205 / 236
alea jacta est
viginti quattuor
しおりを挟む
「そうじゃ」
なら、天弥は何だというのか。それが分からない。胡桃沢が斎を見る。その様子から、まだ全てを知っている訳では無いことを知る。天弥が話していないのだとしたら、これ以上、この話題に触れるのは止めた方が良いと判断した。
「あ!」
天弥が空を仰ぎ見る。道標を辿るように、強大な存在が降りてくる。
「あれがハスターかのぉ」
興味深げに胡桃沢が足を踏み出し近づこうとした。人々の輪から、歓喜の声があがる。斎自身も、かなり興味を惹かれ、もっと近くで観察をしたいという欲求に駆られる。だが、天弥が抱きつきその衝動を止めた。
「先生……もう一匹? 来ます」
神の数え方が間違っていると思うが、今はそれを問い質している暇は無かった。
「どっちだ?」
天弥は、東京湾の出口方向を指差す。それと同時に、舞い降りてきていた神が動きを止めた。しばし、周囲を確認するような様子が伺えたのち、天弥が指差す方へと移動を始める。それを見た輪を形成する人々から困惑が湧き上がる。
「なんじゃ?」
「天弥が呼んだ神が来ました」
周囲と同じく困惑する胡桃沢に答える。
「呼ぶところを見たかったのぉ……」
何かを要求するような視線を、胡桃沢は天弥へ向ける。
「特に、これといったのは無かったですよ」
斎自身、なにか特別な演出みたいなものがあると思っていた。なによりも、呼べばすぐに来るものだと思っていたから、拍子抜けした。まさか、海の中を自力で移動するとは思っていなかったのだ。距離を考えれば。かなりのスピードではあるのだが。
「それでも、その場に居合わせたかったのぉ」
おそらく、これが最後の召喚になる。斎はさせる気が無く、もう道標になる媒体も無い。
「なら、なぜ姿を消したのですか?」
「野暮用がのぉ……」
野暮用が何かは分からないが、間違いなく望みを叶えるためのことなのだろう。訪ねても答えてはくれないだろうと、斎は問い詰めることをやめ、風の神が向かった方を見る。海中をなにか巨大なものが移動しているからなのか、波が高くなり荒れている。
「ハスター相手なら、クトゥルーじゃな」
「はい」
いきなり、強風が吹き抜けた。まるで、存在を敵対する相手に誇示しているように思える。
「先生……」
「どうした?」
手にゃが考え込むように目を伏せる。
「先生とコモちゃんは守れるけど、あそこにいる人たちは……」
流石に人数が多すぎるのだ。天弥自身は影響を受けないとしても、他の者までは流石に無理があるのだろう。気にするなとは言えなかった。斎は教団の者たちを見る。今の状況に不安や嘆きなどは見られず、むしろ狂気と歓喜に支配されているように見えた。あの集団をどうすれば良いのか斎も分からなかった。危険が迫っているから逃げるように促してもあの場所から動くことは無いだろうと思えた。
なら、天弥は何だというのか。それが分からない。胡桃沢が斎を見る。その様子から、まだ全てを知っている訳では無いことを知る。天弥が話していないのだとしたら、これ以上、この話題に触れるのは止めた方が良いと判断した。
「あ!」
天弥が空を仰ぎ見る。道標を辿るように、強大な存在が降りてくる。
「あれがハスターかのぉ」
興味深げに胡桃沢が足を踏み出し近づこうとした。人々の輪から、歓喜の声があがる。斎自身も、かなり興味を惹かれ、もっと近くで観察をしたいという欲求に駆られる。だが、天弥が抱きつきその衝動を止めた。
「先生……もう一匹? 来ます」
神の数え方が間違っていると思うが、今はそれを問い質している暇は無かった。
「どっちだ?」
天弥は、東京湾の出口方向を指差す。それと同時に、舞い降りてきていた神が動きを止めた。しばし、周囲を確認するような様子が伺えたのち、天弥が指差す方へと移動を始める。それを見た輪を形成する人々から困惑が湧き上がる。
「なんじゃ?」
「天弥が呼んだ神が来ました」
周囲と同じく困惑する胡桃沢に答える。
「呼ぶところを見たかったのぉ……」
何かを要求するような視線を、胡桃沢は天弥へ向ける。
「特に、これといったのは無かったですよ」
斎自身、なにか特別な演出みたいなものがあると思っていた。なによりも、呼べばすぐに来るものだと思っていたから、拍子抜けした。まさか、海の中を自力で移動するとは思っていなかったのだ。距離を考えれば。かなりのスピードではあるのだが。
「それでも、その場に居合わせたかったのぉ」
おそらく、これが最後の召喚になる。斎はさせる気が無く、もう道標になる媒体も無い。
「なら、なぜ姿を消したのですか?」
「野暮用がのぉ……」
野暮用が何かは分からないが、間違いなく望みを叶えるためのことなのだろう。訪ねても答えてはくれないだろうと、斎は問い詰めることをやめ、風の神が向かった方を見る。海中をなにか巨大なものが移動しているからなのか、波が高くなり荒れている。
「ハスター相手なら、クトゥルーじゃな」
「はい」
いきなり、強風が吹き抜けた。まるで、存在を敵対する相手に誇示しているように思える。
「先生……」
「どうした?」
手にゃが考え込むように目を伏せる。
「先生とコモちゃんは守れるけど、あそこにいる人たちは……」
流石に人数が多すぎるのだ。天弥自身は影響を受けないとしても、他の者までは流石に無理があるのだろう。気にするなとは言えなかった。斎は教団の者たちを見る。今の状況に不安や嘆きなどは見られず、むしろ狂気と歓喜に支配されているように見えた。あの集団をどうすれば良いのか斎も分からなかった。危険が迫っているから逃げるように促してもあの場所から動くことは無いだろうと思えた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―
三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】
明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。
維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。
密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。
武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。
※エブリスタでも連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる