161 / 236
errare humanum est
duo
しおりを挟む
メールの画面を消し、携帯を助手席へと抛ると車を発進させた。考える暇も無く自宅へ到着し、車をガレージへ入れ玄関へと向かった。家に入るとすぐにキッチンにいる母親に帰宅を告げ、自室へと向かう。
部屋に入ると椅子に座り、手にした鞄を机の上に置いた。シャツの胸ポケットから煙草の箱とジッポーを取り出しながら、一週間の出来事を注意深く思い返す。箱から取り出した煙草を咥えて火を点けると、天弥と再会した先週の月曜日の事を注意深く探る。最初に現れたのは本来の天弥だという存在であり、斎のせいで自分は苦しいのだと訴えた。理由を尋ねたが知る必要は無いと言われ、殺されかけた。
吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出すと、また煙草を咥える。普段の天弥と入れ替わったおかげで一命を取り留めたのだが、もしも本来の天弥のままだったら、間違いなく今ここに存在していなかったと思う。正直、何が切っ掛けで二人が入れ替わるのかが分からない。彼の神が自分の元へと天弥が来るように仕向けてくれるところまでは予想できたが、その先はどうすれば良いのか見当が付いていなかった。
そもそも、別人格ではなく別の存在だという事から理解の範疇を超えている。別の存在が、どうやって他人の中へ侵入することが出来るのか、そしてどうやって他人の身体を使用する事が出来るのかが分からない。もし、それが出来るとするならば、それは理解や認識の範囲を超えた存在であり、それこそ神か悪魔でしかありえないだろう。
だが、神や悪魔という存在ならば普段の天弥よりも、本来の天弥の方がふさわしいと思える。普段の天弥は、泣いたり笑ったり落ち込んだり、あまりにも人間的である。それにたいして本来の天弥は、この世に存在していること事態が何かの間違いなのではないかと思えるほど、現実との認識に違和感がある。あの凄絶な美貌のせいもあるだろうが、人としての存在の範疇を遥かに超えているとしか思えない。それに、よく笑みを作ってはいるが、それは実際の感情とは異なるものだと思えてならない。一切の感情が排除された表情が、一番らしいとさえ思える。
短くなった煙草を灰皿へ押し付けると、天井へ視線を向けた。入れ替わる切っ掛けについて、ハッキリと天弥に確認を取っておかなかった事を後悔しながら、目を閉じた。だが、実際にはその事柄に触れたくなかったというのが事実である。天弥を取り戻したとはいえ、再び失うかもしれないという恐怖が大きかったのだ。
天弥を抱いて、自分のものにしてしまえば不安は無くなるのだと思っていた。なのに不安は膨れ上がり続けた。
ゆっくり目を開けると、視線を机の上に戻し煙草の箱を手にする。慣れた手つきで取り出した煙草を咥え、再び火を点けた。
なぜ、自分には愛する者を失う恐怖が付きまとうのかと考える。そして、絢子の時も天弥の時も、どうすることも出来ないもどかしさに葛藤している。
部屋に入ると椅子に座り、手にした鞄を机の上に置いた。シャツの胸ポケットから煙草の箱とジッポーを取り出しながら、一週間の出来事を注意深く思い返す。箱から取り出した煙草を咥えて火を点けると、天弥と再会した先週の月曜日の事を注意深く探る。最初に現れたのは本来の天弥だという存在であり、斎のせいで自分は苦しいのだと訴えた。理由を尋ねたが知る必要は無いと言われ、殺されかけた。
吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出すと、また煙草を咥える。普段の天弥と入れ替わったおかげで一命を取り留めたのだが、もしも本来の天弥のままだったら、間違いなく今ここに存在していなかったと思う。正直、何が切っ掛けで二人が入れ替わるのかが分からない。彼の神が自分の元へと天弥が来るように仕向けてくれるところまでは予想できたが、その先はどうすれば良いのか見当が付いていなかった。
そもそも、別人格ではなく別の存在だという事から理解の範疇を超えている。別の存在が、どうやって他人の中へ侵入することが出来るのか、そしてどうやって他人の身体を使用する事が出来るのかが分からない。もし、それが出来るとするならば、それは理解や認識の範囲を超えた存在であり、それこそ神か悪魔でしかありえないだろう。
だが、神や悪魔という存在ならば普段の天弥よりも、本来の天弥の方がふさわしいと思える。普段の天弥は、泣いたり笑ったり落ち込んだり、あまりにも人間的である。それにたいして本来の天弥は、この世に存在していること事態が何かの間違いなのではないかと思えるほど、現実との認識に違和感がある。あの凄絶な美貌のせいもあるだろうが、人としての存在の範疇を遥かに超えているとしか思えない。それに、よく笑みを作ってはいるが、それは実際の感情とは異なるものだと思えてならない。一切の感情が排除された表情が、一番らしいとさえ思える。
短くなった煙草を灰皿へ押し付けると、天井へ視線を向けた。入れ替わる切っ掛けについて、ハッキリと天弥に確認を取っておかなかった事を後悔しながら、目を閉じた。だが、実際にはその事柄に触れたくなかったというのが事実である。天弥を取り戻したとはいえ、再び失うかもしれないという恐怖が大きかったのだ。
天弥を抱いて、自分のものにしてしまえば不安は無くなるのだと思っていた。なのに不安は膨れ上がり続けた。
ゆっくり目を開けると、視線を机の上に戻し煙草の箱を手にする。慣れた手つきで取り出した煙草を咥え、再び火を点けた。
なぜ、自分には愛する者を失う恐怖が付きまとうのかと考える。そして、絢子の時も天弥の時も、どうすることも出来ないもどかしさに葛藤している。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる