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alea jacta est
viginti duo
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「それは、どういうことだ?」
天弥が話してくれたことが全てではないことは分かっていたが、まだ考え対処できることばかりだったため、軽く考えていた感じがあったことを深く悔やむ。天弥から全て聞いておくべきだった。そうすれば、このような不意打ちは無かった。
「えっと……それは……」
天弥は困ったように言葉が詰まる。
「由香子。お前が居なければ長くは持たないというのに、なぜ固執するのだ?」
キッとした強い視線を天弥は羽角へ向ける。
「だって天弥は!」
実感などなにもない。それでも、関係性を知ったときから犠牲にするという選択肢は無かった。そのため、二度と出てこないようにとしたのだが、なぜかまた表に出てきている。
「天弥は……」
すでに斎は知っているのだが、それでも続きを言うことが出来なかった。
「状況は分からないが、天弥は嫌がっている。諦めてくれないか?」
助け舟を出すように斎は背後の天弥を庇う。
「先生……」
天弥を守るように目前に立ちはだかっている斎の顔を見上げた。
「お父さん……? ごめんなさい」
天弥の言葉が言い終わると同時に、黒い闇が二人を包み込む。羽角が気がついたときには闇が収束し、二人の姿が消えた。
一瞬前までは、たしかに羽角恭一郎が目の前に居た。まるで、まばたきをする瞬間にかき消えたように、その姿が無くなった。
「天弥……?」
斎は、背中にすがりついている天弥に視線と疑問を投げかける。
「あ、海ほたるからは出ていません」
「そうか」
理由を理解した斎は、前方へ視線を戻す。そう広いところではないため、意図せずまた出くわすこともある。そう考えるとこのままジッとこの場所に居るのは不安だった。
「ここに居ても仕方がない。召喚場所を探しに行く」
すでに召喚はされている。そのために海の神を呼んだ。だが、それで片がつくとも思えなかった。
「はい」
歩き出した斎の後を付いていく。空を切り裂くような音が聞こえ、二人は揃って音がする方を見る。一筋の直線が見え、それは光ではなく、流動する空気があまりにも速度が早いため線を描いているように見えた。
「あっちだ」
斎が走り出し、天弥はその後を追う。その先には、大きく円を描くように配置されたような人々が見て取れた。その中心で何かが蠢いている。斎は足を止めると天弥の視界を塞ぐように抱きしめた。
「見るな」
時すでに遅く、人垣の円の中心にあるものを天弥も視界に写してしまっていた。
「あれは……?」
おそらくは、元人間だったものだと天弥は理解する。身体は胴から真っ二つにされ、周囲には血と肉片、内臓と思われるものが飛び散っていた。それを取り囲むように居る周囲の人間たちは、血しぶきを浴びながら恍惚とした表情を浮かべている。
天弥が話してくれたことが全てではないことは分かっていたが、まだ考え対処できることばかりだったため、軽く考えていた感じがあったことを深く悔やむ。天弥から全て聞いておくべきだった。そうすれば、このような不意打ちは無かった。
「えっと……それは……」
天弥は困ったように言葉が詰まる。
「由香子。お前が居なければ長くは持たないというのに、なぜ固執するのだ?」
キッとした強い視線を天弥は羽角へ向ける。
「だって天弥は!」
実感などなにもない。それでも、関係性を知ったときから犠牲にするという選択肢は無かった。そのため、二度と出てこないようにとしたのだが、なぜかまた表に出てきている。
「天弥は……」
すでに斎は知っているのだが、それでも続きを言うことが出来なかった。
「状況は分からないが、天弥は嫌がっている。諦めてくれないか?」
助け舟を出すように斎は背後の天弥を庇う。
「先生……」
天弥を守るように目前に立ちはだかっている斎の顔を見上げた。
「お父さん……? ごめんなさい」
天弥の言葉が言い終わると同時に、黒い闇が二人を包み込む。羽角が気がついたときには闇が収束し、二人の姿が消えた。
一瞬前までは、たしかに羽角恭一郎が目の前に居た。まるで、まばたきをする瞬間にかき消えたように、その姿が無くなった。
「天弥……?」
斎は、背中にすがりついている天弥に視線と疑問を投げかける。
「あ、海ほたるからは出ていません」
「そうか」
理由を理解した斎は、前方へ視線を戻す。そう広いところではないため、意図せずまた出くわすこともある。そう考えるとこのままジッとこの場所に居るのは不安だった。
「ここに居ても仕方がない。召喚場所を探しに行く」
すでに召喚はされている。そのために海の神を呼んだ。だが、それで片がつくとも思えなかった。
「はい」
歩き出した斎の後を付いていく。空を切り裂くような音が聞こえ、二人は揃って音がする方を見る。一筋の直線が見え、それは光ではなく、流動する空気があまりにも速度が早いため線を描いているように見えた。
「あっちだ」
斎が走り出し、天弥はその後を追う。その先には、大きく円を描くように配置されたような人々が見て取れた。その中心で何かが蠢いている。斎は足を止めると天弥の視界を塞ぐように抱きしめた。
「見るな」
時すでに遅く、人垣の円の中心にあるものを天弥も視界に写してしまっていた。
「あれは……?」
おそらくは、元人間だったものだと天弥は理解する。身体は胴から真っ二つにされ、周囲には血と肉片、内臓と思われるものが飛び散っていた。それを取り囲むように居る周囲の人間たちは、血しぶきを浴びながら恍惚とした表情を浮かべている。
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