apocalypsis

さくら

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errare humanum est

sedecim

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「それなら何が?」
 完治ではないのだろうが、身体が大丈夫だと言うのなら、何を回復させたいのかが分からなかった。尋ねてみると、天弥は無表情になった。
「先生は、僕のものではないから……」
 無表情のまま、感情の籠もらない視線を斎に向ける。声音だけは、少し差見そうな感じがした。
「話せないのか?」
「そうですね」
 答え終わると、差し出していたおかずを口に入れた。そのまま、無言で弁当を食べ続ける。これ以上は何も聞き出せないと思い、樹も残りの弁当を食べ始めた。
 昼休みの終わりを知らせる予冷が鳴るまで、二人は無言で過ごす。予冷が鳴ると天弥は立ち上がった。そのままドアへと向かう。
「それでは、戻ります。また、放課後に」
「あぁ」
 天弥はドアを開け廊下へ出ていった。静かにドアが閉まる。そのドアを斎は見つめた。以前と変わらぬ日常が戻ったと錯覚してしまいそうになる。軽くため息を吐くと、教材を手にし斎も部屋を後にした。

 放課後、宣言した通り、天弥がやってきてソファに座っている。どう声をかけたらよいのか分からず、斎はなにか行動をおこしてくれるのを待つ。だが、待てど暮らせどなにも起こらず、天弥はソファに座り続けていた。
「帰るか?」
 痺れを切らし、帰宅を促す。だが、返事は無かった。
「天弥?」
「はい?」
 天弥の視線が斎に向けられる。
「どうする? 帰るのか? それともどこか行きたいところはあるか?」
「どちらでも構いませんが?」
「それなら、海でも見に行くか?」
 以前、一緒に行った場所へ連れていけば、なにか思い出すかも知れないと一縷の望みを持つ。
「先生が行きたいのなら」
 天弥の視線が斎から逸れる。
「なら、行くか」
 斎は立ち上がり、帰り支度を始めた。天弥も、ソファに置いた鞄を手にする。斎は天弥を見つめた。回復の目的があるのは知っているが、それ以外になぜ、この天弥は共にいようとするのか検討が付かなかった。回復だけなら、必要なときだけで良いはずだ。
「なにか食べたいものはあるか?」
「ありません。先生が好きなもので大丈夫です」
 食べることに興味が無いと言いながらも、誘いを断らない。
「そうか」
 家へ連絡すように言ったときの態度から、義理の母親とあまり良い関係には思えず、家に帰るのを嫌がっているのかと思えた。
「遅くなるとご家族が心配しないか?」
 天弥の視線が、再び斎へ向けられる。
「家族? 僕の家族は一人だけです」
 確かに父親だけが血の繋がった家族なのだろうが、共に長い年月を過ごしてきたのだろうから、それはもう家族と言っても良いのではないだろうか。以前なら、妹を大切に思い、母親には感謝をしていた。
「そうか。なるべく早く帰すようにする」
「あの人たちは気にしないので、先生も気にしないで下さい」
 長い年月を共に過ごしたのは以前の天弥であり、この天弥はそうではないのだと気が付く。
「そんな訳にはいかないだろう」
「そうですか」
 どうでも良さそうな声音で答えると、斎から視線も反らす。
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