apocalypsis

さくら

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errare humanum est

viginti unus

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  問われても記憶は無い。だが、本来の天弥の記憶から何をし、何をしようとしている人物かは知っていた。
「記憶は無いと聞いていたが?」
 後少しで手が届きそうな距離で目の前の老年を思わせる人物が足を止めた。
「サイラスくんから……?」
 言われたとおり、記憶はない。今あるのは、本来の天弥の記憶なのだ。
「記憶の有無はどうでもよい」
「でも……」
 知識としてしか知らない状況では、判断が出来なかった。
「なら、取引といこうじゃないか」
「取引?」
 恐怖よりも好奇心が勝った。
「好いた男と、誰はばかること無く一緒にいたくはないか?」
 意味が理解できずに、天弥はジッと相手の顔を見つめる。
「お前の身体は、まだ残っている」
「え?」
 予想外の言葉に混乱をきたす。自分が何者かは知っていたが、すでに死んだものと思っていた。
「身体だけで、中身は無いような感じだが、一度は出来たのだ。戻ることも可能だろう?」
 それが本当ならと誘惑に支配されていく。
「冬眠のような状態で生き続けている。年も取らず昔のままだ」
「本当に?」
 問いかけても、何の返事もなかった。これ以上、情報を与えずに判断させようとしているのだ。どうすれば良いのか分からなかった。斎は傍に居ない。一人で判断してそれが間違いだったらと再び恐怖が心を支配しだした。このようなことになるなら、全てを話しておけばよかったと後悔をする。
「先生……」
 斎はどちらを望むのだろうかと考えてみるが分からなかった。おそらく、この取引に応じれば混乱と恐怖が支配することになる。それでも、何の憂いもなく斎の隣に並べるようになりたいと望んでしまう。
 悩んでいる天弥の耳に自動車のエンジン音が聞こえてきた。それは近づくとブレーキ音に変わり、家の前で見慣れた一台の車が停まる。
「邪魔が入ったか……。返事は今すぐでなくてもよい」
 忌々しそうな声で男が告げる。
「だが、あまり長くは待てない」
 車のドアが開く。
「次は良い返事を期待している」
 ドアが閉まる音がした。
「ではまた。由香子」
 向かってくる斎とすれ違おうとして歩き出す姿を声もなく見つめるしか出来なかった。
「天弥!」
 斎の姿が視界に入り、思わず涙が浮かぶ。
「先生……」
 強く抱きしめられ、恐怖に支配されていた心が少し落ち着きを取りもどした。すぐに、ここが外であることに気が付く。
「僕、大丈夫です。だから……」
 斎の腕の中から逃れようとする。だが、逃れることが出来ないほどの強さに、諦めを覚えた。
「今のは?」
 答えるべきなのか悩む。適当に道を聞かれただけだと答えてもすぐに嘘だと気が付かれてしまうだろう。
「羽角恭一郎。祖父です」
 天弥の答えに斎の表情に驚きが浮かぶ。
「今のが……?」
 紳士然とした人物だった。服装などもきっちりとしており、一分の隙も無いクラシカルなスーツ姿のように見えた。
「はい……」
「それで、何を? 何をしに来たんだ?」
 すべて話すのが良いのは分かっている、だが、この浅ましい想いを斎に知られるのは嫌だった。
「天弥?」
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