【完結】幸せ探し

雫喰 B

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後編

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 あの後、彼等の雇い主である商人が荷馬車と共に駆け付けて来た。
 先程と同じように妻や娘を助けて欲しいと商人に追い縋る者達。
 だが、商人は「私ができるのは救援要請をする事しかできない。」と繰り返すばかりだった。

 ここで新しい馬車が来るのを待つしか無い私達と商人一行が一緒にいても、護衛達を夜盗の追跡と連れ去られた者達の救出に向かわせている間、私達を護る者がいなくなる。

 冷たいようだが仕方の無い事だった。
 後は町の自警団なり警備隊なりに任せる他無い。

 かなり時間が経って新しい馬車と警備隊がやって来た。

 新しい馬車に乗り込んだ私達と商人一行が次の町まで一緒に行く事になった。

 のはいいのだけど……。
 休憩時や野宿時に、商人一行の中にいる青年が、時々何故か私を見ている事に気付いた。
 その探るような視線に居心地の悪さを感じて落ち着かない。
 気にしない風を装い続けたが正直疲れた。
 何故そんなに私を見るのかと考えたがさっぱりわからない。

 町に到着して馬車から降り、今夜の宿を探そうとした私の腕を掴んだ青年に、他の乗客から離れた場所まで連れて行かれた。

「君、女でしょ?」
「っな!?」
「噓吐いても無駄だよ。」

 その言葉に血の気が引き、一歩後退った。
 一見、柔やかな笑顔を浮かべているが目が笑っていない。

 怖い!

「ごめんごめん。恐がらせるつもりは無かったんだ。ただ……。」

 ???

 掴んでいた腕を放し、困ったように頭を掻く青年を見て、先ほどの笑顔の事もあり困惑した。

「ウチで働く気無い?」
「え?」

 突然の申し出に、余計に訳がわからない。
 そんな私の心を読んだように青年は、申し出の意味を教えてくれた。

「このままここにいても君が女性だとわかれば、同じ馬車に乗っていた乗客から理不尽な怒りをぶつけられるだけだよ。だって…彼等の娘や妻や恋人は攫われてしまったんだから…。なのに、同じ女性である君が何故無事だったのか…?そして、彼等の遣り場の無い怒りの矛先は君に向くだろうね。」

 それを言われた直後はまさかと思っていたが、ふと思い出した。
 子供の頃に私達家族が住んでいた村で大規模な土砂災害があった。

 被災直後は、お互いが被災した者同士だからと助け合い労り合ったが、暫くすると家族を失った者と、死んだと思われていた家族が助かった者達の間がぎくしゃくしだした。

 状況は違うが、家族を失った者達のが運良く生き延びた者達に向けられたのだった。

 その事を思い出した私は、青年の言う通りに商人一行と行動を共にする事にした。

 遣り場の無い怒りを他者に向けた側も向けられた側も等しく傷付く事になる事がわかっていたからだった。

 △▽△▽△▽△▽△▽△

 そして私は商人一行と一緒に行動している。
 
 あの青年は、いつかは店を任されるか、店を持った時の為に商人に付いて商いの事を勉強しながら秘書のような仕事をしていると言う。
 
 そして私も彼と同じように勉強しながら彼の仕事を手伝っている。

 いくら女とわからないように服装もワンピースではなくトラウザーズにシャツを着ているといっても、他の人と接する機会が多ければ女とバレる確率が高くなる。
 そうなった時にトラブルにならないように商人か彼の側に居るように言われている。

