apocalypsis

さくら

文字の大きさ
上 下
158 / 236
date et dabitur vobis

viginti unus

しおりを挟む
 天弥の言葉に少し不安を覚え、それを遮るように強くその身体を抱きしめた。
「欲しいものがあるなら幾らでも買ってやるし、食いたいものがあるなら幾らでも食わせてやる」
 だから、ずっと傍にと続けようとして、言葉を飲み込んだ。今、この天弥がどれだけ斎と共に在りたいと望んでも、いつか本来の天弥だという存在と入れ替わってしまうのかもしれない。その不安を振り払うかのように天弥を抱き、幾つも約束を重ねてみた。だが、一緒に暮らす約束の後は、明確な答えが返って来なくなった。これ以上、約束を重ねるのは天弥にとって酷な事なのかもしれない、そう考えた。
「食べたいものはたくさんあるけど、欲しいのは先生だけです」
 自分を望む天弥の言葉に、斎は無理やり不安を心の奥底へと閉じ込めた。
「俺は、天弥のものだ」
 天弥は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「僕も、先生だけです」
 本当の天弥ではないと知っても、斎は自分を選び愛してくれた。これ以上、望むものなど何も無かった。
「仕度しますね」
 もう少し、斎の温もりや心音を感じていたかったが、このままではすがり付いて泣き出してしまいそうになり、無理やりその欲求を押し込めた。
 斎の腕の力が緩んだ。天弥は斎の身体に回した腕を下ろし、顔を上げた。視線が合うと同時に軽く唇が重なり合い、すぐに離れた。
 バスルームへ向かうために、天弥はベッドから抜け出そうとして動きを止めた。そして何かに気が付いたかのように慌ててシーツで自分の身体を隠し、斎へと視線を向けた。
「あの……、見ないでください……」
 顔を赤らめながら小さな声でそう言うと、天弥は俯いた。
「何でだ?」
 天弥の様子に斎は嗜虐的な感情を少し揺さぶられ、聞き返す。
「は……恥ずかしい……から」
 羞恥に染まった表情で、俯いたまま天弥が答えた。
「今更、恥ずかしがることなんてないだろ?」
 天弥は耳まで赤く染まり体温が一気に上昇する。
「でも……あの、お願いします……」
 俯いた天弥の今にも泣き出しそうな表情に、斎はその頭を軽く撫でると立ち上がった。天弥に背を向けると、窓際にある机と椅子に向かい、シャツの胸ポケットから煙草の箱を取り出す。急いでバスルームへと向かう天弥の様子を音で確認しながら、咥えた煙草に火を点けた。
 
 すぐに日付が変わり月曜日が目前だという時間、天弥は一軒の家の前で立ち尽くし二階の窓を見上げていた。そこにはまだ明かりが灯っており、部屋の主がまだ起きている事を告げていた。先ほど、いつもと変わらない就寝を知らせるメールを送ったが、いつもと変わらず返事は来なかった。きっとまた、本を読むのに夢中になっていて気が付かなかったのだろうと思う。
「ほんまにええんか?」
 背後からかけられた声に天弥は振り向き、声の主へと視線を向けた。
「今ならまだ、止められるで」
 夜目にも鮮やかな金の髪をなびかせているサイラスに向かって、首を横に振った。
「先生と一緒に逃げればええやん」
 天弥は再び斎の部屋を見上げた。
「サイラスくんからは逃げられるけど、神さまからは無理でしょ?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...