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tu fui, ego eris
viginti tres
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天弥は極上の笑みを作り胡桃沢へ向けた。
「コモちゃんは、望むところへ行けると思うのですか?」
少し小首を傾げながら尋ねる。
「もちろんじゃ! 長年の夢がやっと叶うのかと思うと、ワクワクするのぉ」
天弥は軽くため息を吐くと斎を見る。
「先生、帰りましょう」
斎も胡桃沢を見つめた。
「あぁ、そうだな……」
返事を聞くと同時に、天弥は斎へ向かってある来出す。
「ちょー待てや!」
サイラスが突然、天弥へ向かい、その襟首を掴む。掴めたとしても、すぐに逃げ出されるのは分かっていたが、それでもそうせずにはいられなかった。
「頼む……俺をハズミのところに……」
斎がすぐに駆け寄り、サイラスの腕から天弥の身体を奪う。
「ハズミがどんな奴かは知っとる……。せやけど、俺には……」
天弥は、少し考え込むような表情を浮かべ、サイラスを見た。
「条件がありますが……それでもよければ……」
サイラスは、斎の腕の中に収まっている天弥へ救いを与えられたような表情と視線を向ける。
「貴方なら、母たちをなんとか出来るでしょう?」
「それはそうやけど……。せやかて、もう一人が元の身体に戻れるのかどうかは分からん……」
「それは、僕にも分かりません」
今は分からないが、この先にもしかすると解決があるかもしれなかった。
「母たちを頼めるのら、望みは叶えます。ただし……」
「十年後だろうと、二十年後だろうとかまへん」
再び、希望を光を手に入れた。
「納得していただけるのなら、僕は構いません。それに、時間の流れが違うようですから、十年後に行っても、向こうでは一日後かもしれませんしね」
そう言いながらも、あの祖父なら猫と共にすぐにでも戻ってきそうな気がした。軽く頭を振り、その考えを追い出す。
「あぁ。おおきにな。後のことは任せてくれても大丈夫や」
「お願いします」
天弥は軽く頭を下げた。っそして斎の腕が緩むと、そのまま玄関へ向かう。斎はその後に続いた。
「天弥くん。話が終わったのなら、次はわしじゃ」
期待に満ちた瞳を向ける。
「教授……幻夢境は諦めた方が良いのでは?」
斎が胡桃沢の期待を砕くように告げる。
「なぜじゃ? わしは、天弥くんにも由香子くんにもなにもしとらんよ? すべて羽角がやったことじゃろ?」
確かに、なにもしていないのだろう。羽角に本は渡したが、あの本は普通の人間が簡単に扱えるとは思えないものだ。そういう意味では、たしかに何もしていないことになる。
「羽角は望みを叶えられたのに、なぜわしはダメなんじゃ?」
表情が縋り付くような必死なものへと変わっている。
「そういえば、なぜ天弥の祖父は教授に協力をしたのですか?」
自分の娘を犠牲にし、更に孫までだ。そこまでの執念を向ける理由はなんだったのか分からなかった。
「コモちゃんは、望むところへ行けると思うのですか?」
少し小首を傾げながら尋ねる。
「もちろんじゃ! 長年の夢がやっと叶うのかと思うと、ワクワクするのぉ」
天弥は軽くため息を吐くと斎を見る。
「先生、帰りましょう」
斎も胡桃沢を見つめた。
「あぁ、そうだな……」
返事を聞くと同時に、天弥は斎へ向かってある来出す。
「ちょー待てや!」
サイラスが突然、天弥へ向かい、その襟首を掴む。掴めたとしても、すぐに逃げ出されるのは分かっていたが、それでもそうせずにはいられなかった。
「頼む……俺をハズミのところに……」
斎がすぐに駆け寄り、サイラスの腕から天弥の身体を奪う。
「ハズミがどんな奴かは知っとる……。せやけど、俺には……」
天弥は、少し考え込むような表情を浮かべ、サイラスを見た。
「条件がありますが……それでもよければ……」
サイラスは、斎の腕の中に収まっている天弥へ救いを与えられたような表情と視線を向ける。
「貴方なら、母たちをなんとか出来るでしょう?」
「それはそうやけど……。せやかて、もう一人が元の身体に戻れるのかどうかは分からん……」
「それは、僕にも分かりません」
今は分からないが、この先にもしかすると解決があるかもしれなかった。
「母たちを頼めるのら、望みは叶えます。ただし……」
「十年後だろうと、二十年後だろうとかまへん」
再び、希望を光を手に入れた。
「納得していただけるのなら、僕は構いません。それに、時間の流れが違うようですから、十年後に行っても、向こうでは一日後かもしれませんしね」
そう言いながらも、あの祖父なら猫と共にすぐにでも戻ってきそうな気がした。軽く頭を振り、その考えを追い出す。
「あぁ。おおきにな。後のことは任せてくれても大丈夫や」
「お願いします」
天弥は軽く頭を下げた。っそして斎の腕が緩むと、そのまま玄関へ向かう。斎はその後に続いた。
「天弥くん。話が終わったのなら、次はわしじゃ」
期待に満ちた瞳を向ける。
「教授……幻夢境は諦めた方が良いのでは?」
斎が胡桃沢の期待を砕くように告げる。
「なぜじゃ? わしは、天弥くんにも由香子くんにもなにもしとらんよ? すべて羽角がやったことじゃろ?」
確かに、なにもしていないのだろう。羽角に本は渡したが、あの本は普通の人間が簡単に扱えるとは思えないものだ。そういう意味では、たしかに何もしていないことになる。
「羽角は望みを叶えられたのに、なぜわしはダメなんじゃ?」
表情が縋り付くような必死なものへと変わっている。
「そういえば、なぜ天弥の祖父は教授に協力をしたのですか?」
自分の娘を犠牲にし、更に孫までだ。そこまでの執念を向ける理由はなんだったのか分からなかった。
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