apocalypsis

さくら

文字の大きさ
上 下
153 / 236
date et dabitur vobis

sedecim

しおりを挟む
 昼休み、昼食を取りながら斎は妙にテンションの高い天弥に違和感があった。いつもの物静かな受け身とは違い、かなり積極的にしがみ付き離れようとしない。口数も多く、まるで時間を惜しむかのような印象を受ける。
 昨夜も、電話をしている途中で反応がなくなってしまった。眠ってしまったというのは簡単に理解できたが、そうなるまで天弥が会話を続けたことが以外だった。普段はあまり会話が続かず、電話はすぐに終わりを告げてしまうのだ。
 斎は自分に向けられている視線を感じ、天弥を見た。
「どうした?」
 じっと自分を見つめる天弥に向かい、声をかけた。天弥は斎に笑顔を返す。
「先生、放課後ドライブに行きたいです」
 絶対に変だと斎は思う。今まで、天弥から放課後や休日の希望を言ってきた事などなかった。
「どこか行きたい所があるのか?」
 天弥が少し考え込む。
「えっと、海とか夜景とか見たいです」
 その答えに、さらに疑問を持つ。天弥はどちらかといえば食い気が優先で、そのようなデートの定番のような場所を望んだ事は無かった。
「じゃあ、海でも見に行くか?」
「はい」
 嬉しそうに微笑みながら答え、天弥は再び弁当に箸を付ける。
「あ、先生。女の子が喜びそうな物って分かりますか?」
 箸を持つ手が止まり、何かを思い出したかのように、天弥が尋ねる。なぜ、女の子の喜びそうな物を自分に尋ねるのかと斎は少し苛立ちを覚えた。
「女の子って?」
 苛立ちと、問い質したい気持ちを押さえ込み、斎は平静を装った。
「もうすぐ、花乃の誕生日なんです。プレゼントは何が良いのか、まったく分からなくて……」
 斎の感情が落ち着く。
「土曜日にでも色々見てみるか?」
「ありがとうございます」
 さらに斎に寄り添い、天弥は嬉しそうに礼を述べた。
「そういえば、先生の誕生日っていつなんですか?」
 斎の顔を見上げ、天弥が尋ねる。
「俺は四月だから、もう終わっている」
 その言葉に、天弥は残念そうな表情を浮かべた。
「天弥はいつだ?」
 斎は自分の弁当のおかずを天弥に差し出しながら尋ねる。
「二月なので、僕も終わってます」
 答えた後、天弥は自分に差し出されたおかずを口に入れた。
「なら、来年は今年の分も一緒に祝うか」
 返って来た斎の言葉に、天弥の表情が一瞬愁いを帯びる。その表情を見逃しはしなかったが、理由が分からないため問い質す事はしなかった。天弥は斎の言葉に答えることなく、弁当に箸を付けはじめた。
 あきらかに天弥の様子がおかしい事は分かるが、それに対してどう対応すべきか思い悩む。そもそも、天弥の様子がおかしい原因は何なのかを考えてみる。
 最初は、離れていた間の時間を埋めようとしているのかと思ったのだが、誕生日の話の時はそれとは感じが違った。
「はい」
 天弥の言葉と共に差し出された玉子焼きへと、斎は視線を移した。口に入れたそれは、いつもと変わらない恐ろしいほどの甘さをしている。黙って玉子焼きを食べる斎を、天弥は嬉しそうに見つめた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

このつまらない世界に風穴を

阿波野治
ホラー
この世界はつまるところ、つまらない。そんな世界でミクは希望を見出だした。

剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―

三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】 明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。 維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。 密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。 武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。 ※エブリスタでも連載中

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

処理中です...