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── 繰り返しの章 ──
5.
しおりを挟むアリスに惨い死に方をさせていたのが、ローゼだと分かってから、何度巻き戻っただろうか。
なのに、それを止める事が出来ない。
何故だ!
何処で運命を変えれば、この巻き戻りが終わるんだ!
そもそも、アリスとローゼの因縁が発生したのが何時なのか?それが分からない。
何時、何処で、何があってアリスの事を憎悪するようになったのか……?
それさえ分かれば……。
ふと、初めてローゼを見た場末の酒場で、酔っ払った彼女が言っていた話しを思い出した。
“国王の生誕祭なんて人攫いの書き入れ時……。”
そして、隣に座って飲んでいた男の言葉……。
“親と逸れて人攫いにあったらしいぜ”
俺の頭に一つの考えが浮かぶ。
まさか……まさか、そんな……!!
だが、ローゼは既に人攫いにあった後だった。
…ならば、その後のローゼの人生をかえれば……?
やってみる価値はあると思いたい。
それからは、必死でローゼを探して回った。
そして、盛り場から少し離れた場所にある娼館でローゼを見つけた。
だが、見つけた彼女は俺が初めて見た時同様、すっかりやさぐれてしまって、世の中を…人を恨んで憎んで…そうする事で何とか生きている状態だった。
目は虚ろで、光を無くし、何もかも諦めてしまったそんな目をしていた。
そんな彼女を見た俺は、あまりの衝撃に打ちのめされた。
あの時、あの生誕祭でのほんの少しのズレが、彼女をここまで変えてしまっているとは思ってもみなかった……。
彼女を探す時、俺は真っ先に彼女の生家に向かった。
だが、彼女は既に人攫いに遭い、行方不明になっていた。
その彼女の不幸の始まりこそ、エリーが俺と出会った生誕祭の日だったのだ。
そして、ローゼが親と逸れたのは、エリーが人攫いに遭いそうになった事が原因だった。
あの時の野次馬の中に、ローゼの両親と妹と弟がいたのだ。
何か騒ぎが起こっているのに気づいたローゼの両親が、まだ幼い妹と弟をそれぞれ抱っこして、その騒ぎを見に行った。
ローゼが離れず付いてきていると思い込んで……。
逸れたローゼは両親を探しに路地に入ってしまい、不運にもエリーとアリシアを攫うのに失敗して逃げてきた男達に攫われてしまったのだった。
誰を責める事も出来ない……。
勿論、ローゼが離れず付いてきていると思い込んだ両親に責任が無いとは言わない。
だが、何年も娘を探し回った彼女の両親は窶れ果て、家の中は火が消えたかのように暗く、重い空気が満ちていた。
それを見て、安易に責める事は出来なかった。
幼い妹と弟の面倒をよく見ていた、いい姉だったと両親は涙ながらに語っていた。
そんな彼女が、これほどまでに変わり果てている。
その間に何が有ったか……。
想像を絶する事が次から次に彼女に襲い掛かったのだろう。
そして……それらの恨み辛みが全てエリーに向けられた。
……だけでは無かった。
そう、ほんの少しのズレが……エリーの有り得ない結末に繋がっていた。
「あの女が、私の幸せを全て奪って行ったのよ!!」
同じ日、ほんの少しズレた時間…ほんの少しズレた場所……。
たったそれだけの事で、ここまで違う人生……。
それまでは、人を、世間を、この世界を憎んで、憎んで、憎んで……、恨んで、恨んで、恨んで……そうする事で何とか生きていた彼女が、結婚が決まって幸せいっぱいの笑顔を見せるエリーを見た瞬間、それら憎悪の全てが一点に全て向かった。
何処にも救いなど無い中で、まるで呪いのように、その事だけがローゼの全てになった。
そして、俺は全てを捨てる事を決意した。
エリーを幸せにするだけでは駄目だったのか……。
今でもその答えは出ていない。
だが…それしか思いつかなかった…。
ローゼには、今以上に過酷な未来が待っている。
ローゼがエリーに惨い死に方をさせると分かって以降の巻き戻りで、彼女はこの後、裕福な貴族の妾となるのだが、その男は嗜虐趣味の男で、いっそ殺してくれと言いたくなるような目に遭わされるのだ。
そして……エリー同様、惨い死に方をする。
ローゼはもう既に、その男に目を付けられている。
エリー。サヨナラだ。愛していた。いや、今も愛している。
だけど……こうするしか……。
俺はローゼに言った。
「俺と一緒に逃げないか?そして……二人で幸せになろう。」
俺の顔を見上げた彼女は、一瞬意味が分からないといった表情をしたが、虚ろな目に徐々に光が宿っていく。
「……ほん…とに…?」
俺は強く頷くと、機会を窺った。
まるでそうする事が正しかったかのように、恐ろしいほど上手く逃げ出せた。
~~~~~~~
二人で手に手を取って逃げ出してから、三年が経った。
俺達は夫婦として生活していた。
勿論、逃亡者である二人だから小さな教会で、偽名で二人だけの結婚式を挙げた。
司教の前で誓うだけのものだったが、ローゼは嬉しそうだった。
逃げた先で辿り着いた小さな村で、貧しいがそれなりに幸せだったと思う。
エリーも結婚して子供も生まれたらしく、幸せそうだと村に来た商人から聞いた。
どうやら、巻き戻りもこれで終わるのだと、何となく思っていたある日、俺は終わりを覚悟した。
家に急いで帰ると、ローゼに逃げるように言った。
彼女は俺と一緒にいると言ったが、何とか説得して逃がした。
その日の夕刻、追っ手がやって来た。
あの男は諦めていなかった。
これも運命の強制力のような物かと思ったが、何故かこれを乗り切ったらローゼは大丈夫だと思った。
多勢に無勢、時間稼ぎにもならなかったかもしれないが、あの男に致命傷を負わせる事は出来たと思う。
いや、そう信じたい。
だが、俺もここまでのようだ。
薄れゆく意識の中、浮かんだのは一番最初の人生の時の、結婚式で幸せいっぱいに微笑むエリーの顔だった。
やっと幸せに出来た。
エリー……。
そして……すまない。ローゼ。
心の底から何度も巻き戻るほど、女として愛する事は出来なかったけど、家族としては愛していた。
ローゼ…君は…幸せだったか……?
あぁ…エリーが…呼んで……。
女として、ローゼを愛する事は出来なかった。
死ぬまで愛していたのはエリーで……。
最後に思い浮かんだ顔は、やっぱりエリーで……。
最低だな……俺って……。
俺の意識があったのはそこまでだった。
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初々しければ初々しい程、目が滲むんですが先生( ` ; ω ; ´ )
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ありがとうございました🐾
壁│д゚)
既に泣きそうな予感がしております。
続きをお待ちしております( ` ; ω ; ´ )
感想第一号、ありがとうございます。
o(^-^o)(o^-^)o
“タグでのネタバレ&切ない…かも?”
という、ハードルを上げまくった中、無事に完結できるか… (((^^;)))
兎に角、完結目指して頑張ります。