apocalypsis

さくら

文字の大きさ
上 下
208 / 236
alea jacta est

viginti septem

しおりを挟む
「俺が触っていなければいいのか?」
 天弥が頷く。斎は手にしたタバコの箱を下に置こうとしたが、この強風ではすぐにでも吹き飛ばされてしまうと思い直し、今度はジッポを手にする。これなら、タバコよりは持ちこたえそうだと思ったのだ。ゆっくりと手にしたジッポを下に置いた。タバコよりは重みがあるが、それでも強風に煽られ置いた場所からずるずると移動をしていく。それを斎は目で追っていたが、急に闇に包まれたと思うとその場から消えてしまった。
「天弥?」
 成功したのかと視線を向けると、天弥が胸の前で合わせていた両手を差し出した。ゆっくりと開かれた手のひらには、斎のジッポがあった。
「たぶん、壊れてないと思います……」
 差し出されたジッポを受け取り見つめる。壊れていたとしても構わなかったのだが、きれいな状態で元通りの姿のままであることを確認する。
「座標移動……」
 胡桃沢も、受け取ったジッポを見つめる。
「そのようじゃのぉ」
 揃って天弥を見る。
「それで、どちらにするんじゃ?」
 斎は、狂喜に湧く人の輪を見つめる。人命優先と思えば、まずはこれらの人々を移動させるのが先かと考える。しばらく、神々の決着は付かないだろうと思える様子なのだ。だが、小さな物で成功したとは言え、人に対してはどうなのか。また、天弥はどれだけの人を移動させることが出来るのかが分からない。もし間違えれば、多くの人を犠牲にすることになるのだ。
「あれ? 天弥やん。どないしたんや?」
 聞き慣れた声が聞こえ、三人は揃って声がした方へ視線を向けた。
「サイラスくん!」
 嬉しそうに天弥が現れた人物の名を呼ぶ。
「こんな所でなにしとんのや?」
「あその人たちを避難させたいんだが……」
 視線を移した斎に釣られ、サイラスも同じく視線を移す。
「あーあいつらは、絶対にここから動かへんで」
 天弥と胡桃沢も視線を移す。吹き飛ばされながらも必死でその場に留まろうと戻ってくる。何度もそのようなことを繰り返している様子を見て、斎はあることに気がついた。
「なぜ、こことあそこでは風の強さが違うんだ?」
「そんなん、天弥がおるからやろ」
 斎が天弥を見る。どれだけの秘密と謎があるのか。今のこの状況になっても斎だけが何も知らないに等しいのだろうと感じた。
「そういえば、頼んだことは大丈夫なのかのぉ?」
「あーまぁ、大丈夫なんとちゃう? ここに残るって煩かったから、ちょっと意識を無くしてもろたし……」
「それは手間をかけさせたのぉ」
 天弥の義理の母親のことだろうとすぐに予想が付いた。
「信者なんてみんな放っておけばええのに」
「そうもいかんくてのぉ……」
 サイラスは軽くため息を吐いたのち、胡桃沢を見る。
「そんで、ハズミはどこや?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...