もう、嫌だ!!

雫喰 B

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── 序章 ──

2.

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    前半・ヒロイン視点、後半・ヒーロー視点です。


~~~~~


     眼が覚めた。目の前に見えるのは見慣れたベッドの天蓋。
    寝台の上に体を起こした時、手に何か冷たい物が…。
    
『 水 …?』

    口を触ってみる。
    涎ではない。

    鼻の下を触ってみる。
    鼻水ではない。

    そして、目を触ったら濡れていた。
    私は泣いていたの?!

    驚いたけれど、何故泣いたのかわからない。目覚めるまで見ていた夢の所為だと思った。
でも、どんな夢を見ていたのかもわからない。

    それ以上考えていてもわからなくて、そのままベッドの上でぼんやりして座っていたら、扉がノックされた後、侍女が入ってきた。

「お嬢様、おはようございます。」

    ベッドの上から、寝惚け眼で振り返る。

「まあまあ、珍しい事もあるもんですね。お嬢様がこんな朝早くに起きているなんて。槍でも降って来るんじゃないかしら。」

    私の乳母だったソフィアの娘のミラは、幼い頃から一緒に育った姉のような存在で、今では(将来、私付きの)侍女見習いになった。

    お小言が多いのが玉に瑕だけど。

    そんな彼女に起こされる、いつもと同じ朝。
    の筈が、何時もより早起きだっただけでなく、何故か涙を流していた。

    おまけに頭まで痛い。

    何時もなら、お小言を言われれば頬を膨らませ、言い返す私が何も言わないので、カーテンを開けて部屋が明るくなった事で、私の顔色が悪いと気付いたらしい。

「まぁ、お嬢様!お顔の色が……。」

    そう言って、私の額に手を当てる。

「熱が有るようなので、旦那様と奥様にお知らせして、お医者様の手配をして頂きますね。だから、お嬢様は寝ていて下さいませ。」

    そして、バタバタと部屋を出ていく。

    熱がある所為か、頭がボーっとする。

    ただ、夢の中で何か悲しい事があったような気がする。
    けれど、それ以上何も考えられなかった。再び眠くなり、その眠気に身を委ねたからだった。
    


~~~~~



「………ま……っちゃ………坊っちゃま!」

    誰かが僕を呼ぶ声に眼が覚めた。でも、何があったのか全くわからなかった。

    眼を開けたものの、まだぼんやりしている僕の眼に映ったのは、乳兄弟で今は侍従見習いになったアランだった。

    心配そうに見ているアランが目に入った。

「かなり、魘されておいででしたが、悪い夢でも見ていたんですか?」
「…悪い…夢……?」

    ハッとなった。そうだった。

「どうも、そうらしい……どんな夢か覚えてないけど、悪い夢だった…と思う。」
「そうでしたか。ならば、眼が覚めてよろしゅう御座いました。」
「あぁ…。」

    嘘だ。本当は覚えている。
    もう何度目かはわからないが、彼女が死んだ時の記憶。

    そう。俺は何度も繰り返し巻き戻っている。何故、何度も繰り返しているのかは分からない。

    分かっているのは、いつも俺は間に合わず、彼女が死んでしまう事。
    恐らく、俺は彼女の後を追うように死んで巻き戻っているのだろう。

    大きく息を吐き出すと、ベッドから出て、顔を洗いに洗面所へ行った。

    眼の前の鏡を見る。まだ幼さの残る顔、毎日鍛えていても華奢な体格。
    
    せめてあと5年早く産まれていれば…。

    そんな事を考えても無駄な事は分かっている。

    考えられる事は全て考えた。やれる事も思い付く限りは全てやった。

    でも、また駄目だった。この腕に残った彼女の重み。傷口から流れ出る血。
    
    それら全てが、眼を覚ます前、ついさっきまで夢で見ていた過去の出来事だ。だが、現実にあった出来事だった。

    どうすればいい?どうすれば君は死なない?どうすれば……どうすれば……どうすれば!!

    分かっている。答えてくれる者などいないと……。

    だけど、失いたくない。君を…。

    何度も繰り返す中で、何も収穫が無い訳じゃない。
    繰り返す度に、君の寿命は伸びている。でも、君は死ぬんだ。いつも…。

    何故…何故なんだ!

    もう何度目かもわからない。
    いつまで続くのかも…。

    もう、嫌だ!!

     死んだ君を何度も見る等、堪えられない。なのに、戻るのだ。

    君と出会う前まで。

    そして、死んでしまった君を抱きしめ、自分の無力さに泣く事しか出来ないのに!!

    


    
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