9 / 9
── 繰り返しの章 ──
5.
しおりを挟むアリスに惨い死に方をさせていたのが、ローゼだと分かってから、何度巻き戻っただろうか。
なのに、それを止める事が出来ない。
何故だ!
何処で運命を変えれば、この巻き戻りが終わるんだ!
そもそも、アリスとローゼの因縁が発生したのが何時なのか?それが分からない。
何時、何処で、何があってアリスの事を憎悪するようになったのか……?
それさえ分かれば……。
ふと、初めてローゼを見た場末の酒場で、酔っ払った彼女が言っていた話しを思い出した。
“国王の生誕祭なんて人攫いの書き入れ時……。”
そして、隣に座って飲んでいた男の言葉……。
“親と逸れて人攫いにあったらしいぜ”
俺の頭に一つの考えが浮かぶ。
まさか……まさか、そんな……!!
だが、ローゼは既に人攫いにあった後だった。
…ならば、その後のローゼの人生をかえれば……?
やってみる価値はあると思いたい。
それからは、必死でローゼを探して回った。
そして、盛り場から少し離れた場所にある娼館でローゼを見つけた。
だが、見つけた彼女は俺が初めて見た時同様、すっかりやさぐれてしまって、世の中を…人を恨んで憎んで…そうする事で何とか生きている状態だった。
目は虚ろで、光を無くし、何もかも諦めてしまったそんな目をしていた。
そんな彼女を見た俺は、あまりの衝撃に打ちのめされた。
あの時、あの生誕祭でのほんの少しのズレが、彼女をここまで変えてしまっているとは思ってもみなかった……。
彼女を探す時、俺は真っ先に彼女の生家に向かった。
だが、彼女は既に人攫いに遭い、行方不明になっていた。
その彼女の不幸の始まりこそ、エリーが俺と出会った生誕祭の日だったのだ。
そして、ローゼが親と逸れたのは、エリーが人攫いに遭いそうになった事が原因だった。
あの時の野次馬の中に、ローゼの両親と妹と弟がいたのだ。
何か騒ぎが起こっているのに気づいたローゼの両親が、まだ幼い妹と弟をそれぞれ抱っこして、その騒ぎを見に行った。
ローゼが離れず付いてきていると思い込んで……。
逸れたローゼは両親を探しに路地に入ってしまい、不運にもエリーとアリシアを攫うのに失敗して逃げてきた男達に攫われてしまったのだった。
誰を責める事も出来ない……。
勿論、ローゼが離れず付いてきていると思い込んだ両親に責任が無いとは言わない。
だが、何年も娘を探し回った彼女の両親は窶れ果て、家の中は火が消えたかのように暗く、重い空気が満ちていた。
それを見て、安易に責める事は出来なかった。
幼い妹と弟の面倒をよく見ていた、いい姉だったと両親は涙ながらに語っていた。
そんな彼女が、これほどまでに変わり果てている。
その間に何が有ったか……。
想像を絶する事が次から次に彼女に襲い掛かったのだろう。
そして……それらの恨み辛みが全てエリーに向けられた。
……だけでは無かった。
そう、ほんの少しのズレが……エリーの有り得ない結末に繋がっていた。
「あの女が、私の幸せを全て奪って行ったのよ!!」
同じ日、ほんの少しズレた時間…ほんの少しズレた場所……。
たったそれだけの事で、ここまで違う人生……。
それまでは、人を、世間を、この世界を憎んで、憎んで、憎んで……、恨んで、恨んで、恨んで……そうする事で何とか生きていた彼女が、結婚が決まって幸せいっぱいの笑顔を見せるエリーを見た瞬間、それら憎悪の全てが一点に全て向かった。
何処にも救いなど無い中で、まるで呪いのように、その事だけがローゼの全てになった。
そして、俺は全てを捨てる事を決意した。
エリーを幸せにするだけでは駄目だったのか……。
今でもその答えは出ていない。
だが…それしか思いつかなかった…。
ローゼには、今以上に過酷な未来が待っている。
