は最大に ”をモットーに戦略や戦術を立てる事ができる者を後継者としてきた。
その為に、両家とも外の血を積極的に取り入れてきた。(他国の者と結婚した者も居た。)
それとは逆にフローライト家(東部)は血筋に拘り血族婚(いとこやハトコ同士の結婚)を繰り返した為、三代前辺りから子供の出生数が激減している。
優秀な一族として有名なカーネリアン家と当主のオルカリオン、武に於いて秀でているガーネット家の現当主セドリックと当代一と言われるライアン、片や直系の血筋が絶え掛けているフローライト家とその当主である自分
いつも口惜しさに歯噛みしていた。
故に、腹立たしくは有るが遅ればせながら外の血を取り入れる事にした。
だから結婚を打診したのはニアだけではないのだ。
ぶっちゃけ、先に彼女の姉妹に打診して断られまくっている。
そして最終的に“カーネリアン家の落ち零れ”と陰で言われているニアならば了承を得られるのではないかとの考えからの打診であった。
「まるでニアの事を“ 腐っても鯛 ”とでも思っているような奴が当主の家になど嫁にやれるか!!」
とはルカリオンの言である。
そしてその事をディーンは知らない。いや、知らなかった。
だが、事が明るみに出た今では知っている。
彼の初恋は父親の手によって砕け散った。
それでも、彼は当主の座に就かねばならない。
何故ならばリカルドの子は彼しか居ないのだから。
リカルドの自分勝手な妄執から、ラフレシアを嗾け、フローライト家にて代々保管されていた魔石を彼女に渡した為に、混乱を招き多くの血が流された。
そう、ラフレシアのライアンへの付き纏いを利用した一連の騒動の黒幕はリカルドだったのだ。
リカルドに利用されたラフレシアはある意味被害者と言えるかもしれないが、魔獣を討伐している場で魔石を出さなければ……。
リカルドが当主の時に魔獣の出現が無ければ……。
…たら、…ればと言ってもしょうがないのはわかっているが、此処までの犠牲は出なかっただろうとつい思ってしまう。
そして、ラフレシアに魔石を渡したのは部隊長のフランク・コーラルだったが、彼が魔獣の攻撃で死亡した為、ラフレシアはその場で殺されずに済んだ。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
モーリスも(ライアンへの毒針使用など。) 計画の一部に関わる(便乗する)のだが、飽くまでも場の混乱を鎮める為と主張したのと関わりを証明する証拠が無かった為、罪に問われる事は無かった。
因みに、シトリン・カーライルはニアの兄アレクサンデルの部下(諜報活動)で、ライアンと同じ目的(黒幕捜し)で動いていた。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
各辺境騎士団が帰途につく中、伯父のルカリオンが俺に会いに来た。
「ハロルド…お前には辛い役割ばかりさせて済まない…。」
「伯父貴、俺はあいつと添い遂げる事ができないとわかった上にライアンに負けた時から誓いを立てている。だから…これは俺の仕事だ…気にしないでくれ。」
「……済まない。」
俺とニアは怪我が回復するまでガーネット家の邸に滞在する事になっている。
伯父も嫡男であるアレクに当主としての仕事を任せ、それまでの間此処に居るという。
ライアンが強硬手段に出る事を防ぐ為に。
やはり彼奴は諦めが悪い。
婚約が破棄されようがニアを手放す気は全く無いらしい。
既に何度かニアの部屋に侵入しようとしたようで、伯父は頭が痛いと言っていた。
ライアンに呆れニアに同情したが、俺もライアンの立場なら同じ事をしたと思う。
だからといってそれを赦す気は毛頭無い。
邪魔をする日が来るのが楽しみだ。
何はともあれ、ライアンとニアの婚約は破棄されたが、辺境を預かる者同士としての交流は続く。
そして俺はニアの回復を待って騎士団を退団した。
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*いつもお読みいただきありがとうございます。
*お気に入り、しおり、エール等本当にありがとうございます!
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