 何故ここまで親切にしてくれるのか聞いた事がある。
「読み書きができるから。」
 だそうだ。

 一から読み書きを教えるよりも、読み書きできる人間を雇う方が効率が良いらしい。
 

 もうどれほどの時間馬車に揺られているのか…。

 途中にある町か何処かで宿を取るか野宿でもするのだろうか…。

 行き先がこの国の東の端っこだとしか聞いていないから何日掛かるかも分からない。

 分かっているのは私が婚家を追い出されたという事と、この隊商を率いている商人に雇われたという事だけ…。

 この先どうなるのかわからない。
 不安が無い訳ではない。
 でも、こうして働く所も有り、食べ物にもありつけている。

 だから先は明るいと信じてこの“幸せ探し”の旅を続けて行こう。

 △▽△▽△▽△▽△

 ─ ???(青年) side─

 ある町で乗り合い馬車の停車場に並ぶ一人の女性を見た。
 これといって目を引く何かがある訳ではない。

 緊張の為か青白い顔をして並んでいる彼女だったが、其の癖凜とした強い意志を感じるその眼差しに惹かれ目が離せなかった。

「気に入ったのか?」

 彼女を見ていた俺に気付いた義兄がそう聞いてきた。

「ば…そんなんじゃ…!」

 慌てて否定する俺をニヤニヤしながら見ている。

「…ただ…なんか目が離せないって言うか…。」
「そうか……。」

 彼女を横目で見ながら言った俺には、義兄がどんな表情をしていたのかわからなかった。

 △▽△▽△▽△▽△▽△

 かなり前を走っていた筈の乗り合い馬車に向かって土煙を上げながら近付いている一団があるのを護衛が知らせに来た。

「カシム!!」

 嫌な予感に、義兄の名を呼んだ。

「四、五人連れて行け!!」

 心得たように言う義兄に頷き返すと馬に飛び乗り護衛達を引き連れて駆け出した。

 間に合ってくれ!!

 祈るような思いで馬を走らせる。

 俺達が乗り合い馬車の近くまで行った時には、賊達の走り去る後ろ姿が見えるだけだった。
 
 心臓がドクドクと嫌な音を立てる。

 その場に残された乗客達を一人一人見ていき彼女を見付けた時には安堵の息を大きく吐き出した。

 後日、自分達の隊商と一緒に来ないか彼女に尋ねた。
 殆ど衝動的に口をついて出た言葉に自分でも驚いたが、ここで彼女と離れてしまうのは嫌だったのだと思う。

 彼女は俺の話に納得した部分が有ったのか承諾してくれた。

「俺はラファティ。よろしくな。」

 そう言って笑うと、緊張しながらも笑顔で「よろしくお願いします。」と言う彼女。

 まだ隊商の旅は終わっていない。それにこの先どうなるのかなんてわからない。

 でも、彼女と一緒に幸せになりたいと思ったんだ。
 
 彼女の気持ちが俺に向いたら言おうと思っている。

「二人で幸せにならないか?」



  ─ 完 ─

 ~~~~~~~~

 あけましておめでとうございます🎍
 いつも稚拙な文章ですが、お読みいただきありがとうございます!

 今年もよろしくお願い致します
 
 一旦、ここで完結です。

 この先も話は続きますが書けたら、後日談として更新しますのでその時はよろしくお願いします。

 お気に入り、しおり、エール等して下さった方々、本当にありがとうございます!!

 
 
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感想 2

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みんなの感想(2件)

nico
2023.10.09 nico

主人公好きだったんですね、夫。
でももともとが持参金目当ての詐欺婚繰り返してた家なんですね。
幼馴染みは持参金なしおk?
これは母親とグルで薬盛られたのかな、まぁその前にも関係持ってるし…
探し出しても夫、家を捨てられないならどうにもならないよね。

雫喰 B
2023.10.11 雫喰 B

nico様、いつもありがとうございます。
あと、返事が遅れてすみません
(゜-゜*;)オロオロ(;*゜-゜)

 クズ夫、本気で嫁に惚れてたみたいです。
 でも、打ち明けてやり直そうとしなかったのでその程度だったのかもですね(^◇^;)

 クズ夫が一服盛られた件は、後釜嫁とクズ夫の母親は共犯ではないです。
 後にクズ夫の母親が知ったらどうなるんでしょうか(ΦωΦ)キラ~ン✨

 次話もお付き合い(お読み)いただけたら嬉しいです!

解除
nico
2023.10.07 nico

結婚して何年目なのかな。
主人公の持参金目当ての結婚かな。
でも籍も入ってないなら詐欺ですよね。
出るとこに出て返してもらえないのかな。
夫も二股、口の上手い男だったんですね。
でも幼馴染み?に使いまわしのお古の指輪…
ケチ臭い一家だなぁ

雫喰 B
2023.10.07 雫喰 B

nico様、こちらでも感想をいただきありがとうございます😆

 nico様ご指摘の“ケチ臭い”、だからこその“叩き出し”でしょうか……。

 短編なので詳しくは書かなかったのですが、婚家は地元では名の知れた家です。(色んな意味で)、主人公の家はあまり裕福ではない家(一般家庭とお考え下さい)です。
 なので、出る所に出るにしても主人公の家は立場的には弱いという訳で泣き寝入りに……。

 モヤモヤ、イライラな展開が続く事になります。
 ストレスが溜まると思われます。

 最後までお付き合い(お読み)いただけたら嬉しいです。(^◇^;)

解除

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