ローゼがエリーに惨い死に方をさせると分かって以降の巻き戻りで、彼女はこの後、裕福な貴族の妾となるのだが、その男は嗜虐趣味の男で、いっそ殺してくれと言いたくなるような目に遭わされるのだ。
そして……エリー同様、惨い死に方をする。
ローゼはもう既に、その男に目を付けられている。
エリー。サヨナラだ。愛していた。いや、今も愛している。
だけど……こうするしか……。
俺はローゼに言った。
「俺と一緒に逃げないか?そして……二人で幸せになろう。」
俺の顔を見上げた彼女は、一瞬意味が分からないといった表情をしたが、虚ろな目に徐々に光が宿っていく。
「……ほん…とに…?」
俺は強く頷くと、機会を窺った。
まるでそうする事が正しかったかのように、恐ろしいほど上手く逃げ出せた。
~~~~~~~
二人で手に手を取って逃げ出してから、三年が経った。
俺達は夫婦として生活していた。
勿論、逃亡者である二人だから小さな教会で、偽名で二人だけの結婚式を挙げた。
司教の前で誓うだけのものだったが、ローゼは嬉しそうだった。
逃げた先で辿り着いた小さな村で、貧しいがそれなりに幸せだったと思う。
エリーも結婚して子供も生まれたらしく、幸せそうだと村に来た商人から聞いた。
どうやら、巻き戻りもこれで終わるのだと、何となく思っていたある日、俺は終わりを覚悟した。
家に急いで帰ると、ローゼに逃げるように言った。
彼女は俺と一緒にいると言ったが、何とか説得して逃がした。
その日の夕刻、追っ手がやって来た。
あの男は諦めていなかった。
これも運命の強制力のような物かと思ったが、何故かこれを乗り切ったらローゼは大丈夫だと思った。
多勢に無勢、時間稼ぎにもならなかったかもしれないが、あの男に致命傷を負わせる事は出来たと思う。
いや、そう信じたい。
だが、俺もここまでのようだ。
薄れゆく意識の中、浮かんだのは一番最初の人生の時の、結婚式で幸せいっぱいに微笑むエリーの顔だった。
やっと幸せに出来た。
エリー……。
そして……すまない。ローゼ。
心の底から何度も巻き戻るほど、女として愛する事は出来なかったけど、家族としては愛していた。
ローゼ…君は…幸せだったか……?
あぁ…エリーが…呼んで……。
女として、ローゼを愛する事は出来なかった。
死ぬまで愛していたのはエリーで……。
最後に思い浮かんだ顔は、やっぱりエリーで……。
最低だな……俺って……。
俺の意識があったのはそこまでだった。
0
お気に入りに追加
17
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
いやん純情(*´艸`)
初々しい好きです。
めちゃくちゃがんばれ。もうプロポーズでも良いと思うの。がんばれ(*ノ´□`)ノ
初々しければ初々しい程、目が滲むんですが先生( ` ; ω ; ´ )
まさかの三連投、ありがとうございます!読んで頂けて嬉しいです、。🎵😁🎵
他の物語の方の更新も頑張ります。
本当にありがとうございました。( ^∀^)
球根( ゚д゚)
笑った。
新しい発想w
そしてプロポーズと分かると卒倒するなんて……免疫低い(*´艸`)
しかし。
このご令嬢が……毎回( ` ; ω ; ´ )
2話目で既に涙目の人←
連投、ありがとうございます。(〃⌒ー⌒〃)ゞ
“球根”……ベタかな?と思ったりしたのですが…。笑って頂けて良かったです。
この後の流れとしては、過去→現在→完結 となります。
不定期更新で、話の流れも遅いですが、 完結まで、頑張ります!
ありがとうございました🐾
壁│д゚)
既に泣きそうな予感がしております。
続きをお待ちしております( ` ; ω ; ´ )
感想第一号、ありがとうございます。
o(^-^o)(o^-^)o
“タグでのネタバレ&切ない…かも?”
という、ハードルを上げまくった中、無事に完結できるか… (((^^;)))
兎に角、完結目指して頑張ります。