心乱れて

雫喰 B

文字の大きさ
上 下
7 / 44

7.忘れたい想い

しおりを挟む

 王都のタウンハウスを出発して領都にある邸に着いたのは3日後の夕方近くだった。

 王都を出る前に出していたライアン様への手紙。

 その返事は予想通りに今日届いていた。

 向こうはいつ来てくれてもいいという返事だったけれど、取り敢えず明日一日を休息に当て、明後日の朝に出発する予定になると認めた手紙を出した。

 久しぶりに見る彼の文字。
 
 思えば私が学園に入ってから毎月来ていたライアン様からの手紙が、二、三ヶ月に一回になり、半年に一回に。

 今年になってからは一回だけだった……。

 そして、今日届いていた返事。

 私の学園生活に触れるでもなく、彼の近況報告すら無いまるで業務連絡の遣り取りみたいな内容だった。

 噂を聞いた段階で気付かなかった私も私だが、幾ら心に決めていた相手との逢瀬に忙しいのだとしても、私との婚約をさっさと解消してくれていればこんな状況で話をしなくて済んだ物を……。

 その事に私が腹立たしく思ったとしても当然だと思えた。

 それにしても上の兄姉が片付かないと、下の弟妹が結婚できない。なんてルールの家じゃなくて良かったと#熟々__つくづく
__#思う。

 でなければ、いつまで経っても結婚できそうにない私は、下の弟妹から恨まれた事だろう。

 何にせよこの恋心想いをとっとと忘れてしまえれば…。

 失恋の痛みに合同訓練が終わるまで堪えれば後は時間が解決してくれるだろう。
 時が経つにつれ薄れて行くものだと。
 
 と、その時扉をノックする音が聞こえた。

 侍女だと思い、入室を許可したが扉を開けて見えた顔はお兄様だった。

「ニア、今話をして大丈夫か?」
「ええ。大丈夫よお兄様。」

 そう答えると、部屋に入って来たお兄様が書類を私に差し出した。

 何だろう?と思い、受け取った書類を見ると其処に書かれていたのは合同訓練の編成表だった。

 真っ先に見たのは南部辺境伯領で一緒に訓練する東部辺境伯領メンバーの名前である。

 東部辺境伯領からの参加者にラフレシア嬢の名前が無くてホッとした。

「あの女の名前が無くて安心したか?」

 その言葉に思わず苦笑した。

「当然だろう。ニアとあいつの話し合いを邪魔されても困るからからな。予め東部辺境伯向こうには頼んでおいた。」

 東部辺境伯の嫡男であるディーン様とお兄様は騎士養成所での同期であり、親友でもあった。

 そして此方の事情もある程度わかっていたらしい。


△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 
 南部辺境伯領に向かう日、「一緒に行ってやれなくてすまない。」とお兄様に言われた。

「大丈夫、気にしないで。」

 そう答えた私を不安げに、申し訳なさそうに見るお兄様。

 お兄様は次期辺境伯として、お父様が此方に到着するまで指揮を執らねばならない。

 そしてこの婚約の話し合いの結果は、私に一任されている。
「どの様な結果になっても私が決めた事ならそれで良しとする。」と両親からの言質も取っている。

 諦めが悪いんだと自分でも思う。
 これだけ噂になっていて、婚約者としても蔑ろにされているのに……。
 
 それでもまだ彼に振り向いて貰いたいと思っている。
 諦めきれない。
 まだ好きなの。
 馬鹿よね。ほんと。
 
 けど、もうこれで終わりにしたい。
 終わらせなきゃ……。

 他の人を愛している彼とこのまま婚約を継続させるなんて…結婚するなんて無理。
 
 だから彼に決断して欲しい。
 どちらを選ぶのか。



△▽△▽△▽△▽△▽△▽△



 先発組である一個中隊の騎士達と共に南部辺境伯領へと出発した。

 北部辺境伯領から直接向かう場合、どんなに急いで馬を走らせたとしても、南部辺境伯領まで五日はかかる。
 しかも今回は合同訓練とあって、東部辺境伯領に寄り訓練参加者達と合流してから南部辺境伯領へと向かうのだ。

 もしかすると、ライアン様と話し合う前にラフレシア嬢と顔を合わせる事になるかもしれないと不安に思っていたがそんな事は無かった。

 何だか肩透かしを食らったみたいな感じだったが、その事について深くは考えない事にした。
 顔を合わせずに済むならそれに超したことは無いと。

 東部辺境伯からは、「寄子の男爵令嬢がすまない。其方から頼まれた件に関しては承知した。今回のメンバーに彼の令嬢は入っていない。」というお言葉を頂いた。
(東部辺境伯の代わりに嫡男であるディーン様が会議に出席している。)

 そしてその言葉通り、一緒に南部辺境伯領に向かっているメンバーの中にラフレシア嬢の姿は無かった。

 だから安心していたのだ。
 これでちゃんと話し合って婚約を解消できて、ライアン様にきちんと別れの挨拶をしてこの想いを終わらせる事ができるのだと。


 

~~~~~~~~

*物語の内容を変更したので、一話目の内容(プロローグ)も少し変えました。

 
 

 
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【R15】お金で買われてほどかれて~社長と事務員のじれ甘婚約~【完結】

双真満月
恋愛
都雪生(みやこ ゆきな)の父が抱えた借金を肩代わり―― そんな救世主・広宮美土里(ひろみや みどり)が出した条件は、雪生との婚約だった。 お香の老舗の一人息子、美土里はどうやら両親にせっつかれ、偽りの婚約者として雪生に目をつけたらしい。 弟の氷雨(ひさめ)を守るため、条件を受け入れ、美土里が出すマッサージ店『プロタゴニスタ』で働くことになった雪生。 働いて約一年。 雪生には、人には言えぬ淫靡な夢を見ることがあった。それは、美土里と交わる夢。 意識をすることはあれど仕事をこなし、スタッフたちと接する内に、マッサージに興味も出てきたある日―― 施術を教えてもらうという名目で、美土里と一夜を共にしてしまう。 好きなのか嫌いなのか、はっきりわからないまま、偽りの立場に苦しむ雪生だったが……。 ※エブリスタにも掲載中 2022/01/29 完結しました!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

婚約破棄されたので初恋の人と添い遂げます!!~有難う! もう国を守らないけど頑張ってね!!~

琴葉悠
恋愛
  これは「国守り」と呼ばれる、特殊な存在がいる世界。  国守りは聖人数百人に匹敵する加護を持ち、結界で国を守り。  その近くに来た侵略しようとする億の敵をたった一人で打ち倒すことができる神からの愛を受けた存在。  これはそんな国守りの女性のブリュンヒルデが、王子から婚約破棄され、最愛の初恋の相手と幸せになる話──  国が一つ滅びるお話。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

犠牲の恋

詩織
恋愛
私を大事にすると言ってくれた人は…、ずっと信じて待ってたのに… しかも私は悪女と噂されるように…

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...