6 / 44
6.夏季休暇
しおりを挟む頭が回らないなりに色々考えていた私は、夏季休暇に入る前夜、両親にエマ様の調査結果を話した。
そして、もしかしたらライアン様との婚約は解消するかもしれない事も話した。
やはりというか、両親の耳にも噂は入っていたみたいで、はっきりわかって良かったと、話してくれて良かったと言ってくれた。
私の考えも何もわからず噂に振り回される事も無くて良かったと。
エマ様とラズベリー様とのお茶会から戻って来てから夏季休暇に入るまで、心ここに在らずといった風情の私に、家族はそれなりに心配してくれていたみたいだ。
お母様がいつもなら言うお小言を言わなくなり、兄は私の好きなスイーツを毎日買ってきてくれ、姉も私の好きなお茶を毎日入れてくれたり、弟や妹も学園が休みに入ってもあまり纏わり付いてこなかった。
何より驚いたのは、ケチなお父様が夏季休暇中のお小遣いを増額してくれた事だった。
まぁ、お父様からしたら、自分が持ってきた婚約話だった所為もあるからだろう。
元々、今年の夏季休暇は領地に行く予定だったから、気分転換には丁度良かったのかもしれない。
このままの状況でずるずると引き摺ったまま結婚するのも嫌なので、ライアン様と話がしたいと手紙を出していた。
だから、彼とは一度は顔を合わせる事になる。
その結果彼が何を考え何を思っていたのか、私達の婚約がどうなるかわからないけれどちゃんと答えが出るといいな。
そうは思っていたが、(悪い意味で)忘れられない記憶になるとは思わなかった。
△▽△▽△△▽△▽△▽△▽
夏季休暇に入る少し前ぐらいから、数こそ少ないものの魔獣の目撃情報があったらしい。
この世界では、世の中が乱れると魔獣が出没するという言い伝えがある。
そしてそれは国が滅びる前兆とも言われ、水神を奉っている国では神殿にある聖なる泉の水位が激減し、枯れてしまうのでは?という不安が広がりつつあり、風神を奉っている国では暴風が吹き荒れる日が増え、滅びの前兆ではないかという噂が流れ出したという。
私達が暮らすこの王国でも、王国の行く末を占った王家お抱えの占者の水晶玉に罅が入り粉々に砕け散ったという話が真しやかに囁かれていた。
幸いまだ魔獣の目撃情報は無いが、時間の問題だろうと言われている。
そして、学園の方も例年よりも何日か早く夏季休暇に入ることとなった。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
今日、城ではお父様たち辺境伯や王国軍の元帥位、将軍位に就いている者が緊急招集され、対策会議が開かれている。
私と一緒に領地へ行く予定だったお兄様が、一足先に領地へ行くと言うので予定を切り上げて私もついて行く事になった。
当初の予定では領地でのんびりする筈だったが、北部、南部、東部の辺境伯家の私設軍によって行われる合同訓練に十五才以上の者は参加を義務付けられた為、私もそれに参加する事になった。
そして、夏季休暇中にライアン様との婚約を継続するか、解消するかの話し合いをする予定もあり、私が合同訓練に向かうのは南部辺境伯領と決まった。
こんな時に…。と、思わなくもないが本格的に魔獣が出没するようになれば、魔獣騒動が収束するのが何時になるかわからない。
だから、その前にケリをつけてしまおうと考えての事だった。
その為、一刻も早く領地に向かわないといけないので、馬車ではなく馬を走らせている。
そして、来年結婚予定だったお姉様の結婚は、先に入籍だけを済ませ、事態が収束してから婚姻の儀を行う事になり、隣国の侯爵家へと既に輿入れしている。
延期の話も出ていたのだが、二人の強い意志によって双方の家から認められたのだった。
愛し愛されての結婚。
正直、羨ましくはある。
学園を卒業後に結婚する予定だった私だが、魔獣が出没するような事態になったのは却って良かったのかもしれない。
何よりこの時既に私の中では婚約解消すると決めていた。
ライアン様とラフレシア嬢…相思相愛の二人…。
確かに私はライアン様に一目惚れをした。そして今でも彼に対する恋愛感情はある。
だからと言って二人の邪魔をする気などない。
結婚していない今ならば辛くて悲しいけれどまだ身を引ける。
そうすればライアン様も本当に愛する人と結婚する事ができ幸せになれる。
そう思っていた。
だから、話し合いというよりは自分の気持ちと二人の関係にケリを付ける為に彼と話しをするつもりだったのだ。
婚約解消に向けて…。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
【R15】お金で買われてほどかれて~社長と事務員のじれ甘婚約~【完結】
双真満月
恋愛
都雪生(みやこ ゆきな)の父が抱えた借金を肩代わり――
そんな救世主・広宮美土里(ひろみや みどり)が出した条件は、雪生との婚約だった。
お香の老舗の一人息子、美土里はどうやら両親にせっつかれ、偽りの婚約者として雪生に目をつけたらしい。
弟の氷雨(ひさめ)を守るため、条件を受け入れ、美土里が出すマッサージ店『プロタゴニスタ』で働くことになった雪生。
働いて約一年。
雪生には、人には言えぬ淫靡な夢を見ることがあった。それは、美土里と交わる夢。
意識をすることはあれど仕事をこなし、スタッフたちと接する内に、マッサージに興味も出てきたある日――
施術を教えてもらうという名目で、美土里と一夜を共にしてしまう。
好きなのか嫌いなのか、はっきりわからないまま、偽りの立場に苦しむ雪生だったが……。
※エブリスタにも掲載中
2022/01/29 完結しました!
婚約破棄されたので初恋の人と添い遂げます!!~有難う! もう国を守らないけど頑張ってね!!~
琴葉悠
恋愛
これは「国守り」と呼ばれる、特殊な存在がいる世界。
国守りは聖人数百人に匹敵する加護を持ち、結界で国を守り。
その近くに来た侵略しようとする億の敵をたった一人で打ち倒すことができる神からの愛を受けた存在。
これはそんな国守りの女性のブリュンヒルデが、王子から婚約破棄され、最愛の初恋の相手と幸せになる話──
国が一つ滅びるお話。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる